40日目

洞窟での会話…その2


【大戦は…自由奔放に振る舞う悪魔、それを許さない神、とある失敗作をダウングレードして作り出された神の道具である天使、静観を決め込む精霊…】


私は首を傾げる。


「あれ…人間は参加してないの?魔物は??」


【人間は神にとっての奴隷。悪魔にとっては玩具。魔物はこの時点では存在していません。】


【けれど。】と私が疑問を投げかける前に、ルーレットの女神は、言葉を続けた。


【大戦が始まるきっかけを作ったのは、1人の人間と…1柱の女神でした。】


……


オルンとの会話といい、気づいたら精霊国に着いていた事といい、色々と思う所がない訳じゃないけれど…考えるのは後でいいよね。


「幸い今は夜。貴重な行動チャンスを見逃す程、バカじゃないのさ…早速、精霊国に行きましょ〜」


どんな場所なのだろうと、湧き出すワクワク感を胸にそっと秘めつつ、私は歩き出す。


【え、ちょっと待って下さい!】


門を通る直前で、足を止めた。


「え…どうしたの?」


【…その格好で行くつもりですか?】


「………あ。」


そうじゃん。私、今…マッパだったわ。でも…


「っ、ここまで来て…引き返せと!?」


【いえ。そういうつもりで言った訳ではないのですが…第一、吸血鬼が持つ『物質創造能力』を使えば解決でしょう?】


「そ…それは。」


コイツ…無意識なのか、私の劣等感を的確に抉ってくるな。


私は心を落ち着かせて、表情を取り繕う。


「うーん…悔しいけど、一度、撤退して、適当な葉っぱを使って服を作ろう。」


【あらら。やっぱり…出来ないんですね?】


「うっさい!!!吸血鬼の能力に頼りっぱなしだと、いつまで経っても、各種技能ツリーが成長しないんだよ!!!!」


ダメだ…どうしても、ルーレットの女神が相手だと、感情のコントロールが出来なくなる。


【それ…ゲームの話ですよね(笑)】


「ムッキィィィ——!!!!!」


【煽ったのは私ですが…そんなに怒ると、周りにいる精霊を怖がらせてしまいますよ?】


「はぁ!?こんな時間に活動してる精霊…なん……て。」


「「………」」


ゆっくりと横を向くと、少し離れた位置に2人…少女がいる。


黒髪の少女は怯えてしゃがみ込み、ピンク髪のツインテールの少女はそれを庇うように前に立ち、黄色いリボンが巻かれた杖をこちらに向けていた。


「精霊国に何の用で来たのかは知らないけど、ここで、大人しくやられなさい。この…へ、変質者っ!!!」


私に出来る事は、すぐに、このバッジを見せる事…!私は1度、白い精霊と戦った事がある。


(私も含めて)『原初の魔物』全員をまとめて、フルボッコにされたその経験上、強大な魔法は詠唱が必要…大丈夫。絶対に間に合う。


そう結論付けた時には既に、その周りに6つの魔法陣が浮かび上がり…拳くらいの火の玉が、1秒単位で1ダースくらい私に向けて放たれていた。


「無詠…ぶぁっ!?!?」


「連続複製式発動魔法陣…これは、魔法陣が壊れるか私の魔力が尽きるまで、無尽蔵に放たれ続ける…最近、学校で学んだ連続発動魔法理論と複製魔法陣理論の応用…合わせ技よ!!」


キメ顔で何か言ってるみたいだけど…爆音で何も聞こえないよ!?


全身をこんがり焼かれながら、私は全力で駆け出し、偶然近くにあった岩陰に身を隠した。


「イテテ…精霊って、アレだけがおかしいと思ってたのに皆、あんなに強いの!?」


【…ふぅ。あぁ…彼女は、後に次代『精霊王』になるウイですね。この時点でも、正面切ってのタイマンなら、オルンを打ち負かすくらいの本物の天才です。】


はぇ〜……そう。


「あのぅ…奇跡的とか起きれば…ワンチャン、勝てたりとか…」


【無様に逃走する事を勧めます。コーヒーを継ぎ足しに行くので、私は1度離席しますね…頑張って下さい。】


「おい、ルーレットの女神コラ!!!!まだ、勝負はこれからだぞ!!!!」


岩が溶ける音を聞きながら、私は自分の頬を叩いた。


「ネガティブは終わり…ここからは、ポジティブに行こう!!!」


…幸い、辺りはウイとやらの炎で明るくなっている。9つある、私の奥の手の1つが使える絶好の機会だ。


私は目を閉じて、心を無にする。


これは母様の見よう見まねで、編み出した私だけの、9つある奥の手の1つ。


…だと深淵にいた頃まではそう信じて疑わなかった。人間に先を越されていたのは少し癪だったけど、この名前の方が通りはいいだろう。


「…『影渡り』」


……



(よし、魔力はまだまだ沢山ある。)


遮蔽物だった岩が完全に溶け、私は勝利を確信した。


「…ウイ!」


万が一の事を考えて、私から距離を取らせていたスロゥが、珍しく大きな声で何かを言っていた。


「…ろ。」


「…?もう大丈夫よ。これから、あの変質者を消し炭に…」


よく聞こえなかった、私は魔力操作で、自分の聴力を強化する。



——後ろ!!



瞬間…出現させていた6つの魔法陣を解き、杖で背後に向けて、魔法を行使しようと思考を巡らせるが……


「はい、私の勝ち。」


「…っ!?」


いつの間にか背後にいた変質者に、ぎゅっと抱きしめられて、そのまま唇を奪われたショックで、私の思考が停止した。























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