8日目

家に入ってから数分…最後に残った2階にあった部屋に入ると、壁に僅かに色褪せた1枚の写真が、大事そうに貼ってあって…それを手に取って確認する。


「僕の隣にいる、この人…は、ぁ…ぐっ…ぁぁぁぁあ!!?!?!?」


その人を思い出そうとして、僕の頭に激痛が走り…全て、思い出してしまった。


……


前を見ても後ろを見ても、あの女性が連れて来た大量のゾンビ達…正に、絶対絶命の大ピンチだが、私はどんな局面でも、絶対に助けを呼ぶ訳にはいかないのだ。


そりゃあ、まあ…母様の子供だからという矜持でもあるけど……もっと、別の理由がある。


「…あれ?」


しかし、いつまで経っても一向に襲いかかる気配もなく、何かの設営を始めていた。


「……」


私は車から出て、近くで忙しなく運搬作業を続けるゾンビの一体に声をかける。


「何してんの?」


「ブォァァア…」


作業の邪魔をしたからなのか、嫌そうな顔をされた。仕方なく、テキパキとゾンビ達へ指示を送っている、黄色いローブを羽織る女性の元に向かう。


「あのぅ…私を捕まえるんじゃないの?」


「Kill!!!」


「あっ…はは。」


こういう話の通じないバーサーカータイプは、旅先でも割といたけど…これは極め付けだな。


「Kill.Kill.Kill…Kill.」


「ウィー」


「ボォア…」


「ギャババッババ」


特に何もして来ないからと言って少年の様子を見に行く事も出来るけど、少年の事をあちらも知っている場合…コンタクトさせる事こそが黒幕の真の狙いかもしれない。


人間は誰だって出来るのなら、1度で全て終わらせたいと思う連中だしね。


だから私はあえて逃げずに路上に三角座りで座り(スク水だし、真夜中だしでお尻が冷たい。)、その様子を(ゾンビの癖して手先が器用だなぁ…なんて思いながら)眺める事にした。


それから数分とかからない内に、ノートパソコンくらいの大きさのディスプレイと2台の照明器具が完成して、女性がわざわざ、私の前に運んでくれた。


「Kill… Kill……先輩!!!!」


「うわぁ——!?な、何?眩しいんだけど…」


次の瞬間、真っ暗だったディスプレイに中年っぽい男が映る。


『いい夜だな…羞恥心壊滅女。』


私の中にある母様の【禁】が彼こそが、この世界の敵…黒幕だと、私に理解させてくれた。


「嘘。それ……私の事?私には、母様がくれたノエルって名前があるんだけど。」


『気分を害したか…なら、今後はノエルと呼ぶとしよう。生憎、こちらは雑談をする為に接触した訳ではなくてな…単刀直入に聞くが、あの少年…福沢…違うな。阿達あだち てるは、この場にいるか?』


「あ、あー…」


『なら話が早い。すぐに居場所を教えろ。そうすれば、ノエル…お前の事を見逃してやってもいい。』


やるな…人間の癖に。私のポーカーフェイス(笑)を一瞬で見破って……んん?見逃す?


『大方、2人で日本から脱出しようだのと思ったのだろう?』


ギクッ……


「そ、そ、そ……そんなコト…ナイアルヨ?」


『はぁ…我輩が干渉するしないに関わらず、それは不可能だ。国連では日本で生存している者は皆、保菌者と認識されている。問答無用で、他国に撃墜されるのがオチだ。』


私は目をぱちくりした。


「…マジで?」


『信じられないだろうが、忠告はした… 阿達あだち てるを連れて来てくれた後、好きに試すといい。』


「……。」


自分の保身を優先して、少年を黒幕へ引き渡すか…それとも。はっ…そんなの、とっくの昔に決まっている。


「うん…分かった。彼を連れてくればいいだね?一応、確認するけど、そうすれば…私はマーキングされずに済むって事でいいよね?」


『そうだな…2度とこちらからは、干渉しないと誓おう。よし、交渉成立だ…服装はともかく、話の通じる奴で助かった。』


「む…余計な事言うなし。」



——さて…名残惜しいけど、やりますか。



私は立ち上がり、黒幕が映るディスプレイに背を向けて…全てを終わらせるべく、少年がいるであろう家へ向かう。







































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