7日目

製薬会社某所


何十回と繰り返し再生していた、銀髪の女によって、無人ヘリが破壊される寸前までの記録映像を途中で止める。


「やはり…面白い。」


数少ない無人ヘリを破壊されたのは痛いが、それ以上に得られるものがあった。


「よもや、あんな場所に【不死叡賜ふしえし】の『完全適合者』が、発生していたとはな。」


映像を再度再生。銀髪の女の体を貫通した弾丸が、後ろにいた少年に直撃し、生物的に死んだ筈だというのに…かなりゆっくりとだが、傷が癒えてゆき、再生するのを眺める。


何処から湧いたか知らない銀髪の女よりも、この少年の捕獲の方が、優先度が格段に上となった。それが分かっただけでも大きな収穫だ。


「相手は、我輩が待ちに待っていた『完全適合者』。アンノーンではつまらん。制服的に、例の中学だろうから、生徒名簿でも少し調べておくか…む?」


不意にスマホが鳴って、内容を確認する。


「連中…旅館に侵入したのか。なら暫くは問題ない…今のうちに、あちらへ『助手』を向かわせるとしよう。」


何としてでも、アレを入手しなければ。


……



あの後…少年が目覚めてから、私は全てを打ち明け誠心誠意、謝罪した。許されるのなら、土下座でも何でもするつもりだったけれど、少年は、やけにあっさりと私の事を許してくれた。


『僕にそれを伝えてくれたという事は、罪の意識があったって事だよね。今はいがみ合うよりも、協力して生き残らないといけないし、怒るつもりはないよ…むしろ、教えてくれてありがとう。』


『ガハッ…!?』


『ノエルさん、大丈夫ですか!?』


『え、ええ!?あ…あー……それ程でもないかなぁ〜なーんて!おっと、口の中を噛んで、吐血しちゃったよ、うん。』


『……?』


こんな状況になっても尚、未だに善性を保ち続けている事に、人間の敵だからなのか、私は酷く驚いたものだ。


「よし、最終確認終了〜それじゃあ…行こっか。助手席に乗ってね。」


「…うん。」


その問答の後…夜になってから中学校の駐車場にあった適当な黒い車をちょっとピッキングして、華麗に車を獲得。少年と共に必要な荷物を収納して、車を出して中学校を後にした。


「…さよなら。」


「……。」


まず少年の数少ない記憶を辿り、何とか自宅を見つけてパスポートといった身分証を入手してから、数日かけて、空港へ向かいそこから海外へ高飛びするっていう寸法だ。


重い空気をなんとかするべく、私は(わざと)陽気に振る舞う。


「私が言うのはおかしな話だけど…本当に良かったの?」


「あの辺りの食糧も少なくなって来てたから。どの道…あそこからは出なければいけなかったんだ。それにジャンケンで僕は負けたから…従うよ。」


「へー……そ、そう。」


折角だから、体操着以外にしよう更衣室をくまなく探したけど、ろくな服がなくて偶然、見つけたスク水(ゼッケンに『橘』と書かれていた。ここまで来ると、呪いか何かかな?)を見つけて着てるのに、何も突っ込んでくれない。


第一…少年には、死んでいた記憶が……っ。


「あっ、多分…ここだと思う。」


「……っと。危ない危ない。」


私はブレーキを踏んで、車を止めた。家の表札には【阿達あだち】と書かれていた。


少年は傘(大事な物なのかな?)を持って、シートベルトを外し、外に出る。


「さあ、深夜のドライブを開始して、かれこれ2時間47分も経過…16回目の挑戦になる訳だけど…」


「う…今回も確証はないんだけど、何となくここだって思ったんだ。また違ったらすぐ戻るから、ここで待っててくれないかな。」


「またまたぁ〜君、記憶喪失なんだから、部屋の場所とか分からないじゃないんですかぁ?ゾンビもいるかもだし、私も一緒に行ってあげようか…戦力外だけど☆」


「あはは。その時はすぐに逃げるから大丈夫…行って来ます。」


「はいはい…気をつけてね。」


私くらいの吸血鬼になると、他人が許可とかしなくても勝手に入れるんだけど、思春期の男の子の部屋であろう場所へ、土足で行くほど私は馬鹿じゃないのさ。


「さて…行ったかな。」


幸い、ここに来るまでにゾンビとは1体も出くわさなかった。周辺には誰もいない。それよりも私の事だ。


「ゲホっ…まあ、見栄くらいは張れたかな。」


車のハンドルに吐血した私の血は蒸発するように消える。


無理を通す時だったとはいえ、あんな肉片で、無茶して奥の手を使い、血液を大量に消費した反動が…今も私の体を蝕んでいる。


こんな状態で、また黒幕がやって来て、奥の手を使わざるを得ない状況に陥ったら…


「…そろそろ、旅の終わりが近いかもね。」


少年の再生能力は未知数であり、次傷つけば、再生しない可能性もある。


まあ大前提として、完全に癒す為には…少年1人だけじゃあ、足りないんだけどね。


「にしても…遅いなぁ。少年…何をしてるのやら……?」


街頭は元々壊れていて、車のライトはちゃんと消しているが、一応は吸血鬼な私にはくっきりと人影が見えて……ゾンビが不自然にいなかった理由を、察した。


「マジかぁ。一度は退けたから、まだ来ないと思ってたのに…この世界の黒幕さんは私達如きに、ここまでするんだ。こっちとしては勉強になるんだけど…う〜ん。」


最前列で、前と比べるのがアホらしくなる量のゾンビを引き連れて歩く、黄色いローブを羽織った黒髪の女性と車内で目が合う。


「あのぅ…まだ、ハロウィンじゃないぞ!?」


いつか誰かとプレイした、ホラゲーの敵よろしく、狂気的に微笑んでいた。























































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