6日目
吸血鬼の死因の約8割は、勇者やハンターなどに討伐されて殺されるのではなく、ある特定の血液型以外の人間を血肉を食した場合に起きる、アナフィラキシーショックである。
大蒜が嫌い。十字架や太陽に弱い…そういった吸血鬼における弱点は、上位の吸血鬼ならば、ある程度、適応可能。
そんな吸血鬼達でも、AB型以外の人間を食べると、強制的に即死する…しかし食べる事さえ出来れば、少量であれ一時的に、絶大な力を得る事が出来る。
正に…ハイリスク&ハイリターン。
これは『原初の魔物』にして、全ての吸血鬼の真祖であるノエルが、AB型の人間の血肉が好きで、それしか食べない極度の偏食家であった所為であり……
——無論…彼女もその例外ではない。
……
…
1…2…3……
魔眼といった能力を使用するには、この量じゃ足りない…だから、今の私に出来る全力で…破壊するっ!!
4…5…6……
小さい肉片だったとはいえ、下がっていた再生能力は完全に復活した。容赦なく銃弾が私を抉り続けるよりも早く肉体が再生する中…私は体内の『血流操作』に全神経を集中させる。
7…8……
血液の80%を右腕に集中しながら、圧縮…凝縮させて、その手をグーの形に変えて攻撃を行い続けるヘリコプターに構えた。
9。
これは母様の見よう見まねで編み出した、私だけの、9つある奥の手の1つ。
…だと深淵にいた頃まではそう信じて疑わなかった。人間に先を越されていたのは少し癪だったけど、この名前の方が通りはいいだろう。
「『ロケット・パンチ』っ!!!!!」
右膝を左手の手刀で切断。結果、限界まで圧縮、凝縮されていた血液が解放。
音速を超えた速度で、右腕が操縦席を軽々と貫通し…
「あっ。これ避けられ…ギャァァ——!?!?!?」
ヘリコプターが教室内に墜落…爆散した。
……
「…ふぅ。」
荒れ果てた教室の中…何とか肉体が完全に再生したのを確認して、私はホッと一息つく。
かなり危ない賭けだったけど、結局は私の大勝利に終わった。流石は私…ってね。
「服もこんなにボロボロ…なんて可愛げのある感じじゃないよね、最早これ。」
いくら肉体は再生しようとも、町での戦いや、機関銃の攻撃やらヘリコプターの爆散で、ついに体操着も
つまり、また裸に逆戻りという訳だ。
「ふ…服。探さないとなぁ…っしゅん!!!!」
…あれれ?戦いに夢中になってて…何かを忘れているような。
「あっ…少年!?」
私は後ろを振り返ると、傘を守るように体を丸め、全身に酷い火傷を負って倒れている少年がいた。
「も、もしもーし。生きてます?……っ。」
必死になって、何度も救急措置を続けても呼吸はなく、心臓も動かなかった。
1時間後…私は立ち上がる。
「そうだね。君にはこうして助けられた恩もあるし…せめて、埋葬くらいはしてあげるよ。」
……
…
私は少年を持って、廊下を歩く。
「知ってるかい…私は吸血鬼で、悪い魔物なんだぜ?」
少年に友好的な態度を取った理由は、血液型を知りたかったから。
AB型なら良し。それ以外でも…この世界の情報が知れるだろうと思っていた。けど実際は、記憶喪失で、私にとって使い物にならない奴だった。
「………。」
一緒に海外に行こうって言った理由は、私の盾になって欲しかったから。
黒幕に狙われてしまっている以上、肉壁はあればある程いい。だから、あんな事を言って少年を焚き付けた。
——旅は道連れ世は情け。
「あ…そっか。私は少年の境遇に同情してたんだね。もっと早くに…気づけば良かったな。」
そう思いながら外へ出ると朝なのに、分厚い灰色の曇が、空を覆っていて、吸血鬼にとっては最高の天気だった。
「なのに……なんでだろ。」
こんなにも気持ちが落ち込んでいて、今にも泣きそうになってるのは……何故だろう。母様なら分かるのかな?
「……。」
……生き返らせる事だけなら簡単だ。その首筋に牙を突き立てて、少年を吸血鬼にしてしまえばいい。
けれど、それは人間を捨て、2度と太陽の下に出る事も出来ず、こんな世界でAB型の人間を探し当てなければならない。彼にとって、死んだ方がマシの…地獄の始まりを意味する。
『吸血鬼最大の汚点!!!!』『恥知らず!!!!!』
「それでも…私は。」
だからせめて…恨まれようが拒絶されようが側にいよう。吸血鬼としての生き方を私が死ぬまで、教えてあげよう。
「ぐぅ…ぐぅ……」
「えっ…えぇ?」
首筋に牙を突き立てようとした、私は驚いて目を見開く。
何せ、少年の右肩の傷や、火傷跡がまるで最初からなかったかのように消え失せていて、私の気も知らないで、呑気に寝息を立てていたのだから。
「……は。」
訳が…意味が分からない。状況に脳が追いついていない…けど、決めた。
彼の目が覚めたら、君に…さっきの事を全て、打ち明けよう。
そして…その上で今後の事を考えよう。
「よっしネガティブ終わり!さて、まずは…」
いつまでも素っ裸なのもアレだし、どっかから新しい服でも、探すとしますかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます