第2話 群がる鳥たち

 生き物の鳴き声が聞こえ、目を覚ます。

 私の作った釣り場こと池には、複数の鳥が集まってきていた。

 ガーガー、グァグァと鳴く白いアヒルに、その子供と思われる黄色い子供。その他に、青や赤、灰色なんかもいて異世界らしくカラフル。

 これだけ種類がいれば「みにくいアヒルの子」の鳥のように、色が違うことでいじめられる子もでないのではないだろうか。


(それにしても、こいつらはどこからやってきたのだろう。近くに他の水場でもあるのだろうか?)


 そんなことを考えながらぼんやりと鳥たちを眺めていると、必死にくちばしを水の中に刺しこんでいる。どうやら私の呼び出したメダカを食べているようだ。少しばかりムッとして追い払ってやろうかと思ったが、メダカはまた呼び出せばいいかと思いそのまま放置することとした。



 さて。目を覚ますと鳥たちがいたので、そちらに意識が向いてしまったが、気絶してしまった原因を特定しなければならないだろう。

 十中八九いわゆる「魔力切れ」のような感じだと思うが、前兆がなかっただけに断定はできない。

 確認するためには再度同じことをしてみればよいわけなのだが、おそらく繰り返せば気絶するであろう行為を平気で行える性格ではない。多くの人間は私と同じ考えだと思う。普通は躊躇してしまうはず。

 とはいえ、やらなければ知ることは出来ない。


 少しだけ悩んだ後「やるなら早い方がいい」ということで、再度釣り場の能力を使い続ける。やると決めたら早いのが、私の数少ない長所の一つだと思っている。


 せっかくなら鳥たちのためにメダカを呼び出そうと思い、繰り返す。

 すると、私の近くからメダカが出てくるのを理解した鳥たちが、勢いよく近づいてくる。見た目から普通のアヒルとかだと思い込んでいたが、ここは異世界。普通ではなかった。

 ものすごい勢いで足と羽を動かし移動する速さは、まるで子供の乗る自転車のよう。そのままぶつかれば、当たった個所が怪我をしてしまうだろう。


 危険を感じ慌てて逃げようとしたが、草に足を取られ尻もちをついてしまう。(やばい!)そう思って顔の前で両腕をクロスさせ、目を瞑り衝撃に備えたが一向に痛みが襲って来ない。


 どうしたのだろうと恐る恐る目を開けて見てみると、私の周囲に透明の壁のようなものがあるらしく、それによって鳥たちの突進は止められていた。


「どういうことだ?」


 何が起きているのかわからず、しばし悩む。

 頭を働かせながら、ほんの少しだけこのバリアのようなものが突破されないか心配していたが、今のところ壊れる感じはしない。こんな不思議なことは間違いなく能力であろうし、神とのやりとりを思い出す。


 思い当たるのは「のんびり釣り」の『のんびり』の部分だろうか。

 外敵を気にせずいられなければ「のんびり」とは言えないはず。

 他に思い当たるのは「いい感じに調整」という部分。しかしこれは、あくまで調整であって能力ではなさそう。

 となれば、やはり「のんびり」の方だろう。実にありがたい能力を付与してくれたものだ。


 ほっと一息つくと、改めて池へ近づきメダカを呼び出す。

 鳥たちはそれなりに頭が良いのか、私に近づくことが出来ないことを理解したようで、大人しく五十センチ程度離れたところで待ち受けることにしたらしい。

 見ていると灰色の子は捕るのが下手なようなので、出来るだけそちらへ向けてメダカを出す。ダメな子ってのは、なんとなく気にかけてしまうものだ。


 そんな感じでメダカの呼び出しを繰り返していると、またしても能力が成長したような感覚になる。

 しかしながら新たな魚のイメージがわいてこない。なぜだろう……。


 一度手を止めて考える。

 魔力的な物がなくなったのであれば、おそらく気絶するはず。だが、そうなってはいない。最初の仮説が間違っていたのだろうか?


 他の可能性としては、魚の呼び出し以外の成長が必要だったりという場合。

 考えてみれば、小さな池にクロマグロを呼び出せたとして釣りが可能かと言われれば、それは無理だ。水質も違うし。今のは極端な例だが、魚に対して適切な水場が用意できなければ呼び出せないと仮定すれば今の状態の辻褄が合う。


 これがダメだった場合「釣りの経験が足りない」、「釣りの能力も育てなければならない」ということもあり得る。こちらの場合だったなら、少し時間が掛かりそうだ。もちろん「釣り」という行為自体が、かなり時間を必要とするものなのだが、理由は他にもある。

 神とのやりとりでは「のんびり釣り」なんて言葉にしたが、実は大人になってからはほぼ釣りをしていない。ついでにいうと、別に釣りが趣味と言うわけでもない。子供の頃友人と多少やっていたり、家族に連れられて経験した程度の素人だ。ただ単純に「のんびり」というイメージをして最初に出てきたのが「釣り」だっただけなのである。


 とにかく、まずは試しやすい水場作りから行う。

 頭の中に浮かんでくる水場は最初より成長しているようで、一度に設置可能なサイズは十二メートルほどの小学校低学年用プールまで広がっている。

 それを、ポン! ポン! と生み出しているとまたしても意識を失ってしまった。


 二回目ともなると、直前に「あっ! まずい!」と気づくことが出来たけれど、ギリギリすぎて何の役にもたたなかった……。

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