第3話 人との出会い
誰かに肩を揺すられている。
目を覚ますと、目の前に防具を身に着けた男性がいた。その他にも数名同じような人がいて、囲まれているようだ。
「大丈夫か?」
目の前にいた男性から声をかけられた。
「あ、はい。大丈夫です」
「そうか。なら良かった。落ち着いたら少し話を聞かせてほしい」
「話ですか?」
「うむ。前回の見回りではなかったはずの池が、突然ここに出来ているのでな。巡回中の我々としては、調査する必要があるのだよ」
「わかりました」
「では、少ししたらまた声をかけるので頼むな」
そういうと屈んでいたその男性は立ち上がり、仲間の方へ行くと指示を出し始めた。どうやらリーダーだったようだ。
改めて見ると、周りの男たちに比べて少々年齢が上のように感じる。白人かつ髭があるのではっきりとはわからないが、肌の感じから、以前の私よりも少々下といった感じ。三十代。働き盛りといったところか。
座ったまま周囲を確認すると、男たちの数は全部で五名。
手には身長よりもやや長い槍を持ち、身に着けている防具は革と金属で作られていて、首の下辺りに皆同じような紋章が刻まれている。
先ほどの話しぶりからして兵士たちのようだ。ならば近くに町があるということか。あとで場所を教えてもらうとしよう。
現在彼らは私の傍に荷物を持った一人を残し、残りのメンバーで池の周囲を調査している。
この一人は護衛? それとも監視? 考えても仕方ないか。
彼らと出会ったことで、町へ行くことができるのはうれしいのだが、まずはその前にこの池についての説明をせねばならないだろう。その為の言葉を今のうちに用意しなければならない。
素直に「神から貰った能力です」と言っていいものだろうか?
先ほどの会話の感じからすると、急に平原に池が出来ることは異常だと読み取ることが出来る。ならば安易に話すべきではない気がする。
そういえば異世界といえば、魔法。魔法が使えれば同じようなことが可能に思えるが、存在しないのだろうか?
過去の人類の歴史では、不思議な能力を持つものは「悪魔の子」だとか「魔女」だとかひどい扱いをされている事例も少なくない。単純に能力だけが問題とされたかという疑いもあるが……。
今となっては当時の彼ら、彼女らが本当に不思議能力を持っていたのか確認することができないが、時折世の中には歴史を動かすような「天才」と呼ばれる人間が現れることを考えると、まったくの嘘とも言い切れない。
今回の場合、それが自分に当て嵌まるわけで……「今日ここに来たばかりで、質問の内容に戸惑っている」というのが無難な回答だろうか。これならば嘘は言っていない。正直、少し無理がある気はしている……。だが他に適切な言葉が浮かんでこない。何しろ異世界に来たばかりで、こちらの常識などがわからないのだから。
そうやってしばらく考えていると、先ほどまで騒いでいたアヒルを含めた鳥たちがいつのまにかいなくなっていることに気付いた。兵士たちが近づいてきたことで逃げたのだろう。私が鳥の立場であってもそうするだろうし。
ふと、メダカがどうなったかと気になり池に近づく。パッとみた感じどうやら一匹も残っていないようだ。鳥たちに狩りつくされたか。
もしかすると鳥たちは兵士から逃げたのではなく、餌がなくなったことで移動したのかもしれない。メダカ発生器である私が気を失って動かなくなっていたし、近づけないので起こすことも難しい。いなくなる理由としては十分だ。
池を見ていると、ついでに自分の顔を確認することが出来た。どうやら若返っているようで、二十代くらいに見える。
ベースとしては元の自分なのだろう。なんとなく自分だとすんなり認識できた。ただ洋風というか白人顔に近づけられている感じで、はっきりとした顔になっている。少しだけ男前に仕上がっているかな。嬉しいかも。
ちょっとだけ気分が良くなりつつ顔を上げると、周囲の兵士たちの顔が視界に入ってきた。先ほどまでは、自分の新しい顔が男前だと感じていたが、なんだか普通っぽいようにも思えてしまった。神の言う「いい感じ」は、本当にいい塩梅のようで別に男前でもなんでもないことが発覚した。少し悲しい。
私がうなだれながら池の中や水面を覗いていると、とりあえずの調査は終わったのか兵士たちはこちらへ戻ってきた。
そして先ほどのリーダーと思われる男性が再度近づいてきたので、質問に対して用意しておいた答えを告げることとなった。
内心ヒヤヒヤしながら「今日ここに訪れたばかり」ということと「いきなり池について聞かれ戸惑っている」と答えた。
彼は「そうか」と言いながら首を縦に振る。
とりあえずは納得してくれただろうか。
その後「二人をこの場に残し、残りのメンバーで街へ戻り報告する」という彼らに誘われ、同行することになった。願ったり叶ったりである。
彼らの所属する街はこの辺りの中心として栄えているらしく、いわゆる「領都」なのだとか。街に戻り報告した後は、急ぎ専門家を集め改めて調査に訪れると説明を受けた。
池から三十分ほど歩くと街道に出ることとなり、馬車の轍も目で捉えられ、少しばかり人々の生活を感じ取ることが出来た。
なんとも嬉しくなりキョロキョロと辺りを眺めていると、傍らに野営可能なスペースを発見。丁度馬車と共に、休憩する一団が見える。
興味深そうにしていると、隊長である『ヴァルト』さんから巡回時の中継地としても使われていて、一般にも開放されていると教えてもらえた。
ここから街までは、歩いて鐘一つと少々。およそ四時間ほどらしい。時間に直すのは、脳内で勝手に変換できた。これもいい感じの調整のおかげだろう。ということは三時間で鐘一つということかな。少し賢くなった。
ここからは、馬車の一団に話をして乗せてもらえるなら馬車で移動。無理そうなら歩きつつ、通りかかった馬車と交渉しながら街を目指すとのこと。
健康的な身体のおかげで肉体的にはそれほど辛くはないのだが、出来れば馬車にのってのんびりと移動したいものだ。
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