第二章 ハノリアのシーク
第4話 外の世界は広い
前方に見える空賊の船は船速を上げ、空の地平線の彼方へと消えてしまった。
『ナグ空賊団』なんで僕たちの住処を襲ったんだ……。
「なんでラランまで捕まえて——」
「あのエノア様!」
「え!?」
自分の真下から声が聞えて、驚嘆の声を漏らす。
エノアは、自分と一緒に飛んでいるハノリアの存在を思い出す。
エノアは、ハノリアの身体を腕でがっちりとおさえる。
背に付いた翼が大きく羽ばたくながら、二人は空の中を進んでいた。
「どうしたの?」
「その少し密着しすぎな気がするのですが……」
なんでそんなこと心配するのだろうか?
「こうしてないと下に落ちちゃうよ」
「ですけど……その、と」
「と?」
「いえ——なんでもありません」
ハノリアは、赤面して顔をふせる。
再びエノアが目の前を向くと、白い鳥の群れが突っ込んでくる。
「うわっ!!」
驚いたエノアの身体の傾きに反応して、翼が旋回し、寸前のところで回避する。
す、すごい!!
「ハノリア! ちゃんとつかまっててよ!」
「え!? は、はい!」
翼が大きくまた羽ばたき始め、周りに生まれた風を吸収し、放出する。
一気に加速し、エノアの身体に風の膜ができる。
「本当に空を飛んでる!」
エノアは、空の地平線と、下に広がる大地の脈に目を向ける。
今まで竜胃の中に居たけど、こんなに広い世界が広がっていたなんて!
翼は、エノアとハノリアをどんどんと、竜胃から遠ざけ、加速していく。
空の虜となるエノア。満面の笑みで、地上を見渡す。
下を見れば、すぐそこには大きな森がある。
一度だけ子供の頃に見たっけな……お父さんとお母さんと一緒に。
「エノア様! 翼が!」
「え?」
エノアは、顔を後ろに向けて翼を見る。羽ばたくが力が、とんでもなく弱い。
「な、なんで!?」
徐々に高度が落ちていき、キューンと音と共に、翼が止まる。
重力が一気にエノアとハノリアにかかる。
「やばい! やばい! 落ちる!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
エノアの眼前には、大きな木。
「突っ込むのかぁぁぁぁぁ!?」
バキバキと木の折れる音と共に、二人は、森の中へと落下した。
エノアは、新鮮な土の匂いを嗅ぎながら目を閉じた。
「エノア! エノア!」
私は、声の方を見る。そこには、お父さんとお母さんが居た。
「ほら見てごらん」とお父さんは、大きな山を指して言う。
「大きな山ね」と隣居たお母さんがつぶやいた。
自分がどこにいるのかと、手で探ると、硬い石のような物に触れる。
「ふふ。これは『竜』と言うのよ」
「りゅう?」
「そう、すぐ先を見てごらん」とお父さんは、山よりも手前の方を指し示す。
輝くような青い宝石の目が瞬きを繰り返している。
それに気づくと、自分が乗っている『物』の全体像が分かった。
大きな翼に、純白の体。
私は、今白い『りゅう』という物に乗っているらしい。
「エノアは、『竜使い』になるのかしらね?」とお母さんは私の頭をなでながら言う。
「いや……俺たちが最後の世代になるだろう」
「そうよねぇ……」と今度は、お母さんは『りゅう』をなでる。
「でも大丈夫さ! 竜胃の中にいれば。それに、まだ『シェナー』なんていう物もある」
「でもあれは——」
「わかってるよ。竜に比べたらな。でも、空を飛ぶことはできる」
「お空を飛ぶの?」
「う~ん? いつかね!」とお母さんが言う
「エノアは空、飛びたいか?」
「う~ん」と悩んでいると、前方の青い宝石の目と、ばっちり視線が合う。
「どう?」
「飛びたい!!」
「おぉ、飛びたいか!」
「この子に乗ってみたい!」と私は『りゅう』の体を掌で叩く。
「エノアも竜に乗りたいか……?」
「ダメなの?」
「ううん。ダメじゃないわ。エノアはきっと良い『竜使いに』になるよ」
「うん! わたし『りゅうつかい』になる!」
ん……昔の夢を見ていた気が……。なんだか、胸に妙な不快感がある……。
エノアはゆっくりと身体を起こし、辺りを見回す。
「うわ~!」
エノアを遥かにしのぐ、大きな木々が、空に向かって伸びている。
「もしかして、これが『森』かぁ~」
鳥のさえずり、土の匂い。もちろん、竜胃の中にも、木や鳥、大地もあった。
でも今、目にしているのは『本物』だと感じる。
「そうだハノリアはどこに……」
エノアが、周りを探すも、金髪の少女・ハノリアはいない。
先ほどまで飛行に使っていた、大きな翼も消えている。
うっ……。エノアは、またも違和感を胸に感じる。
「さっきからなんで湿って……」
エノアは自分の懐のあたりに手を入れる。
瞬間、何かにかまれる。
「いたっ!!」
指からは血が流れている。
エノアは恐る恐る自分の懐を確認する。
小さい赤い体、赤い瞳の竜がこちらを見ている。
「りゅ、竜!?」
服と肌着の間に、割れた卵と液体がべっとりとついている。
「キュイッ!」と赤い竜が、こっちを見つめて鳴く。
「か、可愛い」
いや、そんなこと言ってる場合じゃない!
早くハノリアを見つけて、ラランを空賊どもから連れ戻さないと!
エノアは、卵の殻ついた肌着を脱ぐ。竜が肌着と一緒に懐から、外へと出てくる。
「さぁ、手に乗ってごらん」とエノアは、竜に掌を見せる。
赤い竜は、その赤い目でキョロキョロと周りを見ながら、そっとエノアの掌に移る。
エノアは、竜の体を優しくなでる。肌着の卵の殻を取って、下履きのポケットに突っ込む。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
叫び声が、森の奥から聞こえる。
「まさか、ハノリア!!」
エノアは、小さな竜を大事に手に抱えて走り出した。
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