10.架空

「呪い? あるわけないじゃないですか。全部、架空の話ですよ」

 彼は、口元をゆるめながら、あっけらかんとそう言いました。軽薄そうでいて、どこか本気めいた響きが残ります。


「こんなことを真顔で話すのも、正直バカバカしいんですけどね……」

 そう前置きしながら、彼は話し始めました。


「この世界にあふれる心霊、オカルト、都市伝説。——そのすべてが“作りもの”だと、わたしは思っています」

 科学が進歩した現代社会では、幽霊も呪いも、ほとんどは統計と心理で説明できる。だからこそ、オカルトはあくまで“娯楽”として楽しむべきだ。彼はそう主張しました。


「まあ、証明できるのはあくまで99.99%ですけどね。でも、残り0.01%を“本物”だと思いたがる。面白いですよね、人間って」

 そう言って、彼は小さく頷きました。皮肉とも、優しさともつかない、妙に湿った笑みを浮かべながら。


「でもね、人間の“想像力”ってやつは、時に現実を凌駕するんですよ」

 聞こえるはずのない音が聞こえたり、ただの影が“顔”に見えたり。正体を探すうちに、気配そのものが“形”を持ちはじめる。


「ノーシーボ効果ってご存じですか? 巷でよく聞くプラシーボ効果の逆です。悪いことを想像すると、本当に悪いことが起きるんです」

 幽霊はいない。呪いも存在しない。けれど、それでも人間は、形のないものを信じてしまう。ならばそれは、もはや“存在している”のと同じことじゃないか、と彼は問いかけます。


「だから、思いついたんです。みなさんのために、わたしなりの“呪い”を植え付けてあげたいなって」

 これまで語ってきた話は、すべて彼の作り話。現実にはありえない、嘘八百のフィクション。

 でも——フィクションは、本当に“無害”なのでしょうか?


「たとえば、画質の荒い画像を見ると、少し不快になりませんか? 正面を向いたまま意識を集中すると、背後に何かを感じませんか? 不自然な笑顔を観たとき、ニュースの特集に目を向けたとき、窓から景色をのぞいたとき。そんなとき、何か感じませんか?」

 ——それこそが、わたしのかけた“呪い”です。


「呪いには、対象者の“何か”が必要って話はご存じですか? 爪とか、髪の毛とか、筆跡とか。でもそれは、別に“物”じゃなくてもいい。ただ——意識さえあれば、充分なんですよ」

 だってあなたは、こうして“読んでいる”じゃないですか。


「なぜ、そんなことをするのかって?」

 そんなの、みなさんが望んだからに決まってるじゃないですか。みなさんは、怖がることを望んで、これを読んでいるんでしょう? だから、こうして“企画”してみたんです。


「だったら、ご期待に添えたい……喜ばせたいじゃないですか、せっかく読んでいただいているんですから。そして、日常の中で思い出してほしいんです。あなた自身が、自分の意志で“呪われる”という選択を選んでしまったことを」


 だから、わたしはできる限りあなたを呪いました。

 あなたの記憶のすき間に。

 感情のざらつきに。

 日常の片隅に。


「それが芽吹くのは——明日かもしれないし、数十年後かもしれない」

 あるいはもう、すでに始まっているのかもしれません。


「……たとえば、あなたの右肩のあたりに、昨日からずっと“それ”が立っていること」

 もう気づいているんじゃないですか?


「そう言うと、わたしは満面の笑みを浮かべるのでした」

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ない怪談 - Fake Chiller ないもの @naimono

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