05.特集
これは、わたしが子どもの頃の話です。
その日は体調が悪く、学校を休んでぼんやりとテレビを観ていたように記憶しています。特に何か目的もなく、ぼーっと画面を眺めていました。ちょうどその時間、ニュース番組の中の特集コーナーとして、当時よく話題となっていた「引きこもり」について扱い、潜入取材を行う様子が流れていました。
* * *
──ある家庭の取材映像。
引きこもりの息子を持つ母親が、「もう何年も顔を見ていない」「●●ちゃんに会いたい」という内容を口にし、目に涙を浮かべて取材陣や支援団体の職員に訴えかける場面から始まる。
職員が母親に「なんとか訴えかけてみますが、それでも状況が改善されないなら、強硬手段に出て扉をこじ開けるかもしれません。それでもよろしいですか?」と問いかけ、母親は訝しみながらも了承する。
そして、職員と引きこもりの男性との対話が始まった。
職員は「●●さん、お話できますか?」と優しくドアをノックするが、しばらく沈黙が続いた後、中から怒鳴り声が響いた。
「うるさい!!」
職員が何度も話しかけるが、応答はない。
母親が「お願い、開けて……」と涙声で訴えても、状況は変わらなかった。
「うるさい!!」「うるさいっつってんだろ!!」「近寄ってっくんな!!」
苛立ち、焦燥、怒りが入り混じった声を受け、職員が険しい顔で言った。
「……これはもう、無理にでも突入するしかないですね」
職員がそう前置きしたあと、支援団体の職員が道具を使ってドアをこじ開けようとし、強行突破を始めた。
中から「やめろ!! やめろ!!」という怒声が響き渡る。その声を押しのけるように、職員がドアを壊してこじ開けようとする。ドアは非常に頑丈そうだったが、何度も繰り返すうちに鍵が壊れ、扉が開いた。
扉をゆっくりと開け、カメラが部屋の内部を映し始める。荒れた室内、ぐしゃぐしゃの布団、散乱した衣服やゴミ、埃が溜まった机、無数の引っかき傷が壁に残っている。しかし、部屋には誰もいなかった。
カメラは部屋の隅々を映すが、誰の姿も見当たらない。窓は閉まっており、押し入れを開けても誰もいない。さっきまで部屋の中から確かに叫び声が聞こえていたはずなのに、どこにも彼の姿は見当たらなかった。
カメラは静かにその「誰もいない部屋」を映し続け、環境音がかすかに響くだけだった。十数秒後、VTRは突然終わり、画面がスタジオに切り替わる。キャスターたちは何事もなかったかのように次のニュースを読み上げた。まるで、今の映像に違和感などなかったかのように。
* * *
以上が、わたしの記憶にあるすべてです。
あの番組は、一体なんだったのでしょうか?
何チャンネルだったのかも思い出せません。いつ頃だったのかも、はっきりとは覚えていません。検索しても、そのような番組が放送された記録は出てきません。
そもそも本当に、あんな特集、放送されていたのでしょうか?
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