詩篇断章序曲《フロルクルシア》Ⅰ


 人生とは、一冊の本である。

 その本には生まれてからの歴史が綴られ、どの様に生き、そしてどの様に死ぬかが記される。


 つまり――終わる事で完結する。


 オーギュストにとって戦いとは、本を手にする行為に近い。

 無論、全ての戦いに価値があるとは思っていない。


 むしろ覚える価値あるの数は限りなく少ないと言えるだろう。


 だからこそ、オーギュストはヨノカに興味を持った。


 紋章を頂けぬ劣等の吸血鬼とは言え、一瞬の間に三匹も刈り取った。

 足手まといの人間を庇いながら、そんなのものともせずに。


 きっとその男との戦いは、面白い物となる。

 そう、予感させられる。


 それだけではない。


 ヨノカの戦い方はとてもではないが普通ではなかった。

 その技量は人の身で覚えられる物を越え、その経験は人が受けられる範疇を超える。

 つまるところ、ヨノカの使った技術は『人類史に存在し得ない』物であった。

 まるでオーパーツである。


 好奇心が沸き上がる。

 想像力が刺激される。

 一体どんな物を背負い、どんな覚悟を持って生きて来たのだろうか。


 その戦いからどんな物が読み取れるか、どれほどの感動が得られるか。

 そしてその読了感を芳醇なる赤で潤した時、どれほどの多幸感に包まれる事か……。


 オーギュストはそう考えていた。

 その、一言が来るまでは。


『ハンターってのは……何だ?』


 その問いかけの意味は、オーギュストにはまるで理解出来ない。

 そしておそらく、後ろの人間達も。


 哲学的な問いにしては陳腐過ぎ、複雑な謎かけにしては言葉が少なすぎる。

 つまり……言葉通り。


 ヨノカは、そのままの意味で自分の事を何故ハンターと呼ぶのか尋ねたという事になる。


 その戦い方は一目見ただけでも、ヨノカが多くの吸血鬼を屠って来たと理解出来る。

 そんなヨノカが吸血鬼を狩る存在の『吸血鬼ハンター』を知らない?


 そんな訳がない。

 今時幼子だってハンターの事は知っている。

 金の為に吸血鬼を狩る存在。

 命を賭け戦う戦士でありながら、安酒で命を捨てる愚か者共。


 つまり、吸血鬼を狩る存在をハンターと呼ぶ事はこの世界の常識である。

 だから……ヨノカがその常識を知らぬというのであれば、色々と話は変わって来る。


 人間社会に全く迎合せず吸血鬼を狩る存在。

 人間世界の技術水準を遥かに上回る技術、知識を身に着けた無知なる者。


 そんな危険分子に対して、己の好奇心を満たす事を優先させられない。

 好奇心だなんだなどと言ってはいられない。


 きっと彼は吸血鬼という種にとっての猛毒か、あるいは未知なる脅威の胞子。

 放っておけば、どこまでも広がるかもしれぬ厄災……であるかもしれない。


 あくまで可能性に過ぎない。

 だが、可能性の時点で見過ごしてはならない程の重要事項である。

 故に、オーギュストは吸血鬼の未来の為、是が非でもヨノカの事を知らなければならなかった。




 奇しくも、あれだけ空気の噛み合わなかった二人だが戦いとなると足並みが揃っていた。

 戦いとは、互いを理解し合う行為である。


 そう、彼らは共に捉えていた。


 オーギュストはその好奇心と美学から。

 ヨノカは確実に相手を殺す情報元して。


 ヨノカは短刀ナイフを持ち、オーギュストに斬りかかる。

 その斬撃をオーギュストは手刀で受け止めた。

 

 ギィンと鈍い音を奏で、ヨノカは再度斬りかかる。

 再びオーギュストの手刀により阻止され、剣戟が鳴り響く。


 その時、両者の考えは不思議な程完全に一致していた。


(思ったよりも、大した事はない)

 それは相手の身体能力を過大評価してからの修正であった。


 吸血鬼の貴族と思い怯えていたが、その実力は想像より遥かに下。 

 身体能力だけなら下位ヴァングリード相当ではないだろうか。


 対し、オーギュストはヨノカへの警戒を高める。

 人間として見たら破格だが、その身体能力は自分より遥かに低い。

 そこいらのチンピラ吸血鬼と同じ程度だろう。


 逆に言えば、その程度の力でチンピラ吸血鬼三匹を纏めて屠ったという事である。

 ヨノカの異常な戦闘技能がより際立ったとさえ言って良いだろう。


 ヨノカは一歩踏み込み、ナイフを突き立てるかと思いきや——それを放った。

 至近距離からの投擲。

 オーギュストの視界いっぱいに、銀色の刃が迫る。

 その行動は流石に予想外で、オーギュストは顔面に襲い来るナイフを慌てて払いのける。


 そして次に見たのは、拳を構えるヨノカの姿だった。


 密着距離からのフックがオーギュストの腕に刺さる。 

 だが次の瞬間、オーギュストの腕はぐにゃりと形を変えた。


「なっ!?」

 殴った感触が、まるでない。

 その黒い液体の様になった腕はヨノカの打撃を無効化していた。


「ちぃっ! 奇妙な真似を!」

 液体が触手の様に動き手に纏わりつこうとするのを察して、ヨノカは一歩引きボクシングの構えを取った。


 左腕を下げ右手を顔の前に置く、護りの構え。

 所謂『シェルガード』と呼ばれるものである。


「ふむ。やはり奇妙だ。ああ、奇妙だとも」

 オーギュストは左手をぐねぐねと蠢かせ、元に戻す。

 本来ならその軟体状態のままヨノカの右手を掴むつもりであったが、衝撃が強すぎて出来なかった。


 吸血鬼の紋章持ちが体を影に変える事など基礎技能に等しい。

 それを奇妙な真似と言った彼は一体何者なのだろうか。


 戦えば戦う程、疑問が強くなり疑惑が広がる。


 吸血鬼を殺す為の人類兵器、その完成系――否。

 そうであるなら、あまりにも知識が乏し過ぎる。


 対人間特化に洗脳教育した存在――否。

 その戦い方は確かに吸血鬼を狙った者である。

 人間相手にその威力は過剰過ぎる。


 格下吸血鬼だけを狩り続けて来た。

 それも否だ。

 そうであるのならハンターを知らない訳がない。


 だが、戦闘経験の数だけは圧倒的に多い。

 それも、身体能力が格上の相手ばかりと。


 知れば知る程奇妙な部分が表に出て来る。

 一体この男は過去に何があったというのか。

 その上、彼はまだ何か隠している。

 そんな確信に近い予感をオーギュストは持っていた。




『では、少し力比べをしてみようか』

 オーギュストのそんな言葉と共に、彼らはボクシングの様な殴り合いが始まった。


 ヨノカの立ち回りは、間違いなくボクシングがベースである。

 上体を揺すって躱す『ウィービング』。

 屈み回避する『ダッキング』。

 後ろに大きくのけぞる『スウェー』。

 そして相手の拳に合わせ自分の拳をぶつける攻防一体の『ブロッキング』。


 そういった技術を駆使しヨノカは一度もオーギュストの攻撃を喰らっていない。

 見ている誰もが何をしているか理解出来るが、見ている誰もがそれを出来るとも思えない。

 特別な事は何もしていないのに、まるで魔法の様な防御技術であった。


 とは言え、ヨノカにとってこれは当然の事でしかない。

 常に強者と戦い続けたヨノカにとって攻撃の直撃はそのまま死とイコールに結ばれる。

 故に防御が磨かれる。

 そうでなければ、ヨノカは今この場に立っていない。


 またボクシングだけでなく掴みや投げ、蹴りといった技術もヨノカは用いている。

 ヨノカの戦い方はディフェンスはボクシングだがオフェンスはもっと複合的な物だった。


 対してオーギュストだが、こちらははっきり言って拙いとしか言いようがなかった。

 全ての攻撃は防がれ、その上ボコスカ殴られまくっている。

 技術だけで見れば大人と子供位の差があった。


 それも当然だろう。

 オーギュストはヨノカと対等に打ち合うつもりなど最初からない。

 彼にとってこれは、文字通り『力比べ』でしかなかった。


 不敵な笑みを浮かべながら、オーギュストはパンチを放つ。

 体重の乗った鋭いパンチは非常に様になっている。

 だが、ヨノカに当てるには大振り過ぎた。


 ヨノカは手甲でオーギュストの拳を叩く。

 最低限の動きで腕は弾かれ、ガードががら空きに。


 そしてオーギュストの顔面に、渾身の右ストレートが炸裂した。


 パンッと、乾いた音が成り、オーギュストの顔面が影に変わった。


「お見事お見事。君の拳闘相手ではいかんせん私は道化にしかなれない様だ」

 そう言って笑いながら、影の部分が戻り顔が顕わに。

 当然の様に、オーギュストは無傷だった。


 ほとんど全ての攻撃が直撃している。

 拙いというかする気のないガードと未熟なパンチのオーギュスト相手に負ける気はしない。


 ただ、それだけ攻撃を放ってもオーギュストは完全な無傷だった。

 どこを殴っても殴った箇所が部分的に影となり、そして戻る。


 まるで無敵の様。

 だが――そんな事はない。


(そう……無敵な訳がない。むしろ影化を防御に使うのはそうでない証だ)

 無数の吸血鬼を屠って来たヨノカの感覚がそう告げる。


 あの影化は本来攻撃に転用する物。

 無形の影となり相手を掴み、取り付き、絞め殺す。

 布、鞭、スライムといった特性はそちらの方が遥かに強い。


 そうしてこないのは、こちらを舐め腐っているからだろう。


 これまでの吸血鬼と比べたらオーギュストは確かに紳士的だ。

 だがそれでも、上位種気取り吸血鬼に過ぎない。

 彼は人間を対等な会話相手としているが、それは対等な関係である事とイコールでは決してなかった。


 とは言え、ヨノカにとって舐め腐ってくれている状況は好都合と言えた。

 油断してくれるのなら是非そうし続けて欲しい。

 それだけこちらは、殺しやすくなるのだから。




 ジャブを多用しながら、ヨノカは思考を張り巡らせる。

 そのついでに、いかにもこちらに打つ手がないという様なそぶりを見せながら。


 相手が遊んでいるのならそれを利用する。

 それがヨノカの戦い方だった。


 ただし、この時ヨノカは勘違いをしていた。

 オーギュストは対戦相手を弄んでいるとヨノカは思っているが、それは単なる思い込みに過ぎない。


 様子見をしていた部分はある。

 人間を舐めているという事自体は正しい。

 だが……オーギュストはオーギュストで真剣にこの戦いに望んでいた。


 ヨノカがオーギュストの殺し方を考えていると同様に、オーギュストもヨノカの正体を探っていた。

 その能力はどういったもので、何を目的とする組織に所属しているか。

 その背景を、戦いから読み解こうとしていた。


 そしてそれだけでなくオーギュストが『観察』していたものは……。


「なるほどなるほど。こういう事か」

 そう言って、オーギュストはヨノカのジャブを手甲で払いのけた。

 ぱしんと音がなり、ヨノカのガードががらあきとなった。


「なっ!?」

 慌て、ヨノカは後ろに跳ぶ。

 だが、オーギュストは追撃もせず胡散臭い笑みを浮かべながらその場に立ち止まっていた。


「ふむ。興味深い。実に興味深い技術だ。たったこれだけの力で、最小限で攻防を逆転させる。うむ、純粋に面白いよ」

 ブロッキング自体はオーギュストも知っている。

 だけどヨノカのブロッキングはオーギュストの知るどの拳闘士よりも洗練されていた。

 最低限のパワーで最大限の効率、失敗してもほとんどリスクのない最小限の動作。

 それはもはや完成とさえ言っても良いだろう。


(不味い!? 覚えやがった!?)

 ヨノカは焦りを悟らせない様表情を固定する。

 それを見て、オーギュストはニヤリと笑った。


「なるほど。君でも焦る様な事だったが。秘伝と言われる技術だったかね? それなら、すまない事をした」

 そう、オーギュストは勘違いし謝罪する。


 オーギュストにとってヨノカのディフェンス技術は異常に映っているが、ヨノカにとっては何てことがない技術である。

 敵が知っていても別段驚かない。


 問題なのは、それを今覚えて身に着けたという事。

 学習力と成長能力。

 それがヨノカには恐ろしかった。


 ヨノカの知る吸血鬼はこういった技術を『人間の工夫』などと言って馬鹿にしかしていなかった。


「素晴らしい技術だ。だけど良くない。これは実に良くない物だ」

 オーギュストはあいかわらず仰々しい態度で、オーバーなジェスチャーで哀しみを現した。


「君の使う技術。使ってみてわかる。そうわかるとも! この技術は『怪力も再生力も必要としない』。つまるところ……誰しも覚えられるという事だ。我々吸血鬼の怪力に対抗する技術を、誰でも……」

 ジロリと、オーギュストはヨノカを睨む。


 確信とまでは行かないが、疑いは強くなった。

 ヨノカという存在は、吸血鬼にとって毒であると――。


「……吸血鬼の癖に、人の技術を覚えるな。化物は化物らしく暴れてればいいんだよ」

 吐き捨てる様に、ヨノカは言った。

「はっはっは。我々は元より知恵を持つ生物だよ? そもそも、君は勘違いをしている。人より優れた知性を持つからこそ、我々は人類にとって怪物足りえるのではないかね?」


 そう言って、オーギュストは拳を構える。

 たったったっと、軽やかなステップを刻み、ボクシングの構え見せる。


 中年で黒いスーツの癖に、それは嫌になる位様になっていた。




 差が、縮まっていく。

 両者の実力は今や拮抗と呼ぶ状態に等しい。

 それはオーギュストが追い付いたからではなく、ヨノカが意図的に実力をセーブしたからが大きな要因となるだろう。


 オーギュストにこれ以上技術を覚えさせない為。

 その為に防御技術を使わず、足運びによる軸ずらしとステップによる回避を主体として戦っていた。

 だが……。


 ヨノカは、それを見た。

 オーギュストがニヤリと笑った、その顔を。


 オーギュストは人を一冊の本であると捉えている。

 戦う事でその本を取り、終わりを迎えさせる事で本は完成する。


 その戦いを思い出す度に、彼は相手の人生に思いをはせる事が出来た。

 ワインを片手にかつての戦いを思い返す事は、彼にとって読書に等しい娯楽であった。


 つまり……彼は戦いの中身全てを、記憶している。

 今更使わないところで、手遅れであった。


 拳は、当たったはずだった。

 確かに、オーギュストの顔面にジャブを叩きこんでいた。


 だが彼が打ったのは――『幻影』だった。


 それは、ヨノカの使ったウェービングの技術に吸血鬼の身体能力を加えた結果であった。


「まずっ!?」

 言い終わる前に、ヨノカの腹部にフックが炸裂し、ヨノカはきりもみ回転で宙を舞った。


「ヨ、ヨノカ殿!?」

 老人は叫ぶ。


 それは、どう見ても致命傷だった。

 吸血鬼の一撃、人の体がまるで紙か何かの様に飛ぶ姿は、誰が見ても手遅れである。

 だが……。


「そんな事まで出来るのか!? 面白い! つくづく面白い男だ君は」

 歓喜の感情を顕わにし、オーギュストは叫ぶ。


 ヨノカは地面に落ちる為に受け身を取り、そのまま立ち上がり構えを取った。


 ぺっと、口元に溜まった血をヨノカは吐き出した。

「明らかに手応えがなかったから何かしたのはわかった。だが具体的にはわからない。一体何をしたのか教えてくれないだろうか?」

 ワクワクと、感情豊かなオーギュストの言葉をヨノカは無視する。


 優れた目だが、流石に今のを即座に模倣する事は出来ないらしい。

 そこだけは、少しだけ安心した。


 一つ、打撃のインパクトを自ら跳び退いてずらす。

 二つ、打撃時に受ける衝撃を反対方向から打ち込み相殺させる。

 三つ、当たった瞬間自ら体をねじり、全身の筋肉を弛緩させ受けた勢いを外に逃がす。


 この全ての防御術の複合が、その正体。

 それでもダメージを全て消す事は出来ず、内蔵に痛みが走っている。

 血が口から零れた辺りで、思ったよりも不味いダメージを喰らったとヨノカは予想出来た。


 悠長にしていられない。


 ヨノカは戦い方を即座に変更させる。

 防御術を主体とした、生きる為の戦いから、攻撃を主体とする、殺す為の戦いに。


 小刻みなステップを止め、地に足をつけ、両拳を降ろす。

 左手と左足を前に出し、体の半分だけが見える状態、所謂『左半身』の構えである。


 オーギュストは変わらない。

 ボクシング、拳闘の構えのまま細かなステップで軽やかに動く。


 そんな事気にも留めぬかの様に、ヨノカはまっすぐ突っ込んで来た。


「早い! だが、捉えられぬ程ではない!」

 オーギュストはそう言ってステップで軸をずらそうとする。


 ダンっと、音を立て、ヨノカは地面を踏みつける。

 拳の威力を最大限にする『震脚』は、文字通り大地を震わせオーギュストの足を止めた。


「ぬぅっ!?」

 驚きながらもオーギュストは冷静に、ヨノカのストレートパンチを払いのけようとする。

 だが、弾かれたのはオーギュストの拳の方だった。


 この後に及んで、オーギュストはまだ、勘違いをしていた。

 ヨノカは人より力が強い人間であると。

 その本質を理解出来なかった事が、この原因である。


 オーギュストの防御によりズレ、ヨノカの拳はオーギュストの左肩に直撃する。

 乾いたバケツを蹴った様な音と共に、その部位が影と化す。

 変わらない。

 その拳が先程までの十倍以上の威力であっても、結果は変わらない。

 影の防御は、崩れない。


 まだ――。


 くんっと、ヨノカは体を捻る。

 体を捻り、握肘を捻り、更に一歩前に進み。

 そのままストレートパンチは別の技に化ける。


 ヨノカが居た世界に存在した、八極拳六大開拳の一つ、頂心肘。

 早い話が、『肘打ち』である。


 影と化した全く同じ場所に追撃の肘打ちが放たれる。


 ヨノカは影が無敵ではなく、液状に等しい故に高い耐久性能を誇ると推測した。

 であるならば、対処は容易い。

『耐久以上の力で、ぶちのめせば良い』


 それこそが、吸血鬼の怪力を持ち、人間の技術を学んだ居場所なき異形ヨノカの真骨頂であった。


 肘打ちの衝撃が消えるより早く、ヨノカは更に追撃をかける。

 軸足の左足を外側にねじり、腰をねじり、体を傾ける。


 人としてはギリギリな、無茶な姿勢変更により内臓が焼ける様な熱さと痛みを覚える。

 それを、ヨノカは無視した。

 その程度で死ねない身体である事はヨノカは痛い程に知っていた。


 痛みを無視し、強引に、ヨノカは同じ個所に、『ハイキック』を叩きこむ。


 右ストレートから変化して肘打ち、そしてそのままハイキック。

 目にもとまらぬ三連撃を浴びせられ、オーギュストの体は吹き飛ばされる。

「ぐぅっ!?」

 オーギュストの漏らす吐息には、痛みが混じっていた。


 そのままオーギュストは壁に強く激突し、激しい音と砂埃を撒きあげた。





 

 


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