蛍を見に…行ったんだよ。

あーてぃ

何年前かなぁ?

 ”蛍を見せてやろう”と思うくらいだから、娘たちが小学生の時分かな?


 確か……嫁さんが夜勤でいなくて早めに夕食も風呂も済ませて、子どもが見たいようなTV番組がやってなかった日(当時はネトフリも無かったし、HDDレコーダーがまだ普及してなかった)だった……と思う。


 大ハシャギの娘二人に気を良くした私は、チャイルドシートに二人を固定し、上機嫌で夜道を運転し始めたんだ。

 子ども向けのBGM選曲の合間にカーナビを睨んで、往復一時間ほどのドライブ。

 

 あまり詳細に書くと身バレしちゃうけど、当時は結構な大きさの日本庭園が山の中にポツンとのよ。で、そこの湧水を利用した菖蒲しょうぶ園での蛍が見事だと、PTAでの世間話や新聞記事で知ってたワケ。


 梅雨時でさ、妙に湿度が高い。かと言って、冷房を利かす程ではない微妙な車内。途中で寝られたら歯磨き面倒やな~、なんて考えたのを憶えている。


 さぁ、現地到着。

 ところが周囲は真っ暗。他の車も人の気配も全く無し。


 ”ありゃ~休園日だったか?”と一旦は落胆するも、鎖で閉ざされた駐車場のアチコチにほのかな明滅が見えたので、車内から蛍を鑑賞するセカンドプランに変更。

 ゆっくりと日本庭園敷地を半周して、帰路に着くことに。


 当然、ヘッドライトはOFF。街灯すら無い舗装路を徐行運転で進む愛車。

 後部座席からは歓声。だが私は、背中に嫌な汗をかきつつあった。


 塀越しの温室や竹林が気味悪い上に、とにかく道路の状態が酷いのだ。

 車一台がやっとの極狭道路。山からの植物が無秩序に生い茂り、重さで垂れた青葉がサイドミラーに擦る時すらある。

 

 ”カーナビでは道繋がってるけど、もし行き止まりや倒木なら……脱輪でもしようものなら……” 悪い予感が止まらないが、バックで駐車場まで戻るのも憂鬱。

 

 そんな中、ちょっと木々の開けた空間に出くわした。

 夜空から月光が差し込んで、蛍鑑賞には向かない場所。


 舗装路の続く暗がりに、もう一度車を進ませる事を躊躇しながら、溜息ためいきを一つ。

 覚悟を決めた視界の端に、が現れたんです。

 

 いや。ひょっとしたら、私達が来る以前からのかも知れません。

 

 ――真っ裸で絡み合う三人組が――


 えっ??? えっ??? なんで???

 こんな山の中でS○X?? 青○?? しかも3P???


 一瞬でパニックですよ。


 ”娘らに見せたら駄目!” ”アカン! アカン!!”

 青白く見える一糸まとわぬ肌を横目に捉えつつ、アクセルを踏み込んで急発進。

 そのまま、転がりこむように帰宅。

 因みに菖蒲園が数年前に廃園になっていたのを知ったのは、翌日でした。 



 Q: で、結局何だったですかね? 裸族の団体様は?

 A: 鹿でした(多分)













 4/7 追記:

 この話を書いた翌日、成人している娘たちに当日の記憶をいてみた。

 次女 「へーそんな事あったんや。全然覚えてないわ」

 長女 「怖かったね、アレ。鹿じゃなかったし、ヒトでもなかったよ」

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蛍を見に…行ったんだよ。 あーてぃ @ptgmgm

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