蜜柑成る黒猫喫茶
楊ほらん@冬眠中
みかんなるくろねこきっさ
私が友人と、尾道の町を闊歩していると、とある黒猫に手招きをされたのだ。
もちろん、黒猫が手招きすることはない。至極真っ当な意見だ。
しかし、私は見たのである。尾道の町の黒猫は、本当に手招きができるのだ。
こればかりは、本当に行ってみないと分からないことだろう。
とにかく、私は友人と一度離れ、一人でその黒猫についていった。
黒猫は不吉とされている。しかし、目の前の黒猫は夏日の日光を受け過ぎた影響か、暑そうに建物の影ばかり通り、日光の当たる場所は足早に駆けていくのだ。
なんだか、人間味があって面白いと思った。
そうだろう?
例えば、夏日のビーチでは日陰の道を素足で歩く。
何故なら、地面が暑すぎて、火傷をしてしまうから。
恐らく、全く違うものなのだろうが、どこか似ていて少し可愛らしいと思った。
それから、尾道という町は、建物と建物の間に、男の子のロマンの代名詞としてよく使われる隠し通路的なものがよくあるのだが、黒猫はその道を、まるで完璧に網羅しているかのように歩いていくのだ。
何故だろうか、猫の頭脳に負けた気分である。
兎にも角にも、私はついていった。
黒猫は、日光に慣れていない割には人馴れしていて、全く私を怖がらない。
それどころか、どんどん知らないところに連れていかれる。
当時13の少年である私は、その黒猫に、少し興奮を覚えながらも、実はこの猫が美人局の様に、私を食べてしまうのではないかと疑った。
恐らく、ジブリの見すぎだろう。
実際尾道という町は、記憶はないが、どこかのジブリの聖地に選ばれていた気がする。
しかし、私が絶賛歩いていた道は海辺でないの方だったためか、セミの音がうるさい。神秘的で、魅力的な場所であることは、この状況認めざるを得ないわけだが。
おっと、少しばかり語りすぎた。
とりあえず、黒猫と少しばかり、大体五分ほどだろうか、何度も隠し通路を渡り、その中には、猫専用通路のようなところもあった、くぐるのが大変だった。
その結果、黒猫に連れてこられた場所は、特段、絶景スポットなんかではなく、町中にあるのになかなかたどり着けなさそうな秘境の建物だった。
黒猫は、その建物に勝手に入って行く。
私は躊躇した。明らかな廃墟だったからだ。
「入っていいのかい?」
私は黒猫そう聞いた。恐らく、このような文句だった筈だ。
すると、黒猫はタイミングよく「にゃん?」と鳴く。
確かな疑問符があった筈だ。
「なんだ? ビビってんのか?」
私はそのせいか、黒猫の泣き声がそのような幻聴交じりに聞こえた。
正直、当時としてはかなりビビっていた気もするし、不法侵入のような気もしたのだが、私はそこに入ってみた。
蜘蛛の巣が入り口に張られており、私はそれを慎重によけながら、今にも崩れそうな屋根に心底恐怖しながら内見した。
黒猫は、レジ台と思わしき高いテーブルの上に登り、
「いらっしゃいませ」
とのように鳴いた気がした。夢だと思った。
もしかしたら、本当にジブリの世界に迷い込んだのではなかろうか?
そう疑った。
私は、続けて内見をする。
黒猫を撫でたいという気持ちもあったのだが、とにかく気になっていた。
カウンターの高さから、喫茶店のような店であることは想像がつくのだが、座席数が少ない。
椅子はほとんどないのだが、建物と一体化しているテーブルだけが残っている。
メニューの書かれたような木板もあったのだが、何が書いているかよくわからなかった。
「結局、何をしにここに連れてきたんだー?」
私は黒猫に聞いた。そして撫でようとした。
黒猫は、丁寧にレジに鎮座していた。
何度か撫でた
手を洗わないといけないな。
そう思い、自分の手を見ると、その刹那、黒猫はそこから姿を消していた。
「あら、どこに行ったんだー?」
恐らく、目を逸らしたうちにどこかへ行ったのだろうと、また聞こうとする。
しかし、返事はない。手をはたいて、建物の周りを探した。
それでも黒猫は見つからず、夢中で探している成果は、建物の裏から一つの看板が見つかったのみであった。
私はそこで、理解した。
何故なら、看板には、子供が書いたような黒猫の絵が描いてあったからだ。
ああ、きっとこのお店の看板猫だったのだ。
そう考えた。
しかし、その考えは私が友人と合流しようと、建物の敷地から離れる際に、さらにもう一つ、面白い話を考えることとなった。
何故なら、私はまだ若いミカンの成る木が植えられていることに気付いたからだ。
すると、また面白いお話が頭に浮かぶ。
蜜柑は猫の嫌いな匂いだ。普通の話、あの黒猫はこんなところに入りたくない筈なのだ。
しかし、黒猫は何食わぬ顔で侵入し、あまつさえ私を歓迎した。
きっと、猫はここで、自分だけの縄張りで、人間たちに喫茶店を開くつもりなのだろう。
「なら、また来るか」
私は、そう考えながらも、敷地を出て行った。
それから、私は道に迷いながらも、何とか友人と再会し、千光寺観光へと舞い戻った。
後に、友人にこの奇妙な話をするが、彼は未だにこの話を信じてくれない。
第一、彼は黒猫を見ていないと言った。
「そんな筈はない。私と一緒に見たじゃないか」
私はまた、そう友人の失われた記憶を揺さぶる。
しかし、友人はまだまだ信じてくれないので、今度一緒に行こう。
と、提案し、実際に再度訪問するのだが。
「ごめん。道忘れたわ」
と、私は申し訳なく、彼に謝る事しかできないのであった。
蜜柑成る黒猫喫茶 楊ほらん@冬眠中 @Horanchann
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