012:青ゴブリン、森に入る

 ジンジュです。始まりの街アインツの東にある森に、入ってみます。


「結構暗いな〜」

「せやろー?」


 薄暗い。とにかく鬱蒼うっそうとしてる。

 街路樹みたいな、まっすぐ上に伸びてる木は見当たらない。どれ見ても、根元から真っ二つ !? ってぐらい、バンバン枝分かれしてる。


 まあ、地面から2mぐらいまでは枝が切ってある。たきぎとかに使うのかな?

 けどその上は、枝が密です。ちょっと薄日してる? ってぐらい、光が届いてない。


 まだ晴れてるのにな~。



 そんな木々から延びる、立派な根っこが邪魔。

 平地のはずなのに、地面でこぼこで歩きにくい。


 あと、草も邪魔。さっきまでの草原とは別の、背が高い草が、何種類もわさわさ生えてる。

 一番低いとこで、今の俺ミニゴブリンの腰ぐらい。狼とか隠れ放題や~ん……


「ぴすぴす」


 誰か鼻詰まった? て思たら、いつの間にか兎が増えとった。

 “▽ラビット(♀) Lv.12”やて。

 たしかに、牛柄ちゃん達より一回りデカい。体つきとか耳もガチの兎みたい。

 強っ、進化形か……?


 で、なんか活発そうな子だな~。

 全身真っ黒……いや? よ~く見たら、黒っぽい灰色だ。で、黒いしま模様……虎柄か!

 そんな柄の子までおるんや……


 で、分かれてみると、ボーゼについていった。よかったな~。


 また合流したら、えすとが小兎たちを指さして、


「阪○、巨○、オリッk……」

「「やめい !! 」」



 閑話休題。



 ◇


「あ、せやジンジュ。〈挑戦者チャレンジャー〉てスキル取れるやろ? 今取っとけ」

「アッはい」


 そんなに強い魔物ヤツが出てくるんか~……


《〈挑戦者〉を取得しました。残りSPスキル・ポイント:3》



「……おっ、放りやすそうな石~!」


 で、武器集めです。ついでに【鑑定】


―――――

??石

(分類)素材?


 HP:―      MP:―

―――――


 説 明 が な い !!

 そんなパターンあるんや……


 まあええわ。大盾出して、ぼちぼち行きましょか~!



 森に入って、30秒ほど歩いた。この辺、草少ないな~。

 鬱蒼うっそうと生える木々の中に、ちょこちょこ花をつけとるやつがある。


「お2人さんお2人さん、薬草どこ~?」

「こんな入ってすぐのとこ、あると思うか……?」

「……あ~、誰かに取られとるか」


 ん? 今その辺“ガサガサ”って言ったな ?? この音は……3羽が逃げた。


《「ブラウンウルフ(♂)」1頭と交戦中です。》


 はい出た~、一匹狼。レベル7。

 腹減ってんだろな~、やる気満々だ。


「「お、頑張れよー」」


 1対1か、了解ッス。

 ファンフリの狼は力持ちですばしっこい。 ……兎と比べたら、やけどな。

 反面、ガタイの割に体力がない、とのこと。

 やから“初心者向き”なんやて。


「バウ!」

「おら来いや!  ……【受け流し】、よっと~!」


 勢いよく飛び出した狼を、後ろへ受け流す。その先には木が1本……はい、ど~ん !!

 見事に頭から突っ込んだな~。


 ここで一句。


  気をつけろ ウルフは急に 止まれない


 ……あ~あ~、こんな狭い所でそんなに飛ばしたら……そりゃあ、意識も飛ぶってもんだ。なぁバカ犬?

 で、大盾は鈍器です。駆け寄って、敵の首に叩きつけろ。


「【叩きつけ】、うら~ッ!」


 背中か。ハズレ、もう1回。


「【叩きつけ】! だあ~ッ !! 」


 ……“CRITICALクリティカル!”、いただきました。


《「ブラウンウルフ(♂)」1頭を討伐しました。これにより、以下の条件が満たされています》

《〈受け流し〉がLv.3になりました》


 なむなむ。

 で、例のごとく解体して……


《以下のアイテムを入手しました。

 ・「ブラウンウルフの肉」

 ・「ブラウンウルフの毛皮」

 ・「ブラウンウルフの魔石」》


 見事に1個ずつ。


「これが普通」

「なるほど~……」


 複数出たのは初心者の幸運ビギナーズ・ラックだった……ってことか。

 まあ、話はその辺にしておいて。奥行こう。



 狼倒してから、5分ほど歩いたか?


 兎3羽は、結局戻ってこない。まあそんなもんか……。

 ひらけてて、敵を見つけやすい草原のほうが、彼ら好みなんだろな~……知らんけど。


 で、目の前にヤバそうなキノコがある。

 高さ5cmぐらいで、傘が真っ赤っか。めちゃくちゃ目立つのに、食われた跡が見当たらない。


 ……これ、毒あるな? 【鑑定】!


―――――

アカアカタケ

(分類)植物?

 日陰に自生するキノコ。有毒。


 HP:―    MP:―

―――――


 やっぱりな~。

 ってか名前とか分類とか、ツッコミ所多いな!

 とりあえず……キノコは菌類です。覚えてね。テストに出るか知らんけど。



 もうちょい進んだら、茂みの奥に何かおる。茶色い毛玉? あれは……


 シシ の ケツ 。


 猪の尻ですぜ、兄貴~。 ……結構デカそうやな。んで、レベル15か~……

 指差しながら、声をひそめて……


「お2人さんお2人さん、ご相談があります」

「「何でしょう?」」

「あの猪をね、1人で狩ってみたい」


 2人がニヤリと笑う。


「「いいじゃないですかー」」


 ……いや止めろよ、10レベ上だぞ? いいんだな ?? じゃあやろう。



 ◆


 うちの親父は、農家の次男坊だ。

 だから俺は、祖父じいちゃんや伯父おっちゃんに、こう教わってきた。


『農家にとって、守るべき環境は自然環境やない。人間の生活環境や。

 当然やな。ワシらは人間のために食いもん作っとんねんから。

 ほな、田圃たんぼや畑を荒らす動物は追っ払うか、捕まえて処分してもらうしかない。すまんけんどな……。

 菜っぱを食う蝶々チョウチョや鹿も、畑を掘り返す土竜モグラネズミ、それに猪も。例外はない。

 熊? 論外や、あいつら人食うやんけ……』


 “美しい田園風景”ってあるだろ? あれはこうしてたせてんだ。

 祖父ちゃんら農家の、努力の結晶だ。断じて、「美しい自然」なんかじゃあない。


 それをけがすのなら、何であれ許さん。猪だろうが熊だろうがデカい巻き貝だろうが、関係ない。

 あ~あと、タバコとか菓子袋とか捨ててく人間もな。


 ……「いや、八つ当たりじゃん」? それはそう。

 俺は何も守らない。人として生きるだけだ――




「……あ、ヤバかったら助けて」

「「そら当然な」」

「あざ~っす。ほな行ってくる」



 静かに素早く、バレる前にいいとこ押さえなきゃ、な~。


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