030:青ゴブリン、東の街へ②

 ◇


 イースの街に向かって、5分ほど歩いてる。ここ面白いな~。

 “作画さくがが違う”って言うのかな? 周りとふん囲気いきが違う牛・豚・鶏がいる……


 挙げだしたらキリがないし、鶏から2種類をご紹介。普通の鶏「コッケ」に混じって、こんなのが……


 片方は、妙に堂々としてる。周りより陰影も、体の色も濃い。

 水墨画か米国のヒーロー漫画アメコミに出てきそうな風格がある。


 その名は、“コケイ”。



「うわ、しぶいな〜」


……なんて鶏に言ったの、人生初だと思う。



 で、 もう片方は……


「コケコケコケコ、コケーッ !! コケコケコケコケ……」


 ちょっと向こうで、元気に駆け回ってる。こっちは逆に、着ぐるみみたいな明るい絵面。

 でも可愛くはない。何でアメコミ風なんだ……

 あとうるさい。とにかくうるさい。その名も“コケコケ☆コッケ”。



 ……名前までうるさい。何やその、けったいな☆は~?


 名前の意味? 察してください……いや俺も知らんけど。



 ……とか言ってたら、いつの間にか、豚が1頭ついて来てた。


「……ふんす?」

「プゴプゴ! プゴ !! 」


 とがの、また後ろ足で立っいかくしとる……

 対する豚さん、元気よく反論しとる。俺らを怖がる気配もない。

 なんか人れしてんな……あ、もしかして。


「【鑑定】」

「プゴ~?」


 やっぱ大丈夫だな。何でだろ……誰か餌付えづけでもしてる?


―――――

ホワイトボア(♂) Lv.18

(分類)魔物/動物型

 野生化した豚、もしくはその子孫。雑食。人懐ひとなつっこい個体が多い。

 戦えないなら、遠ざけるべき相手である。特に突進と、鋭いきばを活かした噛みつきに要注意。


 HP:100%   MP:―

―――――


 シシを家畜化したのが豚で、牙はその名残なごりらしい。噛まれたらヤバい。

 餌付けはやめておけ。でるだけ撫でるだk……


《抵抗に失敗しました》

《抵抗に成功しました》


 ……えっ?


退けよザコ !! 」

「ばへぇ !? 」


 突然、後ろから飛んできた罵声ばせい。と同時に、背中の右側に激痛が走る。

 そのまんま吹っ飛んで、草原にり出された。


「プゴ !? プゴォォォォォ !! 」

「オウェーイ、一丁上がり~!」

「ウェーイ、晩飯はしゃぶしゃぶだな !! 」

「「「経験値、最高! フゥ~ !!! 」」」


 何や急に……まさか!



 ……ハッ、豚くん~ !!



「ヒューヒュ……ボ、ボスぅ !? 」


 聞こえてくる、大声のトーンが変わった。なんかあわただしい。



 ……ん? 通知 ??



《クラン「とうとう○ベンジャーズ」と交戦中です》

《従者「とがの」が異人「ボス・ザ・グレート」を討伐しました》

《「とがの」が称号〈人間不信〉を獲得しました》



「は゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~ ッ ??? 」



 これ、どないせえ……て………… ???



 ◇


「……あ゛ァ゛? ワレ何しょんどい !? 」


 ボーゼの声がする。お怒りやな。



 ……ハッ !? アカンアカン、ボーッとしとった!

 考え事は後や。まずは起きろ、ほんで現状見ろ !!



 牛・豚・鶏が点在する平原。その中の一段高い所を、石畳の街道が通ってる。


 そのド真ん中で戦う、はた迷惑な一団。ボーゼ、えすとっきゅー、はったむさしさんの3人と、兎・小烏の4羽。

 対する向こうは十数人の異人プレーヤーと、4頭の狼。


 こっちが不利に見えるけど、ボーゼは……


「ほぉ、やるやん! これ止めるんコ !! 」

「ッチ、2人がかりでこれかよ……!」


 めっちゃ楽しそう。余裕すら感じる……

 あと、はったさんも生き生きしとる。2人の後ろでドン引きしとるえすとに、俺は同情したい。


「ア゛ッ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛! 気晴らしにちょういいぜェ~ !! 」

「うわー…………【光の魔球ライト・ボール】……」


 で、どうも向こうは混乱しとってらしい。


「……痛って !? 手前テメェら何っ立ってんだよ!」

「「すいやせん !! 」」

「は? じゃあ指示くれよサブさん! 俺らはどうすりゃいいんだ !? 」

「それはボスに聞けy……そういやオチてたなクソったれ !! 」

「チッ、兎公ウサこうどもがちょこまかと……ウゼぇ !! 」



 あ゛? とがのが何やと ??



 ……いや待て、俺の割り込む所ないな。相手はレベル15から19。

 味方の20台かつ変態的に上手い2人と違って、俺は一桁ひとけたの素人。


 足引っ張るぐらいやったら、ここは1つ、昼n……死んだフリしながら、すきを突こ……


「……ん !? ザコゴブまだ生きてね?」

「マジっすか !!? ……おいポチ、タロ! アイツをやれ !! 」

「「バウ !!」」



 アカンばれた !!

 仕方しゃーない、こんな時は……



 逃 っ げ る ん だ よ ォ ~ ッ !!



 ……いや待て、何かせとぉぞ?



「 ¿Quéケー? ……コケッ、コケーッ !! 」


 反対側から声がして、ついそっち見た。

 雄鶏おんどりが1羽、こっちに走ってきよる。


 モヒカンみたいな、長~い鶏冠トサカに、鮮やかな茶色と黒が混ざった毛並み。

 君の名は。


《「ロックンロール・コッケ(♂)」1羽と交戦中です》


 古い教科書か。

 偏見が過ぎる、もうそんなバンドマンおれへんて。



 ……ちゃう違う! しもた、はさまれた~ッ !!



「【風の魔球エア・ボール】!」

「うわっ !? 」

「コケーッ !! 」


 狼らのあるじ、「オオミワ」とかいう異人がった魔法を……あれ? けれた ??


 えっ、俺こんなよ動けたん !? マジで ???



 それって……あの時も避けてたら、“日焼け”で死なずに済んだのか…… !!



「ケーッ、ケケェ゛ーッ !! キ゛エ゛ェ゛ーッ !!! 」

「「バウ !? 」」


 エレキギターみたいに、じわじわひずんでっとる鶏の声で、現実に引き戻された。



 いや、ゲームん中やけど。



 けたたましくわめきながら、鶏はオオミワくんに向かって駆けだした。


 で、狼らは鶏に気を取られてる。


「【風の魔球】!」

「ケ゛ェ゛ーッ !! 」

「クソッ、当たんねえ! ……って早くやれ !! 何してんだよポチ、タロ !? 」

「「バウ !? 」」


 名前呼ばれるまで、主の指示に気付いてない。気付いても、中身を忘れてる。

 俺をすっぽかして、鶏を追いかけだした。


 リアルで“動物相手に大声出したらアカン”けど、『ファンフリここで』も一緒みたいだな。もうグダグダ。


「バウ!」

「バウバウ!」

「 ¿Qué? ケ゛ーッ !! 」


 鶏が狼らの相手しだしたんを見て、オオミワくんがこっち向いた。


「ッチ、しょうがねぇ……【風の破魔矢エア・アロー】!」

「……っわ !? 」

「【風の破魔矢・3連トリプル】!! 」

「わっ、はっ、ひぃッ…… !! 」


 変な声らしながら、ギリ避けるんで精一杯……


「おい早くしろ! ザコゴブ1匹に何してんだ !! 」

「違うんすよ、アイツ聞いてたより上手くて……」

「バカお前、半日もありゃレベル上がるだろ! 代われ、俺がやる。【風の魔球】・5連クインテット !! 」


 オオミワくんの横から、なんか偉そうな兄ちゃんが出てった。 て多いな !?


「あっ、や、わっ、あ、ひぃ!」

「~ッチ! 【風の魔球】・3連 !! 」

「あっはっやんッ!」

「んがーッ! 誰がアホだ卑怯者 !? 俺と戦え !!! 」


 知らん、アホとか言うてない !! 何なん気ぃ短いなチb……今ヤバいこと言うたぞ !? あの人、大声で !!


「……フ゛コ゛!? 」

「ン゛モ゛~?」

「 ¡Quéケー! 」

「「「『ケ゛ー゛ッ゛ !! 』」」」


 あっという間に、平原じゅうの空気が変わった。

 鶏中心に、強そうな魔物が彼をにらんでる。



 ……あ~あ、やってもた。俺知~らね。



 大声で要らんこと言うんが悪い……いや、さっさと逃げとこ。巻き添え食らう前に。


「「「『ケ゛ェ゛ー゛ッ゛ !! 』」」」

「「「は?」」」

「バカヤロー、何してんだテメェ !! 」

「すいません、すいません!」


 ボーゼ、はったさんと、10羽ぐらいの雄鶏に襲われながら仲間割れ。



 余裕やな。これが“数の暴力”か~。



 で、通知が飛んでけえへんから、今んとこ鶏の敵はあっちだけみたい。


《「コッケ」3羽と交戦中です》



 い や  ん の か い ……



 ◇


 “交戦中”て通知来たけど、鶏も敵クランもこっちにはえへんな。

 ありがたやありがたや~……あ、PTパーティーチャットが。


『先行っとけ。ここは俺に任せろ』


 はい走る。えすとと合流しよか~。


 ……「やだイケメン!」とか言いたなるけど、ちゃう。

 ボーゼあるある“勢い余って敵を増やす”やでこれ。テストに出るど~。


 あいつの事やからたぶん、多分やけどな。

 向こうに通知来て、「は?」とか何とか騒いどるから、「スキあり!」て“サブさん”とやらに斬りかかったはず。

 そん時に、鶏さんにぶつかるか何かして、めでたく敵認定されたんやろ。


 アイツは変態的にゲーム上手いだけで、別に“孤高の俺強えー”さんやないからな。

 むしろ「やってもた!」て顔しとるし。


 や~、速すぎるんも考え物やね。

 いや基本ありがたいけどさ、俺「えーさん」やし……


「……ふす?」


 ……アカンアカン、らんこと考えすぎや。

 いつの間にか街道走っとる、えすと・ダイスくん、とがのと合流して。


「……あれ? はったさんとクロウくんは」

「あっち。『後腐れないように、責任持って殲滅せんめつしといてやる』やてー」

「りょ~か~い」


 街道を東へ、ひた走る。



 ……いや怖! クランと鶏十数羽、全部倒すってか ??

 2人と2羽でやるもん違うやろ !?



 ◇


 2~3分ぐらい走ったとこで、またまた通知。


《戦闘が終わりました。以下の条件が……》

《〈従魔法〉〈敏捷強化〉両スキルのレベルが上がりました》

《従者「とがの」がLv.8になりました》

《「とがの」の〈回避〉〈下剋上〉〈体力強化〉以上3スキルのレベルが上がりました》


 勝負あり、やて。またえらい静かになって……てことは、や。



 まずは豚くんと鶏さんらに、手ぇ合わせて……なむなむ。



 んで……とがのさんや、相変わらず足癖悪すぎ。

 何がそんなにこの子を駆り立て……またチャット。


『vidi, veni, vici.』

『何それー???』

『“見た、来た、勝った。”』

『カ○サルかよ!』

『〽️禿~げ~ハ~ゲ~そんなの嫌~だ~』

『バ○ハに怒られろー!』


 ………

 ……

 …



 ボケ倒すボーゼにツッコむ、えすととはったさん。思わず外部検索。

 ……ラテン語とか知るか、間抜け野郎ポティトゥ !!


 ……まあ無事、敵を殲滅したみたいで何より。無事とは?



 とりあえず一言。


「おめでと~」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る