029:青ゴブリン、東の街へ①

 ◇


 ジンジュです。アインツ市から東へ。

 猫獣人はった・むさしさん、狼獣人ボーゼ森人えすとっきゅー小鬼おれの4人と、兎3羽とがのら小烏1羽クロウくん。合わせて8名で進んでます。


 んで、いつの間にか次の街「イース市」に向かってる。

 森の獣道を進んだら、石畳いしだたみの街道に合流して、森を出た。


 ……するとそこは、街へ続く平原だ。

 視界がひらけたから、思わず周りを見た。牛、豚、トリ、牛・牛・牛、豚、鶏・鶏……


「ここ、牧場かなんかか~……?」



 ん~いや、それっぽい首輪とかタグとかなさそうだしな~……


「飼い主おってなんかな~?」

「おってやないらしいわー」

「そうそう、“逃げて野生化した元家畜”なんだとよ」


 はは~ん、そんな話もあるのか~。

 で、牛・豚・鶏か。一番デカい牛が一番危なそう……て思うでしょ?


「ここ、一番気ぃつけなアカンのは……やっぱ鶏?」

「せやなー」

「あと“他の異人プレーヤー”な」


 せやったわ、このゲーム……


 この辺の住民は、軽率に魔物と戦う、ってことをしない。死んだら終わりだからな。

 だから、なるべく戦わなくて済むように――もし戦っても、生きて帰れるように――念入りに準備してから、街を出るんだって。


 当然、人のほうから戦いを仕掛けることもほぼない。そんなめたマネするのは、基本俺ら異人だけだ。


 ……「ちょっとだけならあるじゃん!」?

 しょぱなから、例外をお手本にするバカがあるか !! って話だよ?



 まあとにかく、“ここでは異人オレらがお邪魔虫”ってわけだ。


「おっ、黒毛の牛エーごのにく! 今夜はご馳走だ、やるぞ !! 」

「おっけー、【光の破魔矢ライト・アロー】!」


 そうそう、あんな感じ……で……?


「ン゛モ゛ー !! 」

「【鑑定】、っしゃあ、来たたキタ !! 【ガード】……ふぐえッ !!? 」

「ソンくん !!? 」


 前にいる男女2人組カップルに向かって、黒毛の牛が突っ込む。ツノがあるからオスかな?

 牛は盾持ちの男ソンくんとやらをあっさりはね飛ばすと、聖職者の女のほうを見た。


「……モ゛ー?」

「い、嫌っ! 来ないで !! 来なヒゲェッ」


 へたりこんで命いしても、もう遅い。彼女もはね飛ばされた。

 2人は順に、白く光るサイコロポリゴンに変換されて消えて……いや、最後の2粒が俺らの頭を飛び越えて、獣の森へと向かう。



 ……アインツ市からやり直しか~。合掌がっしょう



 あ、そうそう。牛は基本、おとなしい生き物だよ。理由は色々あるけど、その1つは“強いから”だ。

 根性あって力持ちなんだよな~。



 ……そんな能書きは置いといて。牛が今度はこっち見てる。

 んで、ボーゼが朱塗りの大盾を構えながら、俺に言う。


「下がっとけ、【鑑定】・【テイム】頼むわ」

「りょ~か~い」


 俺よりは強そうな人たちが、あっさりやられた。まして俺には止められない。〈下剋上〉スキルも万能じゃないし。

 じゃあ、後ろから援護・妨害にてっするべし……ボーゼはいつでも合理的だ。


「……やだイケメン♥️」

「オ゛エ゛ー゛ッ゛」


 後ろから、えすとの裏声と、はったさんのえずき声がした……呑気のんきだな?


「「しばいたろかワレぇ ?? 」」

「「すみませんでサーセンした」」

「カァ~……」

「……モ゛ッ!」


 俺らの声に反応したか、牛がこっちに走ってきた。


《「ブラックブル(♂)」1頭と交戦中です》


「【鑑定】、【テイム】! ……とがのもお願い」

「ふんす、【鑑定ふす】!」

「ありがと~」


《「ブラックブル(♂)」1頭の【テイム】に失敗しました》


―――――

ブラックブル(♂) Lv.16[交戦中]

(分類)魔物/動物型

 野生化した肉牛、もしくはその子孫。草食。大人しい個体が多い。

 戦えないなら、遠ざけるべき相手である。特に蹴りと、体格などを活かした突進に要注意。


 HP:95%   MP:―

―――――


 結果は~? さんはい、後で読む~ !!


 ……ネタはさておきコイツ、とがのとか全然気にしてないな? まだボスジシの匂いするはずなんだけど。


 怒りでど~でもよくなったか?

 それとも“何それ ?? 誰の匂い ??? ”なのか……どっちだろうな?


「……【光属性付与ライト・エンチャント】、【光の魔球ライト・ボール】!」

Thanksテァンクス! 【ガード】!」


 アカンアカン、余計なこと考えてた……って気づいたところに、ドーン! て音が響く。

 ボーゼの盾に、牛が正面衝突したんだ。


「ン゛モ゛ー !? 」

「や、相変わらず重たいわ」

「余裕か~?」


 黒牛が悲鳴を上げて、後ずさる。んで、その場に座りこんだ。

 さすがのボーゼも、無傷とはいかん。50cmぐらい後ろに押されたし。


 けど何回も戦うた相手らしいし、レベルもこっちが上や。そら余裕あるわな。


「食らえー、【光の破魔槍ライト・ランス】!」

「【風の魔球ウインド・ボール】! クロウ、【光の破魔矢ライト・アロー】を !! 」

「カァ、【光の破魔矢カァカァ】!」


 んで、黒牛に魔法が襲いかかる。


「ン゛モ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!? 」


 気の毒なくらいの集中放火を、耐え抜いた黒牛。しぶといな~。

 この調子で落ち着いてほしい所、だけど……


「モ゛ーッ!」


 まあ無理だよな~、また突っ込んで来るよ。

 石ぶつけようか……?


「あっちにらすから、ケツ狙え孫市まごいち

「「「了解」」……誰や孫市~?」

「……来たな、フンッ !! 」

「ン゛モ゛ッ゛!? 」


 ボーゼが黒牛を、左斜め後ろに受け流す。街道の石畳から、草原に出た牛の尻に……


「だあッ!」

「ン゛モ゛ー !! 」


 石ぶつけて、さらに追いたてる。その先には、こちらをうかが雄鶏おんどりが1羽。


「¿Quéケー? ……ケーッ ! コケッ !! 」

「モーッ !? モッ、モッ……」


 案の定、鶏は牛に飛び掛かった。

 真っ赤な鶏冠とさかを振り回し、蹴り入れたりくちばしでつついたりしながら、牛の突進や踏みつけをかわしていく。


 小回りいてすばしっこいから、意外と強い。牛・豚より危ない理由、よぉ~く分かるだろ?


 とはいえ、しぶとい黒牛くんにとどめ刺せてはない。

 じゃあ漁夫ぎょふの利、いただきましょ~。


「まだやッ、まだ、Stayステーイ, stay, stay, stay……Goゴー! 今や、Go !! 」

「「【鑑定】!! 」」

「【鑑定カァ】!」

「【鑑定】、【テイム】!」

「【鑑定ふす】!」


 ボーゼの合図で、俺らは一斉に駆け出した。各自、走りながら挑発。

 速いのには速いのを。はったさん、クロウくん、ボーゼ、レティシアちゃんは雄鶏に飛び掛かる。

 俺らが狙うは牛の首、ただ1~つ !!


《「コッケ(♂)」1羽の【テイム】に失敗しました》


 それはそれとして、貰える情報モノは貰おう。あとで読む。


―――――

コッケ(♂) Lv.19[交戦中]

(分類)魔物/動物型

 野生化した鶏、もしくはその子孫。オスは勇敢で、体の大きな相手にもおくせず挑む。

 戦えないなら、遠ざけるべき相手である。特に蹴りと、くちばしを活かした突進に要注意。


 HP:100%   MP:100%

―――――


「ふんす!」

「ぷう……!」

「モ゛ッ !? 」

「【光の魔球ライト・ボール】!」

「ン゛モ゛ーッ !! 」


 先行するとがの・ダイスが黒牛の尻に噛みついて、後ろのえすとが魔法を放つ。

 顔面に光球を食らって、牛の足が止まった。


「【叩きつけ】、【火の魔球ファイア・ボール】! ……往生おうじょうせぇやぁ~ッ !! 」

「モ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ゛!! 」


 牛の左側に回り込んで、頭上の大盾を振り下ろす。赤い光球をつけた角っこが、牛の首根っこに当たる。

 “CRITICALクリティカル!”、頂きました。


《「ブラックブル(♂)」1頭を討伐しました。以下の条件が満たされています》

《〈鈍器〉〈敏捷強化〉両スキルのレベルが上がりました》

《称号〈邪道〉〈処刑人〉を獲得しました》

《従者「とがの」の〈筋力強化〉がLv.2になりました》


 変な称号出た。何それ?

 ……まあ、その前にまず、手を合わせて。なむなむ……



「こっちも終わったでー! あとどないしよー?」


 えすとがはったさんらに呼びかけた。あっちもう終わったんか、早~。



 ◇


 4人で相談中。俺は牛の【自動解体】して、出た物全部貰えることになった。

 そこで、はったさんが聞いてくる。


「ジンジュ、おめえ鶏も持ってくか?」

「や~、やめときます。挑発しかしてないんで……」

「そうか。えすとは?」

「俺も遠慮します。聖職者ぼうずが肉ばっか持ってんのはちょっと……」

「おぉ、そうだったな。じゃボーゼ、俺らで分けるか」

「ほなそれで」


 ……というわけで、結果発表~!


《以下のアイテムを入手しました。

 ・ブラックブルの肉(中)×2

 ・ブラックブルの皮(中)

 ・ブラックブルの頭部(中)

 ・ブラックブルの魔石(微小)》


「ま~た生首ぃ~……」

「お、おう……」


 えすとと2人でドン引き。マジか運営えらいさん


 ……収納インベントリに入れて、持ってくしかなさそうだな~。

 罪もないのにさらし首……にはできないし、だからってすぐ埋めてやれる所もない。


 ……え? 「人殺しとるやん!」? あれは返り討ち。

 人食い牛とか聞いたことないし……雑に仕掛けたほうが悪いだろ ???


 ……ケッ、なーにが「今夜はご馳走だ! やるぞ !! 」? 巻き添えにされる身にもなれ……



「でー、安定の肉+1」

「ありがたいですね~、はぁ~い」

「情緒不安定か」


 ネタはさておき、こっちはそんなもんかな。

 お、あっちも終わったみたい。こっちに来たはったさんが一言。


「そろそろ出るか?」

「「「はーい」」」



 じゃ、街行きましょ~。


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