015:青ゴブリン、また組合へ

 ジンジュです。

 森からアインツの街へ、戻りやした。


 冒険者組合シーカーズ・ユニオン、アインツ総支部の前。また3人で、順番待ちの列に並んでる。


「……あ、ミニゴブだ」

「うわ本物じゃん」

「動画で見るより声大きいんだね……」


 人混みの中から、こんな会話が聞こえてくる。

 知らんよ~怖いよ~、何の話~ ??


「ぴすぴすぴす……!」

「痛たたた……ちょ、やめぇやレティ !! 」


 狼獣人ボーゼの頭に乗っかる、黒っぽいラビット。“レティシア”さんです。

 ……名前、略すんかい。

 さっきからずっと、ボーゼの後ろ頭にポコポコ蹴り入れてる。周りがうるさいからか、ご嫌斜げんななめだな……。


「……ぷう?」

「ちょお、落ち着けってー」


 森人えすとに抱えられてるのは、オレンジ色の小兎ミニラビット。“ダイス”くんです。

 落ち着かない様子で、周りをキョロキョロ見回している。


「ふす~……」


 腕の中から呼吸音。あったかい毛玉がいる。

 白と灰色の牛柄。ミニラビットの“とがの”さんです。

 覚えてね、テストには出ないけど。

 耳寝かせとるけど、それだけ。めっちゃ大人しい。


 いや、逆に怖いで~す……異議は認める。



「せやお前ら、今のうちに見るもん見とけよ。その子らのステータスとか」

「りょ~か~い」


 では早速……


―――――

とがの Lv.5

 種族:ミニラビット(小兎/下位兎族) ♀

 属性:―

 SP:4

 HP:100%

 MP:―

 状態:正常/友好/待機


 スキル:1

 〈回避 Lv.3〉

  ※「初期スキル」欄より、あと7つ取得できます

(控え:2)

 〈闇魔法 Lv.1〉〈生活魔法 Lv.1〉

(種族:3)

 〈噛みつき Lv.2〉〈蹴り Lv.4〉〈小兎〉


 称号:1

 〈小鬼の従者〉

  物理攻撃、および土属性の与ダメージが微増する。

(控え:―)

―――――


 出たな、ツッコミ所。

 まず、〈蹴り〉スキルのレベル高ッ! 何そんなに蹴飛ばしたの……?


 で、魔法持ってるよこの子。MPないから、使えないみたいだけど。

 使えないスキルは取れないはず。 ……もしかして、魔法を“生まれ持ってる”ってことか?


「へぇ~……なんか末恐すえおそろしい子やな」

「ふす?」


 んで、種族スキル〈小兎〉。何すかこれは~?

 説明見よう……


―――――

小兎ミニラビット

 草原に現れる、小さな兎。大人でもこのサイズ。

 器用ですばしっこい。魔法は使えない。


○種族特性

 【夏毛/冬毛】高い保温性を誇る

 ・暑さや濡れにやや弱い

 【その他】

 ・視覚:視野は広いがド近眼

 ・聴覚:鋭い

 ・嗅覚:やや鋭い

○個体特性

 ・特になし

―――――


 兎って目が悪いんだ。

 知らなかった、気をつけよう……


「お、どないや?」


 レティシアさんを抱えたボーゼが、声かけてきた。


「どないて~……レティシアちゃんはええんか?」

「よそ様の手ぇ入っとったからな、どこの誰か知らんけど」

「ぴすぅ」


 兎なのにスキル15個も持ってて、〈解体〉〈鑑定〉〈人類共通語〉がそろってるんだって。


「たまたまにしては出来すぎちゃう?」

「いや、俺に聞かれてもな~……」


 ってか、あの足で〈解体〉使えるの? それとも、この子も“生まれ持ってる”パターン…… ??



 とりあえず、とがのさんのステータスを、ボーゼにも見せとく。


「こんな感じやねんけど~」

「ふす?」

「……なるほど。えらい武闘派やな?」

「やっぱり~?」

「そらな。レティは〈回避〉のほうがレベル高いし」

「ぴすぴす!」


 意外だ。レティシアさんのほうが活発そうなのに。


「で、この足で武器とか〈拳〉は無理あるな。やからこの辺を……」

「……おぉ~、ありがと~」


 彼に言われた通りに、タッチパネルを操作した。

 結果こうなった。


―――――

 スキル:3

 〈回避 Lv.3〉〈採取 Lv.1〉〈鑑定 Lv.1〉

(控え:6)

 〈闇魔法 Lv.1〉〈生活魔法 Lv.1〉〈器用強化 Lv.1〉〈体力強化 Lv.1〉

 〈敏捷強化 Lv.1〉〈人類共通語 Lv.1〉

(種族:4)

 〈噛みつき Lv.2〉〈蹴り Lv.4〉〈危機察知 Lv.1〉〈小兎〉

―――――


「ふんす! ふすふす」


 なんか気合い入ってるな~、とがのさん。

 ……まぁそんなわけで、強化系スキル中心に追加しておいた。


 あと、〈人類共通語〉。これは言葉を“読める/聞き取れる”ようになるスキルだ。

 書いたりしゃべったりするには〈テレパシー ※未発見らしい〉とか〈書写〉みたいな、別のスキルが要るらしい。



 ◇


 やっと組合の建物に入れた……と思ったら、窓口カウンターからこっちに歩いてくる人たちがいる。

 あ~、彼らは……


「よおボーゼ、さっきぶりだな!」

「どーしたのその? テイマーに転身すんの ?? 」

「まさか兎に【テイム】とか ??? 」

「そっちの子は噂の新入りくんかい?」


 さっき安全地帯の前で会った人たちだ。4人組だったのか~。

 にぎやかだね、ボーゼが青筋立てるくらいには。


 ……えすとと顔を見合わせて、一言。


「「あっキレてる……」」

「アンタらさあ。毎回毎回、一方的にブワーッしゃべるんやめてくれへん? 答える暇ないねんけど ?? 」

「「「「サーセンした !! 」」」」


 はぁ……ってため息ついたボーゼが、もう1個何か言おうとした、その時だった。


「……次の方、どうz」

「助けてくれ! 西の迷宮ダンジョンで配信してたら、たまたま映りこんでたプレイヤーが殺し屋アサシンにやられて !! 俺の動画チャンネル、BANバンされちまって……」


 窓口で、早口でまくし立てる男の大声が響く。

 思わずそっち見たら……


「お客様。申し訳ありませんが、冒険者組合ウチでは対応いたしかねます。お手数ですが、そのお話は教会のほうで……」


 男がカウンターテーブルを、ダン! って叩いた。

「もう行ったさ! あっちでも『無理』って言われたんだよ !! こ、この世の中を……この世の中をぉ……あ゛あ゛ー゛ッ゛!! ……」


 とりあえず、県民と府民のトラウマほじくり返すん、やめてもろて。

 何十年前の話やねん……


 んで~……ピロピロピロピロ、何の音?


「……どーもー、クワッセふじこでーす !! 今日は【緊急生配信】ってことでねー、……」


 黙って見てるのが気に入らなかったのか、配信おっ始める強者ツワモノが……もう1人おったわ。

 他にも、録画しとるっぽい人が十数名。なるほど、カメラ機能の起動音か~……


 いや待て! そんな何でもかんでも撮っていいのか?

 ……ダメでもやるのが、あいすべき現代人のさがだろうけど。

 許可取ってないでしょ?


 どう見てもアウトです、本当にありがとうございました。


「……やっと配信者ライバーになったんです !! 」


 迷惑系異人クレーマーさんのが終わって、広がる沈黙。

 それを察してか、彼はすぐに付け足した。


Iアイ can'tキャン fu*kin'ファ・キン stand upスタンダッ f*ckinフ・ッキン' songソンッ!」


 ぜいたくに「f*ckin'」を2度づけした英文。親父にも言われたことないのに。



 ……いや、そんな親父はだよ?



 ってか2度づけ禁止! 1回でも禁止エフワード !! ……とか言ってる場合じゃないな。

 はいDoubtダウト! もうそれわざと言ったでしょ !?


 なぜって……?


「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? 」」

「き゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛配゛信゛停゛止゛い゛い゛い゛い゛い゛!! 」

「「「嘘゛お゛お゛お゛お゛お゛何゛て゛え゛え゛え゛え゛え゛!!? 」」」


 とどろく10人ぐらいの悲鳴。効きすぎやろ、可哀想に。

 えぇ……このにおよんで、まだ完全生リアタイ配信やってんの ??


 いやまあ、Webウェブ小説の“ダンジョン配信モノ”が、そんなノリらしいけど……ボーゼが言うには、ン十年たった今でも、な。



 ……人間ってさぁ、学習しない生き物なんですかぁ~?


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