第10話ーアウスジェルダの森ー

 ———それからシンシア達は、貴族たちがよくお忍びで使うと有名な宿に到着し、一息ついていた。


 さすがにそう言われるだけあって建物の作り、内装も煌びやかで、設備もちゃんとしている。フィーゼは宿に用意してあった茶葉で主にお茶を淹れてやる。


「お疲れ様だったな。…はい、紅茶」


「ありがとう」


 シンシアは両手でカップを包み込んで冷えた手を温める。


「っ、いつもと味が違うね。…モントレーで取れた茶葉だからかな?」


「とはいえ、バチクソマズイな。———悪い、持ってきたヤツで淹れ直すわ」


 どストレートな発言をするフィーゼにコラコラ、怒られるから…と、苦笑いで思わず声を漏らすシンシア。


 大丈夫、これはこれで美味しいよ?と付け加えるのだった。


「…にしても、さすが要人がこぞって使うだけあって、立派な宿だな。セキュリティもしっかりしてるし。柄悪そうな客も見当たらないし」


「…柄悪そう、ね」


「…って、なぜ俺を見る?!」


 ふとシンシアがじーっとフィーゼを見つめるのを、思わず彼はツッコむ。


「国境付近から寒くなってきたとは思ってたけど、窓の外を見てビックリしたよ。辺り一面真っ白なんだもん。真夏なのに、こんなの初めて」


「寒くないか?暖炉に火は焚いてるけど」


「うん、平気。


 ———ここがフィーゼが生まれた国なんだ。フフッ、辺り一面フィーゼの色で溢れかえってるね。綺麗な国…」


「クリミナードは滅多に雪は積もらないからな。とはいえ、毎日毎日、年がら年中、白に閉ざされた世界を見ててみろ。全く変わり映えしなさ過ぎて、すぐうんざりしてくるから」


 辟易した顔で言う従者に、そうかなぁ、と首をかしげるシンシア。


「あ…っ、ねぇ、フィーゼ、一つお願いがあるんだけど、」


 突然改まるその人に、フィーゼは、何?と首をかしげる。


「あの…、また夜の街に連れて行ってくれない…?昨日みたいに」


「…っ、」


 少しモジモジしながらも、目はキラキラさせながらフィーゼを見るシンシア。


 思わず二つ返事で頷きそうになるフィーゼだったが、


 ダメだ。と突っ返すのだった。


「何で?…ぁ、寒いなら、厚着して行くから大丈夫だよ!」


「そういう問題じゃねぇよ。そもそもモントレーの夜は閑散としてんの。凍え死ぬくらい寒いから、普通のやつは出歩かねぇんだよ」


 その言葉に、そうなの?!と目を丸くするシンシア。


「そうだよ。いたとしても酒呑みばっかだ」


「お酒…?」


「酒は身体があったまる手っ取り早い常套手段だからな。そんな奴らの中にお嬢を放り込むなんて、恐ろしくてできるわけねーよ」


 その言葉にえぇ〜と、口を尖らせるシンシア。


「残念ながらクリミナードみたいな綺麗な国じゃないんだよ、ココは。それに、まだココは地方の片田舎だからな。薄汚い有象無象の吐きだまりだ」


 フィーゼは苦笑いで何とも言えない表情だ。


 貴女には到底見せられないものしかないんだよ、ココには。と、ため息混じりに付け加えるのだった。


「なら、明日王都まで出れば、ちょっとはマシ———」


「んなわけねぇだろ!ただココより人が増えるだけで余計に厄介だ」


 そんなぁ…、としょんぼりするシンシアを見兼ねてか、フィーゼは一つ息をつくと、


「…ま、要は夜が明けたら問題ないってことだ」


 ボソッとそう付け加えたのだった。


「ってことは、つまり…、」


「朝日が昇る前、寝坊助なお嬢がもし奇跡的に起きてたら、良いモン見せに連れてってやるよ」


「…本当?約束だよ?」


 飛び切りの笑顔で頷くシンシアは、…あ、あぁ、約束だ、と言うフィーゼと指切りするのだった。



 ♢



 その翌朝、先に起きたシンシアが隣の部屋で眠るフィーゼのもとを訪れていた。


「フィーゼ、ねぇ、起きて?もうすぐ夜明けだよ?

 朝日が昇ったら綺麗なモノが見られるんでしょう?ねぇってばぁ!」


 カーテンが閉め切られ真っ暗な部屋の中、いまだフガッと寝こけるフィーゼの身体を揺さぶるシンシア。


 いくらほっぺをツンツンしても、いくら鼻を摘んでも、目の前のこと人はなかなか目覚めない。


「…ダメだ、全っ然起きない。こんなの珍しいなぁ。フィーゼはいつも絶対私より先に起きてるから」


 困ったようにシンシアは頬をポリポリと掻く。


 …はぁ。と、シンシアが途方に暮れていると、


「…っ、フィーゼを起こしてくれるの?」


 不意に耳飾りからそんな囁き声が聞こえてきた。


「…、じゃあ、そっとね?あんまり驚かせちゃダメだよ?」


 と言ったのも束の間、


「———うぉあっ?!」


「…っ、フィー、ゼ??」


 あんなに何をしても起きなかったフィーゼが、突然勢いよくガバッとその身を起こしたのだった。


「本当に起きた…」


「あれ?なんで俺———、誰かに “ 早く起きろ ” って…、、」


 シンシアは目の前の状況に驚きながら、何も言わずに耳飾りをそっと優しく撫でる。


「あれ、まだ日の出前じゃねーか」


 ふと目に入ったカーテンの向こうは真っ暗で、まだ微睡の中をボヤきながら彷徨う彼だったが、徐々に頭が覚醒してきたようで、


「…あ〜、そういやぁお嬢を “ あの場所 ” に連れてってやる約束だったっけ」


 と、約束のことも思い出していた。


「そうだよ。早く行こう?朝日が昇っちゃう!」


「ん…。んん?!ってか、なんでお嬢がここにいるんだよ?」


 フィーゼは瞬時にシーツにギュッと包まる。


「仕方ないでしょう?フィーゼがなかなか起きないんだから」


「だからって、男の部屋に無断で入ってくるなんて、ましてやこんな暗い場所で、俺が寝ている時にもかかわらず———、


 はぁ、まぁいいや、後で話そう。先に部屋の外に出ててくれ。すぐ行くから」


 言いたいことをグッと飲み込み、彼女から目をそらしつつ、ドアの方をピッと指し示す。


「わかった。二度寝したら許さないからね?」


「わーったから早く出て!」


 そう言ってシンシアを半ば強制的に部屋を追い出したフィーゼは、ギュッと前髪を無造作に握って、力なく、はぁー、と深い深いため息をつくのだった。


 それから10分後、大きな音を立ててシンシアの部屋のドアが開かれた。


「行くぞ、お嬢!!」


「ぇ、ちょっと…、」


 フィーゼは先ほどの腑抜けた顔とは一転、いつもの表情で、シンシアの腕を掴んで厩舎まで走るのだった。



 ♢



 昨日フィーゼが乗ってきた馬を走らせ、2人はとある場所を目指す。辺りはまだ暗闇が支配しており、静かに朝日を待っている状態だ。


「一体どこへ行くの?」


「俺が “ 生まれた場所 ” 」


 ポツリと呟いたフィーゼの言葉に、シンシアはドキッとするとともに、少しそわそわとワクワクしていた。


「…ちゃんと覚えてるんじゃない」


 ボソッとシンシアは呟いた。


 モントレーにいた時のことはあまり覚えてないって言ってたクセに…。


 フィーゼは昔から自分の過去をシンシアには話したがらなかったので、少しでもそれに触れられることに、シンシアの顔は笑みを隠し切れていなかった。


 そんなシンシアとは裏腹に、フィーゼの手綱を握る手は、緩むどころかギュッと握りしめられているのだった。


 それから暫くして、ようやく馬は歩みを止めた。訪れたのは辺り一面山々に囲まれた自然豊かな場所だった。


 とはいえ、雪のお陰で白一色に統一された世界は代わりなかった。おまけにまだ朝日が昇っていないこともあり周りは薄暗くシーンとしている。


「悪いけど、こっからは歩きだ」


 フィーゼのその一言に、彼に手を引かれながらシンシアは山登りをすることとなった。


 雪を踏みしめながら歩く感触があまり慣れておらず、戸惑いながら一歩一歩足を前に出すシンシア。時々雪に足を取られそうになり、おっとっと…とゆらゆらしながらも前に進んでいる。そんな彼女の様子を見て、


「俺が先を歩くから、あなたはその跡を辿ってくればいい」


 フィーゼはそう言ってそっと彼女の手を離し、その前を歩き始める。


 自分より少し大きい足跡が自分の前を示してくれている。先に踏み慣らしてくれているその上を、シンシアは疑いもなく辿っていく。生まれて初めての経験に、楽しそうに微笑むシンシア。そんな可愛らしいその人を時折振り返りながら微笑ましく伺うフィーゼ。


 まるで母鳥について歩くヒナのようだ。


「辛くないか?」


 と声をかける従者に、ううん、大丈夫、楽しい!と笑顔で答える少女。


 少しいたずら心が芽生えてしまい、大股で歩いてみてやると、ちょっと戸惑いながらもその人は、ちゃんと丁寧に懸命に大股で頑張ってついてきている。


 だがしかし、さすがにやりすぎたのか、シンシアはツルッと足を滑らせてしまい、うわぁっ!と転びそうになったところを、フィーゼは慌てて手を伸ばして支えてやるのだった。


「お嬢、大丈夫か?」


「うん、平気!フィーゼがいるから」


「っ———、」


 そうやってニッと笑う少女に、従者はそっと目を逸らすのだった。その耳は赤く染まっていた。


 ねぇ、どこまで行くの?とシンシアは首をかしげると、


「頂上だ。…あと少しで着く」


 その言葉通りものの数分後には、2人は山の頂上に辿り着いたのだった。


「はぁ〜、登ったぁ〜!」


 寒空の下だったが、運動後のシンシアの身体は真夏のようにポカポカだった。


 そんな彼女の隣で、涼しい顔をしたフィーゼは、よかった、間に合ったみたいだな。とホッと胸を撫で下ろす。


 しばらくすると、山の影からゆっくりと光の筋が暗闇に差し込んでくる。その奥からは朝日が少しずつ顔を見せだした。


「…うわぁ〜」


 辺り一面を覆う雪は太陽の光に照らされて、キラキラと世界が輝きだす。天は朝焼けの美しさに染まり、地はまるで宝石のように雪が煌めいていた。


「綺麗…」


 その絶景に、思わず声が漏れるシンシア。


 その様子をフィーゼも満足そうに眺めるのだった。


 しばらく2人でその景色を満喫して、そろそろ戻るかと、フィーゼがシンシアに手を差し伸べた、その時だった。


 シンシアの耳飾りがキラっと一つ輝く。


 すると、


【アイツ、まさか “ 神堕ち ” じゃ…?】


【神使の御役目を果たせなかったどころか、人間を大虐殺した “ 氷雪の悪魔 ” だ。】


【一族の恥晒しが、のこのこ戻って来たと言うのか?!】


 どこからともなく数人の囁き声がシンシアの耳を掠めていく。


 ———何?この声…。神堕ち…?氷雪の悪魔??一族の、恥晒し…?


 と、戸惑っているところへ、


「…っ!?」


 突然従者に手で耳を塞がれたのだった。


「やっぱあの時、止めときゃよかった」


 彼がポツリと呟く声は、耳を塞がれているためにシンシアにはぼんやりとしか聞こえない。


「お嬢がモントレーを挟んでジェヘラルトへ行くと言った時、是が非でも南の国サリンドラのルートを選ばせるべきだった」


 苦しそうに小さく零すフィーゼ。そんな時でも声は止むことはなかった。


【神堕ちが人間の小娘なんぞを連れて戻って来たぞ?!】


【神堕ちってだけでも大罪なのに、とうとう人間にまでくだったか?】


【一体どこまで堕ちるつもりなんだ?】


「…ったく、ごちゃごちゃうっせーな」


 フィーゼは声に答えるように面倒くさそうに大きくため息をつくと、ゆっくりシンシアの耳から手を離し、そっと彼女の前に出る。


 フィーゼ…、と心配そうに彼を見やる主に、


「お嬢は自分で耳を塞いでろ。コイツらの話は絶対に聞くな!」


 と忠告するフィーゼ。


 ふと、フィーゼの背中越しからその奥を見ると、外套を身に纏った人物が3人ほど姿を現していた。背丈からして子供のようだ。あいにく外套のフードが彼らの目元まで覆い隠しているため、顔までは見えない。


「お前、400年前アウスジェルダウチから出た神堕ちだな?」


「だったらどうした?」


 フィーゼは面倒くさそうに子どもの言葉に答える。


 結構な言葉でけなされ、罵られているはずなのに、なんの揺らぎも動揺も見せない従者の逞しい姿に、シンシアの方が動揺しながらも感心していた。


「黙れ、この赤め!!」


「罪人が何を偉そうに?!」


 シンシアもその言葉には思わず同意する。なぜそんなにもこの人は堂々としていられるのだろうか?と。


「…へぇ、“ 赤い雪の悪魔 ”、か。こんな大罪人にも400年経つとそんな異名を付けてもらえんのか。長生きは性に合わんが、してみるもんだな」


「調子に乗るな神堕ち!このアウスジェルダの恥晒しが!?」


「俺の次に一族から神使を誰一人出せてない時点で、お前らの方がよっぽど恥晒しだろーが」


「ぅ、うるさいっ、口答えをするな!お前が過ちを犯さなければ、神堕ちなんかにならなければ、僕たちにだってチャンスが———」


「お前のせいで、私たち一族の名声は地に落ちたんだぞ?!」


 そうやって言い寄られるフィーゼだが、


「ハッ、何言ってやがる。自分たちの実力不足を俺に全てなすりつけるな。お前らが不甲斐ないから神に見向きもされんのだろうが!」


 いつものようにどすの利いた声で凄んでやると、


 とうとう相手の方が、…んぐっ、と押し黙ってしまったのだった。


 目の前で繰り広げられるそれを、シンシアはただ呆然と見つめていた。


 ———いや、結構罵倒されてるはずなのだ。それでも全然怯むことなく、ちゃんと論破してる。凄いなぁ、フィーゼは…。


 散々罵られているはずなのに逆に圧倒してしまうほどの凄みを見せるフィーゼにやはり感服するのだった。


 相手の子どもには半泣きになっている子もいる中、少しの間彼らはコショコショとフィーゼへの対策を話し合いだした。


 しばらくして話がまとまったのか、


「———そ、そういえばお前、封印はどうした?神堕ちとなったお前は、スディンペル様によって長く封印されていたはず」


 その中の1人がビシッとフィーゼに指を差しながら言う。


「おぃ、人に指を差すな。


 …ってか、んなもんいつの話だよ。この通り、とっくに解けとるわ」


 耳の穴を穿りながら辟易した態度で答えるフィーゼ。


「というか、そこの人間は何だ?!私たちをまた “ 狩にきた ” のか?」


「…はぁ、バカも休み休み言え。今更お前らを狩ったところで、この人間に何の得があるってんだよ」


 思い思いに言葉を発する子どもたちに、フィーゼもいよいようんざりしていた。


 そんな彼に、


「フィーゼ、この子たちは?」


 と、シンシアはやっとコソッと声をかける。


「あぁ〜、コイツらは———」


「何だ?あの人間、僕たちが見えてるのか?!」


「やっぱり、本当に狩りに来たんじゃ?」


「私たちを狩るために、神堕ちに住処(ココ)まで案内させたの?!」


 フィーゼが話し始める前に口々に喋りだす3人。


 と、その時、


「あ、あの!」


 とシンシアがとうとう耐えきれず口を開いた。


「私はあなたたちを狩りに来たわけではありません。だから、その、そんなに警戒しないでください。



 私たちはあなたたちの敵ではありません!」



 辺りは一瞬にして静まりかえる。



 それは当然そばにいるフィーゼも然りだった。目を瞬かせながら主を見る。そしてたちまち、二人をそっちのけで、またヒソヒソと子どもたちだけの会議が始まった。そんな彼らの様子を2人は黙って見守るのだった。


 …ちなみに耳飾りのおかげで彼らの会話はシンシアとフィーゼにはダダ漏れだ。


「おいおい、人間が僕たちに話しかけてきたぞ?!」


「それに敵じゃないって…」


「んなわけあるか?!みんな騙されちゃダメだ!



 ———僕たちにとって “ 人間は敵 ” だ!」



 その言葉に、シンシアはビクッと反応する。


「ねぇフィーゼ、私たちは、



 人間は、精霊この子たちにとって、敵なの?」



 弱々しい声で尋ねてくるシンシアに渋い顔をしながら、さぁな、とだけ答えるフィーゼ。


「…あれ、そういや1人消えたな」


 気づくと、その中の1人が姿を消していた。


「親玉でも呼びに行ったか?」


 フッと囁くフィーゼに、親玉って?と首をかしげるシンシア。


「アイツらは門番みたいなことを任されてるんだろう、きっと」


「門番?」


「ここから先はアウスジェルダが住処にしてるだ。奴らはきっと、敵の侵入を防ぐ門番だ。そして、俺たちが襲来したもんだから、それを中に知らせに行ったんだろうよ」


「ちょっと待って、森って?どこにそんなの…。ただ真っ白い雪の平原が広がってるだけだよ?」


 シンシアはフィーゼの言葉に不思議そうに辺りをキョロキョロと見渡す。確かに先ほど彼と歩いてきた道のり、つまり自分たちの後ろには、木々が所狭しと生い茂っていた。しかしそれを抜けたこの場所および彼女らの目の前、子どもたちの背後より向こうは、ただの真白の平原しか見えないのだ。木々さえまばらにしか立っておらず、とても森とは言いがたい。林とも言うにもまだまだ見窄らしい。


「頑丈な結界が張ってあって、いくら魔力が強い貴女の目でも見えてないだけ。ガキどもがいる所がちょうど境界線だ。アイツらの奥に森があるんだよ」


フィーゼは淡々とシンシアに説明する。


今は一体誰がコレを張っているんだろうな。もう俺が張っていないからか、今や元同族の俺でさえ部外者扱いってわけか。まるで中の様子が見えない…と、そっと静かに息をつくのだった。


「結界…。あんな小さい子たちが、見張り役だってこと?」


「見た目はただのガキだが、言うて精霊だからな。中身は100を裕に超えている」


「100歳超えか…。私より全然幼く見えるのに、ホント精霊さんって不思議」


 年齢の感覚が人間とかけ離れていることに苦笑いのシンシア。


 すると、奥の雪原しか見えていなかったところから、子ども1人と、フィーゼくらいの少年が1人、突然現れたのだった。


「…ぇ、あの人たち、どこから?」


 急な怪奇現象に背筋をゾクっとさせながら目を丸くするシンシア。


「見たろ?結果の向こうから出てくると、こうして姿が見えるってわけ」


 と解説してやるフィーゼ。当のシンシアはすご〜い!と呑気に手を叩いている。まるでマジックショーを見てはしゃぐ子どものようだ。


 大人を引き連れてきた子どもはシンシアたちの方を指差しながら、


「イグォル様、奴らが侵入者です!」


 と叫ぶのだった。

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