第15話 お別れ
しばらく寝たふりをし、オオカミに起きていたことを気づかれないようにした。
普段のあの態度と、寝ているはずの相手にとる態度が違っていたので、起きていたのがばれるわけにはいかないと思ったからだ。
自然と起きたように見せかけてみんなに挨拶をすると、オオカミはまた私に唸ってきて笑ってしまった。
なるほど、やっぱりそういうことか!素直じゃねえなあ。
心の中で呟いた途端、なにかの映像がちらついたが多分気のせいだ。
オオカミの態度の違いに気づいても、口にも顔にも出さないように頑張ったがいつまで続くことやら。
いつかお前が素直に懐いてくれる日がきたら良いな。それまで唸られ続けるのか……トホホ。
やりたいことがたくさんできた上に、寝ている間にオオカミが本心を見せてくれたのがわかって幸せな寝起き。
なんて清々しい朝なんだ。
夢の内容は最悪で、少しずつ私の精神を蝕んできつつあるけど、オオカミの尻尾にビンタしてもらえたからかどこかへ飛んでいった。
一瞬のふれあいだったけれど、オオカミの尻尾は案外ふわふわして気持ちよかったな。
豚くんと影の精がオオカミを洗って綺麗にしているからだろう。
最初はあんなに汚くてみすぼらしそうな毛並みだったのに、洗うごとにツヤツヤでふわふわな綿毛に化けていくのは、見ているこちらの心が洗われてフワフワしてきているかのようだ。
そんなことよりも、夢のお陰で人を目標にするのをやめることができて、自分の選択が間違いじゃないと肯定されているようにも思えた。
しかし、未だに夢が私を殺しにきているのか助けに来ているのか判別がつかない。
ロシアンルーレットみたいなもんで、即死級の夢があれば希望を持てる夢があって、どれを引き当てるかは運次第ってことにしとこう。もしくは自分の捉え方次第。
夢に依存するつもりはないし、当てにするつもりもないけれど、見ている内容に怯えているよりはずっと楽しくて良いだろう。
ただ、今のところどんな結果を得られた夢だろうと、どれも内容が重くてきついくらいだ。
夢に押し潰されないために必要な受け止め方、もしくは流し方がもっとあれば……。
夢対策を考えつつ、そういえば、今回の夢はたった一日寝るだけですんだのを思い出した。
前みたいに、寝ている間に一週間が過ぎてなくてほっとしたのも束の間だった。
またなにかが頭に流れ込んでみえてくる。今度は気のせいでもなんでもなかった。
起きてしばらくしてから夢の内容を思い出すのととてもよく似ている。
部活の先生が違う学校へいくと決まり、横槍を入れていたメンバーがタマに「許さない。お前のせいで先生が!絶対あいつのせい!」と言っていた。
タマも、言われた通り自分のせいだと思っているときのこと。
ユキに「私のせいで先生が」とタマがいうと、ユキは「タマちゃんのせいじゃないよ。そうなって当然のことをしたんだから」なんて言って笑っている。
タマが困惑するのを感じていると場面が変わった。
タマのことをいじめていた人がタマと結婚したがっていて、ユキはそれに猛反対しているところだ。
その上、この縁談の話の前にユキがタマの家にきていたらしい。
頼まれてタマにあんなことを言ったのではなく、本当にやっているのかどうかをユキなりのやり方で確かめにきただけだったようだ。
なんて誤解を生みやすいタイミングで……。
言われたらショックで傷つくのを考えもしない確かめ方だ。
タマの家の前にきていた人たちは、指示を受けてタマを迎えにきたけれど、きっちりいじめてしまっていた。なんのためにつれてくるよう言われたのか知らなかったようだ。
ユキとタマの口喧嘩のときもそうだったが、タマにいくはずだった縁談も、第三者の立場にある人間の邪魔が入ったわけだ。
なんで他人を挟んだのか疑問に思いつつ、ユキの振る舞いは誰が何と言おうと変わることがなかったのを知って苦笑しかできなかった。
そういえば、相手がどんな風に感じるかを想像できないのは、自閉症の特徴のひとつでもあったな……。
ユキは自閉症だったのだろうか?いや、そんなことはなさそうだけど……。
普段普通に会話できていて、タマに人間関係のいろいろなことを教えられるくらいには普通だった。
ユキの描いた漫画も頭に流れてきたけれど、内容から考察すると、どちらかというとこれは……。
夢の中で生きているのに近いか?
思い込みが激しいオタクやストーカーが陥ってるあれが一番イメージしやすいだろう。
自分はとても強くて、たった今格好良いことをしているんだ。
守りたい子を全力で守る正義の味方の王子様です!
私がいないとこの子は生きていけないんです!
私は大天才でみんなが気づかないことにも気づけててすごいんだぞ!
といったところか……。
夢の内容がところどころ間違っているのか、私の認識が間違っているのか、私もタマのようにショックを受けて全部覚えきれてないんじゃないかと考えさせられもする白昼夢だった。
ゆっくりじっくり少しずつ足りない部分を思い出して足せばいいだけのことだろう。
どんな夢を見ても、何度同じくそみたいな喧嘩の夢を見ても、正義感の強いバカが苦手だし嫌いだと感じるのだけはぶれないな。
こうして夢を見ていて不思議に思うことが多くある。
起きた後しばらくして思い出す夢って、ふとしたことがきっかけで、急に頭に鮮明な映像として蘇るよな。
タマをいじめていた人はちゃんとユキの自殺を止めていたし、タマがどういうことを主張していて、誰のことを書いているのかをちゃんと説明していた。
ユキが裏で暴走していて、タマが孤立するようなことばかりした挙げ句酷く傷つくことを言ったからだ。
ユキが自殺したらタマが傷つくだろうからやめた方が良いと。
でも、ユキには誰の言葉も届いていなかったんだ……。
先生の言葉も、いじめていた人の言葉も、タマと喧嘩した時の言葉も。
話が通じない上に、精神的な加害行為を繰り返すやつはどうすればいい?
悪意もなにもなしに、人間関係を壊して孤立させている人を……。
相手の罪悪感を煽るようなことを言うやつを。
たとえ命が大事だといっても、大切だと思った人と天秤にかけることになったら、私は大切なものを守るために果たしてそいつを殺さずにいられるだろうか?殺した人を責められるだろうか?私ならどうする?
命よりも大切なものはない。
その命が脅かされているとき、私ならどうするかなんて答えはまだでないけれど、なるべく両方とも助けることができたらと思うよ。自分も含めてね。
あれから何度も喧嘩の夢をみたけれど、タマのせいでユキが死んだんじゃない。
ユキは自分で死ぬ選択を取り続けてたんだ。自壊の道だ。
道連れにされていただけなんだよ。
思うに、ユキは自分の中で答えが決まっていて、その答え通りのものが返ってこないと癇癪を起こすタイプだったんだろう。
うっすらと、音だけを覚えている希薄な夢を思い出す。
お母さんは、愛してくれてるからこんなにいろいろ教えてくれて厳しくしてくれてるんだ!
なのに、お兄ちゃんばっかり大事にして。
お兄ちゃんはお母さんに大事にしてもらってるのにあんな態度とって!
うちのことを見てよ。
タマちゃんはいつもうちが欲しいものをくれる。
うちがいないと死んでしまうか弱い子だから、ちゃんと守ってあげないと。
これがユキの夢なのか、はたまたユキに対する勝手なイメージなのかは私にはわからない。
自己愛性人格障害とも当てはまるように感じられるんだ。
見た夢の内容の反芻が終わり、頭を抱えた。しんどい疲れた。休ませてくれ。
ユキの抱えていた問題に気がつき、バカだと思ったことも、心の中で言ってしまったことも、心から反省した。
もし、タマに話をする機会を得られたなら、ユキのことバカって言ったらダメだろうな。
自分の言葉で傷ついたような発言を何度もされ続けていたのに、他人が馬鹿呼ばわりしたらきっと庇うだろうし、フラッシュバックさせて余計落ち込むかもしれない。
もしかすると、タマはユキの特徴について気がついたのかもしれない。死んだ後で。
気づいた上で、タマがユキのことをバカだと言ってしまったことをずっと後悔しているのかもしれない。気づいてなかろうが後悔してるのだけは確かだ。
根拠はないけれど、何となく……。
少なくとも、ユキのことはもう諦めさせた方がいいし引きずらないようにさせたい。
非現実的で事故のような流れだったとはいえ、私はお前の経験を夢に見てユキとはこれ以上もう関わらずにすんだのだから。
自分自身は好きじゃないし、相乗りしててもお前の考え方なんか嫌いだと思った。
気分が悪い。乗り物酔いした方がよっぽどまし。
それでも、他人事じゃないし、一度でいいから話したいと思った。顔も確認しておきたい。
これもまた、生きて帰るための気力になりそうだな。
悪夢でしかない同じ内容を何度も見せられ、精神的に殺されそうなくらいどんどん夢を通して攻められているのに、不思議と生きる目的がどんどん頭に浮かんでくるのだった。
時々夢をフラッシュバックしながら、豚くんと影の精、オオカミと私で穏やかに日々を過ごした。
私の体もオオカミの体も万全になりつつある。豚くんとのお別れも近いかな。
私のは、ぐうたら寝坊助が急に過度な運動したせいの筋肉痛だったけれど、オオカミの怪我は酷い殴打だったから、でっかいたんこぶができていた。
ほんとごめん……。
生きるためとはいえ、本当に悪いことをしたと反省しつつ、オオカミから唸られるのにもなれてきた。慣れたのを通り越して癖になりそうだ。
寝ている間に頬っぺたをなめてもらったからか、なんだかこのきつい当たり方が徐々に気持ちよく感じられてくる。半分冗談だけど。
飴と鞭ってこんな感じなのかな?
ふざけたことを考えるくらいの余裕はあるし、唸られても軽傷ですむ考え方、捉え方にできつつあった。
数日共に過ごしただけで、豚くんが、なぜオオカミがいても構わないから泊まって欲しそうにしていたのかもわかってきた。
藁の豚と木の豚は、自分達の粗末な家があるくせに、豚くんの家で寝泊まりしていたそうだ。
それなのに畑仕事も家事も手伝わないで、一日中ぐうたら家で寝てばかり。
その癖、食事のときには豚くん以上に飯を平らげてしまうから、我慢の限界がきていたのだと教えてもらった。
そら怒るわ……。
あの二匹がオオカミを酷く怖がって始末しようとしたから、オオカミとは仲良くなってあの二匹をどうにかしたかったらしい。
だから、私の提示した条件がとても都合がよかったらしい。納得。
私と豚くんは畑を手入れする担当になり、オオカミと影の精は森へ狩りに行く担当になった。
オオカミと影の精は特に仲が良さそうだし、狩りをするのにも相性がとても良いようだった。
影の精が見かけた獲物の姿に化け、仲間を装って近寄る。
影の精が意識を逸らしている間にオオカミが仕留める。
獲物がなかなか見つからない時は影の精がオオカミに化け、オオカミと手分けをしているようだった。
もし傍にいないときに獲物を見かけたらそれぞれで始末もできる。
とても良いコンビなだけでなく、いつも仲良さそうに帰ってくるのを、豚くんと夕飯の支度をしながら微笑ましく見守る日々を心から好きだと思えた。
私はロボットの補佐程度ではあったけれど、旅に出る前は畑いじりをしていたし、豚くんのお手伝いをするのに十分なはずだ。多分……。
ロボットに囲まれていたから、他人と作業するのは初めてだし、ちゃんとうまくやれているかどうかの自信は皆無だった。
豚くんはとてもテキパキ作業をしているし、お仕事も簡潔で的確に教えてくれて、一緒に作業しやすくはあった。
しかし、評価もなにもしてくれないから、ちゃんとできているかどうかの不安はぬぐえなかった。
聞いてみた方がいいかな?
聞こうか決められないまま作業を終え、家に帰る途中でようやく勇気を出して聞いてみた。
「私はちゃんと仕事をできているでしょうか」
豚くんは驚きながら振り向き、尻尾をぷるんと振った。可愛い。
「なんてことを聞くんですか?一緒に作業してくれてるだけでこっちはありがたいのに」
このときに豚くんが今まで兄弟たちとどんな生活をしてきたのか聞いたのだけど、結局私はちゃんと仕事ができてるとは思えなかった。
働かずにぐうたらしてた子たちの話を聞かされて自信がつくだろうか?
自信がないなら胸張れるくらい頑張ればいい。
そうだ!豚くんの作業を見本にして比較したらいいんだ。対抗心を燃やすのではなく、ひたすら学ぶ姿勢で!
良い手本が傍にいてくれたおかげで、旅に出る前にもしていた畑作業がいつもより楽しく感じられた。
手入れする畑が違ったからというのもあったのかもしれないが、やはり一番でかいのは豚くんの存在だ。
誰かと何かをして暮らすのって、案外楽しいもんなんだな。
ロボットや精霊たち、家畜の鶏たちと暮らすのも楽しかったけれど、童話の動物たちと暮らすのも楽しくて、ずっとここにいたくなってしまうほど。
でも、いつかは旅立つときがくる。
切なくなる考えが浮かんだけれど、そのときがくるまで思いっきり楽しめばいいだけさ!
そんな平穏な日々のおかげか、夜中だけでなく昼間も悪夢に見舞われたけれど、元気にやっていくことができた。
オオカミは相変わらず私を見るなり唸っている。
もはや私にとってオオカミの唸り声が挨拶の鳴き声になりつつあったある日のこと。
豚くんの兄弟たちが久々に顔を出し、食料を恵んでくれと頼んできたのだ。
豚くんに追い出され、畑を作って手入れしようとしても長続きはせず、森へ木苺や木の実を探しに出てなんとか暮らしてきたけれど、もうじき冬になる。
冬になれば、森で木の実も木苺もとれなくなる。
だから、冬の間だけでも蓄えを分けてほしいそうだ。
豚くんは少し困った様子だ。
狩りをしたから干し肉があって、畑もいつも以上の豊作だったようでいつも以上の蓄えはあるけれど、私たちが一緒に冬を過ごすから他の豚二匹分出せるかわからないようだ。
豚くんが一生懸命計算しているとき、すぐに蓄えが出てこなかったのを見た他の豚二匹は一瞬悪い顔をしていた。
嫌な予感がする。
根拠もなにもなくて、具体的にどう嫌な予感がしたのかさっぱりわからなかったけれど、経験上の勘ってやつかな?
こういうとき、奴隷生活を送ったのも悪くはなかったのかもしれないなんて、自分を全肯定しそうになる。
まだ何も起きていないけれど、警戒しておくにこしたことはないからね。
長い間考えて悩んだ豚くんは、ほんの少しだけ蓄えを他の豚二匹におすそ分けしていた。
「うちも余裕がなくて」
すると、豚二匹はぶひぶひ鳴きながら、自分たちで蓄えを作るためにオオカミを貸してくれと提案してきたではないか。
嫌な予感の正体ってこれだろうか?
普通に聞いてたら、ぐうたら怠けてた豚たちの自立する一歩に聞こえるけど。
あんなに怖がってたオオカミを自分たちから欲しがるなんて、怪しくないか?
豚たちがいうには、影の精とオオカミの狩りの様子が楽しそうだったから、自分たちも同じことをしてみたいというのだ。
確かに楽しそうだったけど。
私はすぐにオオカミを貸すのに反対した。
たとえ、蓄えがなくてこの豚二匹が死ぬとしても、オオカミに何かあるのは嫌だったから。
ふと、いつしか見た白昼夢が頭をよぎる。関係ないかもしれないけど……。
影の精が代わりに行こうとしたけれど、豚二匹は影の精を連れて行こうとせず、頑なにオオカミをつれていこうとしていてますます怪しい。
狩りなら影ちゃんでもできるのに、どうしてそこまでオオカミにこだわりだしたんだ?
オオカミは私たちとずっと一緒にいたからなのか、二匹の豚たちのことも襲わないし興味も示していた。
私にだけは相変わらず唸ってくるけどな。
豚くんは二匹の豚の提案に渋い顔をしていたけれど、やはり兄弟だから放っておけなかったようで、オオカミにしばらく狩りを頑張ってあげてほしいとお願いしていた。
止めたいと思ったけれど、根拠も何もない予感だったから止めるべきか悩んだ末に一言だけ。
「どうしてオオカミにこだわるの?うちの影ちゃんも狩り上手だよ?」
豚二匹は一瞬目をそらし、「仲直りの一環というか」「影は旅人様の大事なパートナーなんで申し訳ないというか」なんて言い始めた。
わからなくもないけど、違和感を拭えない返事にしばらく頭を悩ませた。
勘ではオオカミは行かせちゃだめだといっているけれど、豚くんの兄弟を心配する気持ちもむげにできなくて、結局オオカミを貸すことになった。
オオカミは豚くんからのお願いごとに短く吠え、豚二匹について出て行ってしまった。
止めればよかった……。
まだ何も起きていないのに、強くそう思う自分がいた。
根拠のない後悔ばかりで、豚二匹に大人しくついていくオオカミの後姿を見守ることしかできなかった。
無事に帰ってきて、また冷たくあたってくれよ。できれば素直に懐いてくれたら嬉しいけどさ。
願いもむなしく、オオカミが帰ってくることはなかった。
豚二匹はオオカミが死んだと言いながらヘラヘラ笑い、冬を越す食糧を要求してきたではないか。
やっぱり裏があったんだ。それが目的だったんだな。
豚くんは複雑な表情をしている。
影の精はあからさまに怒った顔をしていて、私はひたすら後悔した。
「ところで、オオカミの死体だけでも返してくれないかな?」
後悔しながら豚二匹にいうと、豚たちはオオカミの死体は売り払って食糧にしたと言い出すではないか。
こいつら殺して私たちの食料にした方がいいんじゃないか?
思っても口には出さなかった。
豚くんにとっては兄弟だし、オオカミをとめなかった私が悪いようにも思えて……。
口に出せなかった。
オオカミのいない生活はとても静かで寂しいものだった。
止めていれば、止めていれば……。
そんな言葉ばかりが頭に浮かんでぐるぐると回る。
直感でわかっていたのに、まだ起きてもない不安よりも、死ぬかもしれない二匹が頑張ろうとしている姿を信じてしまった。
馬鹿だなあ、ダメだなあ……。
どうしても、泣かずにも落ち込まずにもいられなかった。
だって、なんとなく嫌な予感があったのに、善性を信じてかけがえのないものをなくしてしまったのだから。
ただ、不思議なことに前にもどこかでこんな経験をした気がするんだ。
このあとなにかがあって、私も死んだような気が……。
豚くんは二匹の豚に対して怒りをあらわにしていたけれど、力なく項垂れてあとはなにもしなかった。
影の精はひたすら泣いた後、私の服の裾をひっぱり、拳を振り上げる仕草を見せた。
やり返そう、仇を討とう。だろうか?
私もその気だった。
普段めちゃくちゃ唸られていたけれど、物凄くしんどい夢を見てぐったりしていたときに優しく舐めてくれたことは忘れない。
けれど、豚くんは私たちのことを止めてきた。
「どうか兄弟を許してほしい」なんて元気なさそうにいう豚くんに「お前一生兄弟の奴隷や都合の良い存在として生きていくのか?」と質問すると、豚くんは諦めたような顔をしていた。
豚くんは目を合わせず返事もせずに項垂れている。
やり返す気がないなら、他に何があるだろうか。
豚くんをこのまま放っておけば、あの兄弟の面倒を一生みなければならないだろう。
豚くんがもし畑仕事できなくなって、兄弟の面倒をみれなくなったら、オオカミと同じように殺されるかもしれない。
私がオオカミと先に鉢合わせて襲われていなければ、自然な流れで兄弟から解放されていただろうに。
私の責任でもあるだろう。
「兄弟を殺すか、一緒に旅に出るか……一生兄弟の奴隷をするか。豚くんは選ぶことができるよ。私が思いつかないだけで、他にも選択肢があるかもしれない」
豚くんはようやく項垂れるのをやめてこちらを見上げた。
奴隷として生きたことがあるからこそ、奴隷でい続けるのをやめさせたい気持ちが強かった。
私が結婚したがらないのも、私の知る結婚生活が奴隷と大して変わらないからだ。
やっと手に入れた自由と快適な暮らしをみすみす手放すわけがない。
豚くんにも自由を味わってほしいという身勝手な願いからいろいろ提案したけれど、あとは豚くんがどうしたいかだ。
豚くんは、相当ショックだったのか沈んだ表情で「しばらく考えさせてほしい」といって藁布団の中に潜り込んでしまった。
ゆっくりでいいからね。
心の中で呟き、豚くんが寝るのを遠くから見守った。
怒りに打ち震える影の精とともに、あの豚二匹を懲らしめる計画をいろんなルートを想定して練り上げていった。
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