第14話 悪夢の輪

 しばらく夢を見ていなかったけれど、また夢を見る夜がやってきた。


 ユキが好きな人の話をし、漫画が好きじゃないことをタマに告げているところからだ。


 今回少し違っているのは、タマの鬱思考がない上に、天井の照明にでもなっているのか、変に高いところから見下ろしている点だ。


 タマがどんなやつか見ようと思ったけれど、後姿しか拝めなくて非常に歯がゆい。


 動こうとしても動けないし、本当に照明かなにかにでもなったのだろうか?


 鬱思考にのまれないのはありがたいけど、これはこれでなんか気持ち悪いな。


 次はタマがユキに関わるのはやめようと切り出したところが見えた。


 ああ、言い合いが始まるぞ……。


 憂鬱な気分で眺めていると、全く同じ流れで言い合いが始まり、話し合いがまったくできていなかった。


 おまけに、タマ視点だとだいぶ抑えているようだったが、今の視点から見ると、話し合いにならない上に怒ってるって言われ続けたせいか、説明を何度も遮られたからなのか、あからさまに火が点いている。


 タマが何度もどうしてそう思ったかユキに話そうとしているのに、ユキによる話の中断だけでなく、外野からの否定や野次の邪魔もあった結果、我慢しきれなくなった様子でユキを馬鹿呼ばわりまでしている。


 あれ?前にみた時こんなのあったか?


 こうしてみても、話し合い、言い合いになった途端に会話が成立しないのが不思議でならなかった。


 外野の野次をみても、話し合いを妨害しているようにしか見えない。


 二度目になるとコントか!なんて言いながら笑うことはできず、うんざりしながら眺めるだけだった。


 ユキの豹変ぶりも、千年の夢から覚めそうな態度で、タマの剣幕も呆れそうだった。


 二人の問題なのに、仲裁するのならまだしも、野次を飛ばして邪魔してるのなんか論外だろう。芸能人の不倫やスキャンダルで好き放題文句言ってそうだな。


 しんどいな……。もしかして夢見るたびにこれ見るの?ゆっくり休みたいよ。


 この夢のお陰で、ユキがお礼しにきたのを受けずに帰して良かったと思い始めていて感謝しそうになったけれど、告白したりなにがしかしてから玉砕した方が、こんなやるせない気持ちにはならなかったんだろうな……。


 やり場のないなんともいえぬ気持ちでこの夢を見ていると、また覚えのない場面がきた。


「私もどうしてそうなるか聞いててわからなかったんだけど、私にも馬鹿っていってるってことだよね?」


 野次を飛ばしていた人間から喧嘩に横槍が入る場面がでてきて、違和感を覚えた。


 あれ?これも前に夢見た時にあったっけ?


「そんなに順番に話せるもんなら話してみれば?」


 また違う人間からの横槍も、前回と違って入っている。


 一方で、このあと理知的な提案をする人はタマの言い分を理解してくれているではないか。


 これも前回と違うぞ?


 それで、部活をやめてもらうなんて言われる流れと、ユキが辞めると言い出し……。ここは前と同じだ。


 首を傾げつつ見ていると、やっとのことで、例の理知的なメンバーがお互いの主張を両方とった提案をしている場面にきた。


 また、タマが関わるのをやめようって話を切り出すきっかけになった話から、切り出すに至った考えと理由を説明していた。


 ユキもひとつひとつ、内容を覚えられないからという前置きをしていたので、聞き直しつつ返事をしていっている。


 お互いの言いたいことが順番に終わったので、仲直りと約束をするところになった。


 ユキからタマへの要求は「昔のことは忘れて、全部なかったことにしてもらう。こちらからの質問に嘘はつかないし隠し事もなしにする」というものだった。


 タマからユキへの要求はなかった。


 また同じように周りから本当に何も要求しなくていいのかを聞かれ、タマは無理に要求するよう言われていた。


 ユキは「 関わりたくないって言われたら死ぬ」って圧をタマにかけている。


 タマは「仲良くしてほしい」と答えていた。


 同じ流れで野次馬たちが掘り下げて聞いていたから「友達として」と答えている。


 また、同じように周りの人間が残念そうな雰囲気になっている。


 全く同じ流れであくびが出て、夢のはずなのに眠くてたまらなくなっていた時だった。


 周りの野次を飛ばしていた人たちから、「私もどうしてそうなるか聞いててわからなかったんだけど、私にも馬鹿っていってるってことだよね?」なんて言われ、答えようとすると「忘れたんじゃないの?」と言われていた。


 ユキの提案した約束を元に、ひどいいじめがはじまっていた。


 二人付き合っちゃえとか言われていて寒気も感じる。


 なぜ?


 見ていても不可解だった。なぜ付き合わねばならないのか?


 タマをいじめている人はみんな笑っていて、人間の醜いところをまざまざと見せつけられていた。


 奴隷時代に反吐がでるほど見て知っていたけれど、改めてみると胸糞悪いにもほどがあった。


 お互いの主張を両方とった提案をした理知的なメンバーと、いじめに加わらないで見ていた人とユキが周りをとめていた。


 部活の場だった図書室にあとからやってきた先生に、理知的なメンバーをはじめとした止めに入った人たちが、何があったか話していた。


 先生はいじめに加わっていたメンバーを連れて行き、どういうつもりでなにがあってあんなことしていたのか聞いていた。


 タマは落ち込んだ様子だ。


 ユキはタマに一生懸命弁明している。「こうなるとは思ってなかった。わざとじゃない。ごめん」


 タマはわざとじゃないってわかってるといって頷いていた。


「止めようとしてくれてたでしょ?やり直したかったんでしょ?」なんて言いながら。




 そのバカのせいで酷い目に遭ったのによくそんなこと言えるよな。


 呆れながら見ていたけれど、タマに乗っているときにはなかった場面に困惑しながら推測を進めていった。


 こいつ、あまりのショックで覚えてないのか?


 それとも、「いじめはいじめられてるって自覚がなければ、周りの人に無理はさせない」って信念かなんか知らん自論……暴論を突っ走りすぎて本当になにもなかったことにしたのか?


 それとも本当にお願い通り消しちゃったのか?


 自分で記憶を消し飛ばしたのか、ショックで消し飛んだのか、そもそもショックがでかすぎて覚える事すらできずに流れたのか、他の何らかの要因なのか……。


 夢が何を伝えようとしているのか気づけたような気がした。欠けている記憶だ。


 それに、もしかすると自分にだって、自覚がないだけで思い出せない、覚えていないことがたくさんある可能性にたどり着けた。


 親に売られる前はどこで何をしていた?


 何歳のときに売られた?


 思い出の順番は?


 思い出せる限り古い記憶はどの話?


 名前や住所、普段使ってるものを忘れたなら、自分の異常に気付きやすいのかもしれない。そうでない場合は厄介そうだな。


 夢は学びの場である可能性を視野に入れつつ分析を続ける。


 もしかすると、夢って伝えたいことが一つではなく複数ある可能性だってあるし、伝えたいことが何もない可能性だってある。


 ただ本当に私を殺しに来ている可能性だってもちろんある。


 生きるのに必死なのに夜な夜なこんな胸糞悪いもんを見せられて、正気を保っていられるだろうか?


 好きな人と同じ顔で同じ名前の人間が悪意なく大暴れして、人の心引っ掻き回してるのを見せつけられて。


 正直なところ不安しかない。休みたい。休ませてくれ。


 でも、私がユキを突き放した選択を肯定してくれているようにも思えてきて、すごく複雑な気分だった。


 ただ、夜はぐっすり眠らせて欲しいし、良い夢も見させて欲しかった。悪夢ばかりはきつすぎる。


 今言えることは、タマに乗っている間は記憶が一緒に欠けている。もしくはそもそもタマに記憶されていない可能性が非常に高いってことだな。




 またしばらく様子をみていると、野次馬メンバーが泣きながら図書室へ戻ってきた。


 次はユキが先生に呼び出された。


 タマは庇ったけれど、ユキはそのまま連れていかれ、長い間先生と話していた。


 ユキは酷く泣きながら事情を話している。


 タマをこんな目に遭わせるつもりじゃなかったこと。タマが噂通りのことをしてないって気づいたこと。


 先生は気づいていても、タマ本人にその気がないのに裏で勝手なことをしないよう釘を刺し、どうしてやっちゃだめなのかも説明していたけれど、肝心のユキはわかっていないようだった。


 先生の説明はとても根気強かったけれど、ユキには何も伝わっていないのか、何も理解できていないのか、客観的にみてもまったくわからなかった。


 ユキはしばらく大泣きしてから戻ってきた。


 先生は「大変だね」なんていっていたけれど、タマは俯きっぱなしだ。


 ユキが戻ってきて、先生がいないときのこと。


「ちゃんと守るからね」なんて、タマに言っていた。


 タマは固まって返事をせず、何の話かわかっていなさそうだった。




 場面が急転換し、ユキが男の子たちに対してなにやら言い争いを仕掛けているところだった。


 ユキは結局、先生に言われたことを聞いていなかったらしい。




 またも場面が急転換した。


 今度は最悪なことにタマの鬱思考に見舞われながら、前に一度みた夢と同じやりとりを聞かされることになった。


 第三者視点……楽しかったな。恋しいまである。


 ユキはまた同じキャラの名前を出し、このキャラが暴力しなかったら好きだという前置きの元でタマが質問されているところだった。


 まったく同じ流れだった。


 この夢は私に何が言いたい?何を伝えたい?タマの記憶が欠けているってことはわかったけど。


 私からしたら、片思いでまた会いたいと願っていた子への恋心が告白前に粉々に砕かれただけなんだけど?


 見たくもなかった一面をみてショックを受けて失恋して……。


 でも、タマと同じ目に遭うまでに知れてよかったってことでもあるのか?だったら、複雑な気持ちを拭い去れないけど、これでよかったのか……。


 それに、いつまでたっても夢を怖がってばかりでいられないから、なんのために夢を見ているのか考えてみることにした。


 幾分か恐怖はやわらぎ、意味や目的、理由を考えるのが楽しくなってきた。


 消えた恐怖心ってどこへいくんだろうな?不思議だ。


 最初は、夢が生きるのに一生懸命な私を殺しにきてると思ってただひたすら怖かったけれど、考えて分析しようとすると一つも怖くなんてなかった。


 夢って楽しいな。興味深い。あんなに怖くて嫌だったのが嘘みたいだった。特に第三者視点!あれを毎回できればいいのに、どうやってやるんだ?


 疑問に思いながら夢を見ていると、タマがユキの自虐に耐えながら、何を言っても伝わらないしわかってもらえない辛さを抱えつつ、ユキのことを嫌いになりきれない気持ちの間で葛藤しているところだった。




 話し合いたくても話し合いができない相手と、どうやってわかりあえばいいのか。




 タマの正直な悩みだった。


 話し合いをせず、漫画やアニメ、ゲームの話なら一緒にしていて楽しいし普通に会話ができるから、それだけで十分。




 そうやって自分を納得させて、もうわかってもらうのはきっぱり諦めているようだった。


 タマはいろいろあって辛くても、ユキにだけは相談しないようにしていた。




 相談してもわかってもらえない。話し合いができない。


 話を聞いてもらえない。理解してないのに感情的に答えられる。


 何を伝えようとしてもわかってもらえないんだ。わかろうって頑張ってくれてるのに。


 漫画やゲームのときには会話できるのに……。


 せめて、仲が良かったというだけで一緒にいじめられないでいてくれたらいいな。




 そう考えてメールで様子を聞いたきり、何も言わないようにしていた。


 例え理解してもらえる相手だったとしても、傷ついて欲しくないからなにもいわなかっただろうけどな。私と似ているから。


 私は薄々タマが何者なのか目星をつけられたけれど、確信がない。


 もしこの確信なき推理が正しかったら、私はいったい誰で何者になるんだ?


 夢を見るのが怖かったけれど、様々な可能性ができて、見るのが少しずつ楽しくなってきた。


 私は誰で、夢はなんのために見ていて、夢を見ている私は誰の視点なんだろう?誰の視点でもないときは?


 知りたくて、可能性を考えたくて、うずうずして仕方がない。


 他にも気になることが山ほどある。


 私はなぜ童話チックな世界にいて、どのようにして閉じ込められたのか?


 ユキはなぜ泣いていたのか?好きな人と漫画の主人公のことも気になる。


 気になる、知りたい、調べたい、試したい、確かめたい!


 知らずにはいられない。気になって仕方がない。知ることへの欲求が加速して止まらない!


 夢に対する恐怖を克服した先は、底無しの好奇心だった。




 しばらくして、タマとユキの距離感は普通に仲が良さそうなところまできていた。


 前のように楽しく話せそうな話題を探し、何事もなかったかのようにたくさん話していた。




 仲直りうまくいったのか?良かったじゃん。あんなことがあったのによく仲直りできたな。


 奴隷生活を終えてから、友達なんてロボットと妖精しかいない私からすれば、とても立派ですごいことだった。


 私の中にあるユキへの想いは冷めてしまったけれど、タマの仲良くしたい気持ちがまだあるのだって、すごいとしか思えないことだった。


 夢で見ているユキと、私の知っているユキが同じかわからないのに、私の気持ちは一気に冷えてしまったよ……。




 高校生になったタマの様子までこの夢に出てきた。


 だいぶ長い夢だ。今度は何日眠ってるのだろうか。


 タマの様子はというと、部活で「迷惑してるからやめさせてくれ」と騒いでいるのが聞こえてしばらく期間があいたあとにユキが家にきていた。


 その上、ユキに一番言われたくない言葉をいわれ、素直に答えたらすぐ家を飛び出して行かれて酷くショックを受けていた。


 部活で味方した人が誰かわかって、頑張って隠していたのに連絡をとられていたことに気づいたらしい。


 それで全部繋がってもうどうでもよくなっているようだった。


 ユキに信じてもらえなかった結果、本当に悪いことしてないなら堂々としていればいいという考えの元、馬鹿な行動に出て家の前で待ち伏せされ、酷いことをたくさん言われていた。


 鬱思考がくるのがわかって、両手で耳を覆いたくなったけど無駄だった。




 いくら頑張っても、いくら耐えても無駄だった。


 人がどんな気持ちでずっと相談もせず、誰にも頼らないでいたと思ってるんだ。


 なんで一人だけ……私だけ約束を守らないといけないの?なんで?


 関わりたくないって言われたら死ぬって言われたから……二度目のチャンスがないのはあんまりにも酷いと思ったから、仲良くなりたいって要求したのに、なんでそんなこというの?


 ああ、そうか。今までずっと周りにいたみんなと同じで、先輩も私のことを仲良いフリして背中から刺しに来たんだ。


 だからあんな要求をしてきたんだ。死ぬとか言って脅しまでかけて。スパイと一緒じゃん。


 話し合いができないのか、しようとしないのかわからないけど……信じてくれさえしないんだ。


 もしかしてわざと話し合いしようとしてくれなくて、わかろうとしてなかったの?




 今までのことは……仲良くしてくれて優しくしてくれて、親切にしてくれたことなんか全部嘘で、罠にかけられていただけだと思ったタマは、本音を洗いざらい日記に吐き出していた。


 あの時のすごく嫌な想いをさせられたのだって、全部ユキの罠だと思ったようだ。


 止めてくれたからわざとじゃないって思っていたのに、油断させるために味方のフリをしていたんだと思い込んでしまっていた。




 どうやらタマは全く忘れたわけでもないらしく、魂に相乗りしててもよくわからない状態だった。




 約束でお願いだったから聞いてあげていただけ。


 言わされる状況にあったとはいえ、自分で友達でいようと言ったから律儀に守ってただけ。本当は優しくしてくれたのを信じたかった。


 自分が馬鹿だと言った通りの馬鹿だっただけで、今まで関わってきた他の人たちのように、仲いいフリして騙しに来たんじゃないって信じたかった。


 でも、その度に自虐する先輩が頭に浮かんで、バカだと思えば先輩の自虐が、馬鹿じゃないと思えば心の柔らかい部分を刺しにした刺客としか思えない。




 とにかくこの鬱思考をやめてくれ。気が狂いそうだ。


 それに、第三者視点でみたユキは本当に賢くなかったし、賢くないからこそ起きたマッチポンプみたいなもんだったと思うぞ。言っちゃ悪いけど罠張れる頭があると思うか?


 連絡取っちゃった人だって、ユキのことそんな話し合いができないヤバイやつだと思ってなかったんだよ。


 私もビックリしたくらいだ。お前だって記憶が吹き飛んでるくらいショックだったんだろ?ないからわからんか。


 説得したくても、乗っかってるだけで何もできないから精神的な自傷に巻き込まれてボロボロになって、ひたすらしんどくなるだけだった。


 私は夢じゃなくてこいつに殺されかけてるのではないかと思うくらい。


 しかし、タマとこの夢から学ぶことは多くあり、生きる目的もたくさんもらえた。最初は殺しにきたのかと思っていたけれど……。


 まず、タマの世界のユキが言っていたゲームと漫画のキャラクターを知りたい。中の人と。


 タマが何者で自分が誰なのかも知りたい。


 次は自分の記憶をまとめてたどりたい。覚えている限りメモして整理してみたいんだ。


 それから夢のコントロール。視点の変え方だ。さすがにもうタマとの相乗りは無理だ。




 早速試しにうろついてみようと頑張ってみると、ユキが酷いことをたくさん言われて精神的に追い詰められ、自殺させられているところだった。


 ユキのとった行動でタマが壊れたことと、本当に漫画のキャラが好きなのかをからかわれながら言われていたこと。


 ユキはタマに嘘をつかれたんだと言われていたこと。


 ユキがタマのこと好きでレズだとネタにされていること。


 知ってる部分だけで判断するなら、心を折って嘘の自白をさせたようにしか見えなかったけどな。


 酷いいじめの内容だけで推測すると、ユキの好きはお付き合いしたい方の好きで、タマはそれにちっとも気づいてなかったってことか。


 周りはなんであれだけで恋愛の好きだって気づけたんだろう?


 やっぱ第三者視点なんていらないや……。


 せっかく頑張って隠して耐えていたのに、良い意味でも悪い意味でも一番関わってほしくなった人に連絡とられた上に、一番信じてほしかった人に酷いこと言われてああならない人間いないだろうよ。


 ユキはユキでやっぱり頭が残念だったから、そんなこと言ったらどれだけショックか想像できなかったんだろうな。




 あまりの胸糞悪さに目が覚め、豚くんの家にある藁布団の香りがこんなに落ち着ける寝起きはこれから先ないと思えるほど良いものだった。


 寝起き一発目からしんどくて、目を閉じたままぐったりしていると、オオカミが近寄ってきて鼻をスンスンさせててくすぐったかった。


 てっきり叩き起こしにきたのかと思ったのに。


 このまま目を閉じて寝たふりをしていると、チロっと頬っぺたをなめてくれたではないか!


 この子ツンデレかなにかなの?


 嬉しさのあまり叫びながら飛び起きそうになったほどの出来事だった。


 しかし、飛び起きたらまた唸られるかもしれない!こんなに心が踊る出来事はめったにないのに!


 ホラー映画を観ている時、かくれんぼしていて鬼が近くをうろついているときよりも、大暴れしている心臓を必死に止めて抑えようとした。


 心音がオオカミにまで聞こえてたら嫌だな……。起きてることに気づかないでくれ。


 頼む、もう一度で良い。もう一ペロ……。


 願いもむなしく、オオカミは鼻を私の鼻に少しこすりつけてまたどこかへいってしまった。


 去り際に尻尾で軽く頭をビンタしてくれて思わず声をあげそうになる。


 それだけでも十分嬉しい!!むしろご褒美です!もっとお願い!


 辛くて暗い夢のあとに待っていたのは、オオカミからのあたたかいお迎えだった。

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