浪漫を追い求める翼
「はあ……はぁっ……!」
もうどれくらい戦ったのか、終わりの見えない掃討戦は、今もまだ続いている。最初のうちは、暗黒術師さんの範囲攻撃魔法だけでも簡単に蹴散らせていた
頭数はかなり減ったはずだけど、実態としてはまだ半分くらいかもしれない。
「ナズナ嬢。無理はするな。余裕のあるうちに、態勢を整えろ」
「まだ大丈夫!」
わたしは、これまでにはないくらい絶好調だった。誇張なく、普段の倍以上の能力が出せている。確かに、この状態なら『
……それでもなお、ここまで苦戦を強いられるなんて。
次はどの群れを狙うか考えていると、遠くから、もの凄い勢いでトレイシーが吹っ飛ばされてきた。しっかりと受け身を取り、体勢を整えながら、わたしたちがいるところまで滑ってきて、ぴったりと止まった。
「トレイシー!? 大丈夫!?」
「もちろん、おれは大丈夫だよ。様子を見にきただけさ。でも、あんまり状況は
「そんな……」
でも、無理もない。これだけの長時間に渡って、クラゲンさんは……
……だから、わたしたちに、もっと力があれば。あるいは、もっと多くの
……それで、負けそうだから諦めて逃げようってこと? トレイシーは、生きて帰るために、
……それはなんか、嫌だ。
「だからもう、出し惜しみはやめようって思ってね。間違いなく、ここが踏ん張りどころだ。おれはもっと
「……代役って?」
トレイシーだけは別行動してたから、この戦闘中に何してたのかは知らないんだけど。
「なるべく脅威度が高い奴らを、可能な限りたくさん引き付けて、しっかりぶち殺す。それだけ。こういうときに使える切り札を、お友達からもらってるんだけど、おれが使うよりは、ナズナが使う方がいいんだよね」
「それは、どうして?」
「ナズナのほうが、性能の限界が高いからさ。
具体的に何を使う気かは知らないけど、そういうものなのかな。
トレイシーは、わたしのことを買い被り過ぎている気がする。わたしなんて、そんなに大層なものじゃないのに。
「もちろん、危険な目に遭わせることになるし、嫌だったら断ってくれていい。だけど、もし引き受けてくれるなら。とっておきの奇跡を、君に譲ろう」
そういってトレイシーが差し出したのは、『
「ずるいよ、トレイシー。そんなの見せられたら、わたしは断れないって、知ってるくせに」
「はは。違いない。ごめんよ。……なんでもいいから、ナズナの叶えたい望みを強く抱いて、その結晶に祈って。そしたら、後はあいつが導いてくれるだろう。それじゃ、お願いね」
トレイシーから『
……困難を跳ね除ける、力が欲しい。
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ふと気が付くと、真っ白な空間に立っていた。何もかもがあやふやで、立っているところもおぼつかない。ここはどこだろう?
「
ぽつりぽつりと呟くのは、透き通るような白をまとった、綺麗な薄い金色の、短髪の少女。身長は、わたしよりちょっと低い。だいぶ小柄だね。
ゆっくりと振り向いたその顔は……トレイシーと同じ、落書きみたいなシンプルな顔だった。丸い輪郭の顔に、縦線の目がふたつ、横線の口がひとつ。
少女は、こちらを見て、不思議そうに首を傾げた。
「……君、
「……あなたは?」
トレイシーが言っていた「あいつ」だ、というのはわかるけど、それ以外は何もわからない。
「わたしは、
「えっと……。……ナズナです」
掴みどころがなさすぎる。……この子も
でも、
「ナズナ嬢。言っておくけど、わたしは。
なんか、凄い物騒なことを言ってる。普通にヤバそうなんだけど。
……まぁ、嘘が言えないなら、どんな結果に繋がるとしても、本心を言うしかないね。
「……どこまでも、浪漫を追い求める力を。今直面してる困難を
「……ふうん。それが、
「……うん。……たぶん、きっと……」
ギリギリ不快じゃなかったっぽい。命拾いした。
わかんないけど、「お友達」って呼んで、切り札として頼りにしてたみたいだし、少なくとも、絶対嫌われてはないんじゃないかな。
別に、機嫌を取っておきたい、みたいな打算はないよ。……ちょっとだけしか。
「
随分と悲観的だ。興味ない、なんてことはないと思うんだけど。それでも、もっと特別に想われたいと、強く求めてるのに、手に入らないってことかな。……だったら、辛いよね。わかんないけど、なんかわかるよ。
「願い……? これのこと?」
少女はそれを受け取り、しげしげと見つめてから、深々と溜息をついた。なにか間違えちゃったかな?
「ふう……。……それ、
理想の武器、か。でも、それって状況によって違うよね。剣で切り、
何でもできるものがあればいいんだけど、そんな都合のいいものはない。適宜持ち替えないと、全ての局面には対応できない。
「ナズナ嬢は、欲張り。でも、それでいい。多くを望むなら、何でもできる
そう言って差し出されたのは、輝く純白の刃を持つ、変哲もない片刃の剣だった。その意匠は、トレイシーの『
「それは、
「……ありがとう、ファイリィ・ボルテイア。トレイシーのことは任せて」
「ボルテイア、でいい。また会えるといいね。……いや、別にどっちでもいいか」
そこは
----
目を開けると、元の空間だった。トレイシーは……まだいる。もしかしたら、ほとんど時間は経っていないのかもしれない。
「……うん。話には聞いてたけど、やっぱり凄いや。
「承知した。そちらも、無茶はするなよ」
ホロウェンバークスでは、なんとか団の『レコンダガー隊』隊長だ、って言ってたっけ。どれくらいの規模の部隊なのかは知らないけど、指揮能力はトレイシーにもあるんだね。
……よく見たら、その手には、『
(目標、
当たり前のように、心の中で語りかけてくる。普段のぽやぽやした感じの言葉遣いと違って、凄く厳格だ。こっちがトレイシーの本来の姿なのかもしれない。……ちょっと、格好いいじゃん。
だけど、強そうな
(
矢のように駆け出した、トレイシーを追う。追い付くのは難しいかもしれないけど、それぞれで、行き先は別だ。追いつく必要は、特にないね。
――できるよ。『
……ああ、そうか。今だったら、文字通り、なんでもできる気がする。翼を
「――はあぁぁぁっ!」
天を駆ける流星のように、一直線に強襲し、切り捨てる。……体が、嘘のように軽い。このまま、どこまでだって、飛んでいけそう。なんだか、目もよく
(上出来だ、ナズナ。その調子で、油断なく狩っていけ。だが。決して無茶はするな)
わかってるよ、
★☆★☆★☆★☆
『
異界からもたらされた、高純度の
『
(装備効果:魔力向上)
所有者の願いによって形を変える、変幻自在の刀剣。
『
(装備効果なし)
手の届く範囲全てを手中に収めんとしたものの、異界からもたらされた片刃の長剣。相手の次の行動を見抜き、程近くにある万物万象を、自在に制御する力が備わる……そんな気がしてくる。
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