仄暗き海底洞窟
いつものように月が海面から顔を出した頃、クラゲンさんの拠点に集まったわたしたちは、予定通りに龍狩りの同行者として、海底洞窟へと向かった。
「皆さん揃いましたな。そんじゃ、ぼちぼち行きましょか。
クラゲンさんが、転移術の
……詳しくは知らないけど、転移術って、転移のときの安全対策で、発動までにちょっと時間がかかるんだよね。途中で妨害されると発動しないから、戦闘中の緊急脱出には使えないし。
単純な魔法なら、感覚でなんとなくでも使えるんだけど、複雑な魔法を使うときは、その行程を正確に把握した上で、適宜組み立てないといけないから、どうしても難しい。後衛職の中でも、特に高度な魔法を主体で使うのは、頭の良さとセンスが要るから、わたし向きじゃないかな。見習いなら、もしかしたらいけるかも。
そんな魔法技術の中でも、転移術のように行程が複雑な大魔法を、
そして、それだけケチなら、不安定な冒険稼業なんてやってるより、
……とにかく暇なので、ゆっくり、ぼんやり長々とそんなことを考えていると、やっと転移の準備が完了したらしい。
……そう、これが普通だ。やっぱり、この間のトレイシーの往復は、どう考えても速すぎたよね? ホロウェンバークスには、秘伝の転移術でもあるんだろうか。
確か、トレイシーは「見られてるとできない、秘密の方法」だ、って言ってたっけ。
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転移術によって移動してきた先は、潮の匂いが一際強い、岩壁に囲まれた『
「こういうところって、普通はどうやってくるの?」
不明な
「そうやなぁ。まぁ潜水して到達するような奴も
「クラゲンさんの場合は?」
「憶えとらんな。
凄く嘘っぽい。思い出そうとした
きっと、説明したくないというのが本当のところだろうな。どちらにせよ、参考にはならなさそうだね。
「ま、ここに
その言葉を聞いてか、物陰に潜んでいたらしい何者かが、奥に隠れるのを感じる。しばらくして、地の底から
――アア……アアア……! アルスクイド……! 忌々しい……
この声が、今回の
そんな中でも、トレイシーだけはいつも通りっぽい。等級無しと言っても、彼は基本的に例外だから、仕方ないね。
「
「海の守り神やからな。実際、大層なもんよ。その
……いっそ露骨過ぎる自己紹介な気はする。まぁ、そこまで言うなら
「念のため、作戦の再確認な。君らの仕事は、あくまでも露払い。
作戦の根本部分に、相手の
「わたしたちが狙われないのって、絶対なの?」
「うん。
つまり、攻撃に巻き込まれる可能性はありそうだね。立ち回りに注意しとこ。
「でも、俺らがその眷属を殺すんなら、戦況に対しては決して無関係じゃねえだろ? なら、絶対に狙われないとまでは言い切れないんじゃねえか?」
「そうやなぁ……。まぁ、力さえ分ければいくらでも作り出せるようなもんが、いくら殺されたところで、別に気にもならんやろ? 極端な話、眷属なんてのは
そう聞くと、相手が割とバカなのが前提って感じがする。少しならともかく、たくさん減らされると脅威には感じると思うし、ちゃんと理性的に判断すれば、負けに繋がる可能性として、十分判断できることだと思うけどな。そんなに舐めてかかっていいようなもんなの?
「ま、戦況がどうこうとか、そういう総合的な判断が出来るんは、あくまでも
君達にとっては当たり前過ぎて分からないんだろうけど、という風にクラゲンさんは言った。そういうもの、なんだろうか。
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クラゲンさんは、迷いなく海底洞窟を先導していく。たまに出くわす眷属……
「
「わかってるよぉ。だから、注意深く見てるんじゃん」
気軽にまた来れるというわけでもない、初めてのダンジョンなんだから、迷惑にならない範囲で色々と見ておかないとね。
ふと、脇道の小部屋に、気になるものが見つかった。
『
拾い上げて、耳に当ててみる。ざあざあと、
……でも、その裏で。
――
――あまつさえ、ワシの邪魔までするんか
聞き覚えのある
そんなわたしの様子を見て、クラゲンさんが声をかけてきた。
「あぁ、タコの
「これって、どういうものなの?」
「海育ちの連中の、お守りみたいなもんやね。若者の間で、
クラゲンさんと、
「クラゲンさんは、若者?」
「ん。お兄さんは永遠にお兄さんやで? ……ま、
しみじみと
「今はもっとこう、ちゃあんと
「ふーん……」
なんか俗っぽいんだよなぁ。どうせなら、もうちょっと格好つけてほしいんだけど。
「ナズナちゃんは、そうやって馬鹿にしよるようやけどさ。でも、生きる上で一番大事なんは、そういうどうでもええようなことやろ? 君のそれかて、本質的にゃあ
それもそうか。大事なものは人それぞれだよね。
それじゃ、遠慮なくもらっちゃいます。やったね。
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「ほい、到着。ここが
龍宮と呼ばれたその場所は、海底洞窟のどの空間よりもだだっ広い、どう考えても周囲の空間との繋がりに整合性が取れていない感じの場所だった。入り口近く以外は海水に満ちている、この空間だけは、どういうわけか、昼のように明るい。
……真っ黒な空に、星のような小さな光が見えているのは、あれは何なんだろう。ここはあくまでも海底だし、本当の空ではないと思うんだけど。月も見えないしね。
「さて、ここからが本番やで。各自、
クラゲンさんが格好をつけながらそう叫ぶと、わたしたちは水辺から飛び出した巨大な触手に絡め取られた。あまりに唐突過ぎて、ろくに反応ができない。
「わあ」
「ちょっとそのまま辛抱しといてや!『我は海を統べる力、
大きく渦を巻きながら、急速に龍宮の水辺の水位が下がり、
それで、遠くの方にはタコが見える。あれが
「『
海水が完全に引ききった岩場に、ゆっくりとわたしたちは降ろされた。先の言動からは想像もできない丁寧さに、少し驚いてしまう。でも、そんなことを悠長に気にしている間もなく、耳をつんざく
「……ワシに
「んなこたァ
「
轟音の口汚い
(そんじゃ、ナズナちゃん。こっからは、
クラゲンさんの声が聞こえた。あれだけの怒声を
「ヴァンさん! 作戦開始の合図をお願い!」
わたしの声を聞いて、
「承知。目標、
「応!」
そうして、果ての見えない掃討戦が始まった。
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『
『
(装備効果なし)
敵対者に永遠の静寂を与える、
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