星の奪い合い

「皆々様、お集まりいただき大層嬉しゅうございます。この度は、わてクラゲンと行く楽しい楽しい龍狩り体験へご応募いただきまして、誠にどうも」


 ……いたって真面目ではあるらしい。ふざけてるようにしか聞こえないけど、文化の違いだろうか。


「作戦の概要やが、獲物の『克己獲星カツオノエボシ』が潜んどる海底洞窟ミナソコに赴いて、とともに、全力で奴をぶっ殺す。そんだけや。君ら……もとい、我々のお仕事は露払い。奴には無数の腕があるんで、現地協力者が気兼ねなく戦えるように、それを抑えたってほしいねんな」


 人手や頭数を求めてたのは、そういうことか。一人だとやり辛いことって、どうしてもあるもんね。


「質問いい? その現地協力者っていうのは……?」

「それはまぁ、現地でのお楽しみってことで? 強いて言うなら……そうやなぁ。わての昔馴染みのお友達の龍級生物……みたいな? そんな感じやね」


 ……何か嘘っぽい。そもそも龍級生物って、同じような場所にそんな沢山いないでしょ。

 話を鵜呑みにするなら、これはクラゲンさん本人のことだね。


海底洞窟ミナソコって、多分海の中だよね。おれたちは水中での活動、特に戦闘にはあんまり向いてない気がするんだけど、そのへんはどうするの?」

「せやね。どうしても人間ヒュマノは普通、陸上のが強いやろしな。奴の有利状況で戦うと勝ち目ないやろし、わてのパワーで完全に海水をどっかやって、場を作るつもりやで。釣って引っ張りあげるよりかは現実的やろ」


 ……そんなこと、可能なのかな? 普通の直感だと、それよりは釣り上げるほうがまだ現実的な気はする。


「んなこと出来るかい、って? 舐めてもろたら困りますわ。ラグナってのは、特定せんもん分野でトンデモなイカサマ使えてこそやで。伊達に『果てなき大渦潮メイルストロム』なんて呼ばれとらんよ。海はわてらの故郷ふるさとでっせ。ナズナちゃんにはうたやろ?」


 それは確かに聞いたけど、そういう意味だったの?

 諸々の発言を併せて考えると、この人、本当に文字通りなのかもしれないね。少なくとも、普通の人間ではないんだと思う。この人も、人間のことをヒュマノって言ったし。


「腕を抑えるという話だが、我らにそれが出来る見込みはあるのか」

「奴の腕、それぞれが奴から独立して動く眷属なんよね。分けられた力次第で、弱いのも、強いのもバラバラ。我々もそれにあわせて適宜分散したり集合したり、できる範囲で力を奪うってだけなら、冒険者でさえありゃ誰でも出来るんちゃうかな、とは思っとるで。究極、気ィ散らしてくれるだけでも十分やな。いのちだいじに、な」


 ……どうなんだろうね。そうかもしれないけど、今までの言動も、割と基準がおかしい気がするんだよなぁ。過剰に期待されてたりしない?


「報酬については、現地での貢献度による分配。要するに、腕をたくさんぶっ殺した奴が勝ちな。後はまぁ、それに伴う経験? 最悪失敗した場合、前金と準備資金をもって代えさせて貰います。失敗ってのは、つまりわてが死んどるってことやから、それ以上の補償は無理やね。わてにも意地があるんで、何があろうと失敗だけはさせんつもりでるけども」


 そうして提示された前金の額は、一人あたりの金額だけでも、一年間に『浪漫の探求者ロマンチェイサー』が稼ぐ総額を軽く凌駕していた。……単にわたしたちが貧乏ってのも大きいけど、やっぱり「大きな仕事」って儲かるんだなぁ。


 ……ただ、等級とかでの区別も一切なし、一律全員に等分されてるっぽいのは、どう考えても一般的じゃないね。クラゲンさんからしたら、わたしたちの差異なんて、本当に些細なものなのかもしれない。仮に人数が増えてたとしても、単純にその分だけ予算が増えてたような気すらする。


「何にせよ、最初ハナから負ける気でるような臆病者チキンはここにはらんやろし、やるんなら気張っていこうや。帰るんなら止めへんで。出来れば帰らんとっては欲しいけどな」


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襲撃戦レイドバトルか……。力を削るのが目的なら、僕らでもやれるかな?」

「相変わらず、術師は弱腰っすな。みんな頼りになるんだし、俺らなら余裕でいけるっしょ!」


 術師さんと、ショウさんが談笑してる。術師さんは、卑屈な態度の割に、意外と前向きだね。意外とやり手なのかもしれない。『蛮勇士団バルバリーブレイバーズ』、その名の通りに勇猛で向こう見ずな人たちなんだろう、きっと。


「挨拶が遅れた。トレイシー殿。『風食かざはみ』襲撃の件、未然に防ぐことあたわず、すまない。我らへの温情も感謝している」

「ん。番長さん。あれもし、気にしなくていいよ。仲良くできそうで何よりだね。改めて、よろしく」


 あっちでは、ヴァンさんとトレイシーが、改めて挨拶してるね。トレイシーの方も、全く嘘は言ってなさそう。……それなのに『悪漢兵衛ローグライク』に対しては、一切容赦がなかった。決めたことは必ずやり通すという姿勢に、どこか人らしくないものを感じてしまう。……見た目は元々人らしくないから、今更ではあるんだけどね。


「でも、それはそれとして、番長さんはおれとも手合わせしてみたいんだね。また都合のいい時にやってみようか」

「……良いのか?」

「いいよお。武人バロンが戦いを望むのは当たり前だしね。相手が強そうなら、なおさらさ。健全に試合するってくらいなら、おれは全然構わないよ。まあ、仮に別に構わないけどさ」


 直前まで朗らかだったくせに、またそんな話してるし。いちいち不穏なんだよなぁ、トレイシー。本当に、思うところはないの?


「では、いずれ。今ではあるまい」

「そうだね。そんで当然、。番長さんなら、そんなことはしないと思うけど、一応ね」

「勿論だ。疑ってもいない」


 ……多くを語らなくてもちゃんと通じ合ってるみたいなの、ズルいな。ちょっと嫉妬しちゃうよ。


ねえさん。戦闘なんすが、彼らと連携取るとかできないすかね?」

「そうだね。打診してみよっか」


 『蛮勇士団バルバリーブレイバーズ』は、人数の割に役割ロールのバランスがとても良い。前衛のヴァンさん、ショウさんと、後衛の術師さん。

 比べて『浪漫の探求者ロマンチェイサー』は、わたしとトレイシーが遊撃で、見習いもどちらかというと前衛寄りの遊撃。てきとうなんだよね。臨機応変、と言ってもいいけど。


「ん。みんなで仲良く組もうって話してる? 番長さんはどう思う?」

「む。渡りに舟である。指揮はそちらが?」

「ありがとうございます。指揮はわたしには向いてないんで、できればお願いしようかなと……」

「承知。不肖『寡黙番長』、大任承る」


 不甲斐ない。わたしも部隊指揮とか、諸々ちゃんとできるようになったほうがいいかもしれない。今まで、独りだからって自由にやりすぎたよ。反省しよ。


「そんじゃ、おれとそっちのみんなで競争しようか。負けないぞう」

「えぇっ!? 手伝ってくれないの!?」


 競争に関しては、それだけ人数差があっても、トレイシーの方が勝ちそうな気もする。


「もちろん手伝うは手伝うけど、どうせなら競争もしたいじゃんか。気楽に行こうよ」

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