陰に潜む者たち
翌日。相変わらず、新鮮な目覚め。……もしかしたら、元のわたしたちの拠点、居心地悪いのかもしれない。
「ぁふ……。見習いはどう思う?」
「……何がっすか。せめて質問の内容については言及してもらわんと、何もわからんっすよ」
「そっかぁ……。むー、トレイシーは察してくれるのにぃ」
「今日はいつもより理不尽な気がしますわ。寝惚けてます? ちゃんと言わなきゃ、何も伝わりませんよ?」
それはそうか。大事だよね、そういうの。
「じゃ、別にいいや。トレイシーは?」
「教えてもくれねぇんすな……。朝起きた時には、既にいなかったすよ。また例の用事っすかね、きっと」
そんな話をしていると、
「おかえり、トレイシー。掃除の続きでもしてきたの?」
「ただいま、ナズナ。海沿いを散歩してただけだよ。浜辺、とかいうんだっけ? いい場所だよね」
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「おや、えらいゆっくり来られましたな、『
クラゲンさんはいつも通りだね。この人は、素がこんな感じなんだろうな。別にいつ来るとも約束してないからねぇ。
「いいのお? じゃあ、次があったらそうしちゃおうかな」
「トレイシーに入り浸られんのは、なんかアレかもしらんな」
「なんかアレってどういうことだよお」
じゃれ合ってる。仲良いよね、このふたり。気の置けない関係っていうのかな?
「結局、『
クラゲンさんが机上に差し出したのは、朝の
「来る気はあったのかもしれないけどね。なんでも『影踏み』って奴に狙われちゃったんだってさ。災難だったね」
「はん、関係あるかい。……冒険者たるもんは、安全な街中で、
無茶言うなぁ。正体不明の怪物に目を付けられたとしても、生存できて当たり前、ってのはだいぶ酷な気がするけど。
「それに、別に方法問わずやったら、生き残る方法はあったねんで?
「
「自分らの手に余るんなら、助力を乞うくらいは出来なあかん。そん時に、誰を頼り得るか、とかもちゃんと判断せな」
一理あるけど、言ってることは結構無茶苦茶な気がするなぁ。……まぁ、「見てるところ」ってのが肝なのかもね。直接的な庇護でなくても、監視下に居続けるなら安全ではあったのか。
「ま、仕事が終わってもたら、
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程なくして、扉が丁寧に叩かれた。
「失礼する。『
なんか、すごい重厚って感じ。元『
「よろしゅう頼んます。お兄さんは
「
侮られてない、ってすごく新鮮かも。
わたし、見た目のせいか、普段は等級の割に無茶苦茶ナメられてるんだよね。……普段の振る舞いのせいもあるか。
「
「承知。『寡黙番長』ヴァン・ダナン。
「……そんだけ? ま、ええか。ついでに、そこの……落ち着いた感じの子も、よろしく」
そう言って指してるのは、この前「根暗モヒカン」って紹介されてた人だ。微妙に間があったのは、言葉を選んだからだろうなぁ、たぶん。
……あれ、反応ないね。どうしたんだろ?
「……暗黒術師。呼ばれている」
「……ふぇっ!? な、なんで? こんな、等級なしのゴミカス冒険者に?」
「気になったから。名乗りたぁないなら、別にそれでもええけど」
凄くうろたえてる。等級なしとはいえ、過剰に恐縮してるね。もうちょっと胸張ってても、誰も怒らないと思うよ。
「つ、つつ謹んで拝命いたします。僕は『暗黒術師』のネクラモヒカンです……。後衛です、特に役には立ちません……。お荷物で、すみません、生まれてきてすみませんでした。殺さないでください」
「殺さんわ、失礼な。……えらい卑屈やねぇ。この子、いつもこんな調子なん?」
「うむ。しかし役に立つし、頼りにしている」
「もも勿体ないお言葉でございますぅ!」
見た目の割に気弱だなぁ。でも、ヴァンさんが頼りにしてるっていうなら、きっと実力はあるんだろうな。うちの見習いと同じような感じなのかな?
様子をぼんやりと見ていると、トレイシーがなんか気になることを言い出した。
「んー。この、ここにいるんだけど実際にはいない感じ、なんか覚えある気がするんだよなあ。クラゲンさんのやつとはまた別だろうし、なんだろ?」
「ピェ!?」
「アホウ。
「ハァイ!」
なんかよくわからないことで通じ合ってる。わたしもちょっと覗き見してみようかな。
根暗モヒカンさんの特性は……珍しそうなのだと『
(覗かんとってや、
……バレてる!?
(今ッ更やねぇ。隠し事したいんやったら、思考が丸見えにならんようにせんとあかんよ? また色々教えたろか?)
それは助かります。よろしくお願いします。
(はいよ。ま、成功報酬ってことで頼んます。……急に同調仕掛けられて話しかけられとるってのに、意外と動じとらんな、ナズナちゃん。つまらんわぁ……。もっと可愛い反応して
確かに。似たようなことは、以前トレイシーからもされてたから、そういうものかと流していた。
改めて状況を咀嚼しようとしていると、見習いから声をかけられた。
「どうかしたんすか、
「え? いや、えーと……。ナンデモナイヨ?」
「……はい。ま、詮索はせんっすよ」
いきなり話しかけられると、対応できないや。
取り敢えず、ごめんなさい?
「人数的には…… まぁ不安は残るかもしれんけど、ええかな。少数精鋭ってことで頑張ろか。そんじゃ、改めてよろしく」
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