陰に潜む者たち

 翌日。相変わらず、新鮮な目覚め。……もしかしたら、元のわたしたちの拠点、居心地悪いのかもしれない。


「ぁふ……。見習いはどう思う?」

「……何がっすか。せめて質問の内容については言及してもらわんと、何もわからんっすよ」

「そっかぁ……。むー、トレイシーは察してくれるのにぃ」

「今日はいつもより理不尽な気がしますわ。寝惚けてます? ちゃんと言わなきゃ、何も伝わりませんよ?」


 それはそうか。大事だよね、そういうの。


「じゃ、別にいいや。トレイシーは?」

「教えてもくれねぇんすな……。朝起きた時には、既にいなかったすよ。また例の用事っすかね、きっと」


 そんな話をしていると、おりよくトレイシーが帰ってきたみたいだね。一仕事終えて来たのかな。


「おかえり、トレイシー。掃除の続きでもしてきたの?」

「ただいま、ナズナ。海沿いを散歩してただけだよ。浜辺、とかいうんだっけ? いい場所だよね」


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「おや、えらいゆっくり来られましたな、『浪漫の探求者ロマンチェイサー』の皆様方。別に実家やと思ってくつろいでもろてもええねんし、朝もはよから訪ねてくれてええねんで? ま、別に頼まれもせんのに、こんなとこ来たかないかもやけど」


 クラゲンさんはいつも通りだね。この人は、素がこんな感じなんだろうな。別にいつ来るとも約束してないからねぇ。


「いいのお? じゃあ、次があったらそうしちゃおうかな」

「トレイシーに入り浸られんのは、なんかアレかもしらんな」

「なんかアレってどういうことだよお」


 じゃれ合ってる。仲良いよね、このふたり。気の置けない関係っていうのかな?


「結局、『悪漢兵衛ローグライク』の皆さんはお越しくださる見込みなし、と。職務意識が欠けとりまんな。……あるいは、わての言動が気に入らんうてバックレたか。人望がぉて、えろうすんませんな」


 クラゲンさんが机上に差し出したのは、朝の新報ニュースだね。「街の宿屋で殺人。被害者は『悪漢兵衛ローグライク』ゴン・タックレイ氏と、その仲間と見られる冒険者」とある。細部はともかく、予想通りではあるかな。


「来る気はあったのかもしれないけどね。なんでも『影踏み』って奴に狙われちゃったんだってさ。災難だったね」

「はん、関係あるかい。……冒険者たるもんは、安全な街中で、無様ブザマむくろなんて晒さんもんや。本当ホンマにやる気あんなら、そんくらいは跳ね除けられんとあきまへん。相手がラグナならまた別やが、未満やしな」


 無茶言うなぁ。正体不明の怪物に目を付けられたとしても、生存できて当たり前、ってのはだいぶ酷な気がするけど。


「それに、別に方法問わずやったら、生き残る方法はあったねんで? わてうたやん。わて好きにすりゃええ、て。ガチの正体不明でもあらへんし、ちゃんと客観的に判断出来んのは、無能の証左ですわ」

庇護ひごを求めればよかったってこと? でも、自分の力でなんとかしろとか言ってなかった?」

「自分らの手に余るんなら、助力を乞うくらいは出来なあかん。そん時に、誰を頼り得るか、とかもちゃんと判断せな」


 一理あるけど、言ってることは結構無茶苦茶な気がするなぁ。……まぁ、「見てるところ」ってのが肝なのかもね。直接的な庇護でなくても、監視下に居続けるなら安全ではあったのか。


「ま、仕事が終わってもたら、かばう義理もあらへんしな。となると、遅いか早いかしか変わらんか。なら誤差やね。なんにせよ連中はんので、紹介してくれた人らを待とかぁ」


----


 程なくして、扉が丁寧に叩かれた。


「失礼する。『浪漫の探求者ロマンチェイサー』トレイシー・サークス殿より紹介を受け、『蛮勇士団バルバリーブレイバーズ』、馳せ参じた。よろしく頼む」


 なんか、すごい重厚って感じ。元『悪漢兵衛ローグライク』所属のヴァンさん、存在は認知してたけど、あんまり見たことなかったんだよね。連中がちょっかいかけてくるときには、いなかったから。


「よろしゅう頼んます。お兄さんは煌金アルカナかぁ。中々やりますな」

それがしなどは、まだまだ。そこのナズナ嬢の方が、余程凄い。その若さ、可憐さで妖霊フェアリエにまで至るとは、恐れ入る」


 侮られてない、ってすごく新鮮かも。

 わたし、見た目のせいか、普段は等級の割に無茶苦茶ナメられてるんだよね。……普段の振る舞いのせいもあるか。


謙遜ケンソンしますなぁ。そのまま、自己紹介も頼んますわ」

「承知。『寡黙番長』ヴァン・ダナン。煌金アルカナ


 単純シンプルで最低限、って感じ。流石『寡黙番長』だね。


「……そんだけ? ま、ええか。ついでに、そこの……落ち着いた感じの子も、よろしく」


 そう言って指してるのは、この前「根暗モヒカン」って紹介されてた人だ。微妙に間があったのは、言葉を選んだからだろうなぁ、たぶん。


 ……あれ、反応ないね。どうしたんだろ?


「……暗黒術師。呼ばれている」

「……ふぇっ!? な、なんで? こんな、等級なしのゴミカス冒険者に?」

「気になったから。名乗りたぁないなら、別にそれでもええけど」


 凄くうろたえてる。等級なしとはいえ、過剰に恐縮してるね。もうちょっと胸張ってても、誰も怒らないと思うよ。


「つ、つつ謹んで拝命いたします。僕は『暗黒術師』のネクラモヒカンです……。後衛です、特に役には立ちません……。お荷物で、すみません、生まれてきてすみませんでした。殺さないでください」

「殺さんわ、失礼な。……えらい卑屈やねぇ。この子、いつもこんな調子なん?」

「うむ。しかし役に立つし、頼りにしている」

「もも勿体ないお言葉でございますぅ!」


 見た目の割に気弱だなぁ。でも、ヴァンさんが頼りにしてるっていうなら、きっと実力はあるんだろうな。うちの見習いと同じような感じなのかな?


 様子をぼんやりと見ていると、トレイシーがなんか気になることを言い出した。


「んー。この、感じ、なんか覚えある気がするんだよなあ。クラゲンさんのやつとはまた別だろうし、なんだろ?」

「ピェ!?」

「アホウ。他人ひとの秘密を気軽に言いふらすな。……ま、言いたいことはわからんでもないな。たまにそういうやつるけど、なんなんやろな? ……なんにせよ、よろしく」

「ハァイ!」


 なんかよくわからないことで通じ合ってる。わたしもちょっと覗き見してみようかな。

 根暗モヒカンさんの特性は……珍しそうなのだと『化身アバター』ってのがあるね。で、クラゲンさんの方には『擬態ミメーシス』ってのがあるみたい。言ってるのはこれのことかな?


(覗かんとってや、助平スケベ。……他言無用やで?)


 ……バレてる!?


(今ッ更やねぇ。隠し事したいんやったら、思考が丸見えにならんようにせんとあかんよ? また色々教えたろか?)


 それは助かります。よろしくお願いします。


(はいよ。ま、成功報酬ってことで頼んます。……急に同調仕掛けられて話しかけられとるってのに、意外と動じとらんな、ナズナちゃん。つまらんわぁ……。もっと可愛い反応してもろて)


 確かに。似たようなことは、以前トレイシーからもされてたから、そういうものかと流していた。


 改めて状況を咀嚼しようとしていると、見習いから声をかけられた。


「どうかしたんすか、ねえさん。なんか挙動不審ですけど」

「え? いや、えーと……。ナンデモナイヨ?」

「……はい。ま、詮索はせんっすよ」


 いきなり話しかけられると、対応できないや。

 取り敢えず、ごめんなさい?


「人数的には…… まぁ不安は残るかもしれんけど、ええかな。少数精鋭ってことで頑張ろか。そんじゃ、改めてよろしく」

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