第9話 Stepsと分かったこと(4)

 ご存じの通りだが、僕はまだ久我リーシャという人物と会っているとはいえないわけだ。今日あった講義の席に限っては特定していたが、それも明日あすになれば変わってしまう。諸行無常の響きあり、だ。

 だから、はっきりいえば、久我リーシャが二人いるといわれましても、一人もしらないのにいわんや二人、といったところだ。

 さて、そろそろ後輩の話をまとめよう。なぜ後輩の話をまとめなくてはならないのかというと、話している最中に激怒したり、泣きだしてしまったりして、すじというものがぐたぐたになってしまったからだ。

 要点は三つあった。一つは先から言っている通り、久我リーシャが二人いるということ。そして次に、本物の久我リーシャを捕らえよという指令は、後輩だけでなく、不特定多数の成員に来ているらしいということ。最後に、後輩は久我リーシャと、過去に友だちだったこと。

「友だち?」と僕は訊いた。

「……うん」このとき、なぜか後輩は泣いていた。「私はリーシャちゃんと友だちだったのぉ!」

「……分かってるって」

 喫茶店だったから、周囲の視線が痛いわけだ。まるで、陰口を散々に言われていた学生時代の僕が復古されつつあるようだった。僕だって泣きたい。

「それが、中等部に上がってから性格が一変しちゃってさ、まるで人が変わっちゃったみたいになって、前は人前にでることなんてなくって、教室の端のほうで本読んでるような子だったのに、今やあんな陽キャになっちゃって! 私が話しかけにいったら、誰? だってさ! ふざけんなア!」

 酒でも飲んでのかこいつ、と思う僕は真顔。

 流石に変に思った後輩は、のため、色々と調べたようだ。それが『キギスの明敏』に入る前だというので、僕はたまげた。

 の試みの結果、学園のテスト週間のときだけ、元の久我リーシャ、つまり、昔に後輩と友だちだった久我リーシャになる、とのことだった。人が変わっているというのはそういうことらしい。

「つまり、替え玉ってことか?」と僕が言うと、

「そう」と後輩は言った。そしてフィンガースナップをした。「テスト週間は、くしくも明後日から。自分の目で確かめてみるといいよ。そうはいっても、あなたは元のリーシェも、私の嫌いな陽キャのリーシャも分からないんだったね。明日、この教室に来なさい。私、今もリーシャと同じクラスだから、同じ教室なの。怪しまれたら私がどうにかするから。よろしく」

 そういって、明日行われる講義の教室の場所が書かれたメールを送ってきた。

「ところで、後輩は『キギスの明敏』に入るまえから久我リーシャと知り合いだったんだろう? それで久我リーシャにまつわる依頼を受けるとはなかなか……」

「運命だよ」やけに真面目に後輩がいう。「運命なの」と念を押す。「そして、あなたが来るってこと、実は私は知っていた」

「ふうん」とそれだけ言って、僕にとっては最重要なことを最後に訊いた。「結局、僕は後輩の何に協力すればいいんだろう?」

「私に、本物のリーシャちゃんと会わせてほしい」


 喫茶店で後輩と別れると、僕はさっさと家に帰って寝る支度をした。歯磨きをしているときにふと、面倒くさいことになったな……と思い始めていた。

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