簡明な文体、行間から滲む空気

 徹底的に無駄を削ぎ落した、スピード感ある文体が特徴的な一篇です。キャラクターの言動と、言動に直結する心理と、物語を成立させるのに最低限必要な説明のみで構築された文章、と評していいのではないかと思います。「あえて書かない」美学が通底されています。
 それでいて場の質感が伝わってくるのは、キャラクターの感覚を綿密にシミュレートして言葉が選ばれているからでしょう。たとえば「うすらでかいリボルバー」という表現。その情報量に、言葉選びの的確さに、僕は感銘を覚えました。
 書きすぎないからこそ行間から滲んでくる空気のようなものが、小説にはあります。シンプルで乾いた、しかしどこか哀愁の漂うアウトローの物語を描くのにうってつけの文章を、作者は採用したのだと思います。技巧的で、力強く、哀しく、美しい作品です。

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