月華心中


俺はお前と死にたいと 何度も何度も嘯いた


お前は一緒にいきたいと 幾度も幾度も囁いた


あたしを置いてはいかせぬと お前は俺に縋り付く


それなら共にいこうかとお前を抱いて泣き笑う


 ・


華族の名など捨ててやる 俺はお前にくちづける


愛の睦言吹き込めば お前は潤んで頬を染め


お前に似合う女中服 脱がさぬままに抱き合って


それなら共に果てたいと 二人で同時に震わせた


 ・


波打ちつける高い崖 共にいこうと手を握り


脱いだ革靴揃えては 同時に素足を踏み出した


月夜に舞った二人なら 来世で逢えると微笑んで


身分違いの恋を抱き くちづけ海へと身を投げる


 ・


波打ち際で目を覚まし 俺はただただ泣き濡れた


偶然一人生き残り 絶望と恥で身もだえた


お前を失くした悲しみに 俺の心は囚われて


お前と死ねぬこの身なら どうでもなれと呟いた


 ・


窓を叩くは黒い影 蒼い光に微笑んだ


スカアトの裾も軽やかに 月を背負った女中服


お前が迎えに来たのだと 俺は窓から乗り出して


誘うお前の手を握り 目映い夜空へ飛び込んだ


 ・


幾千幾万繰り返す 波と月下のたわむれは


どこにもゆけぬ魂の 夢とうつつの輪舞曲


未来永劫帰結する メビウスめいた二人の手


朽ちても決して離さぬと 永遠描くサンサアラ





時代がかった背景、身分違い故の隠れての逢瀬、儚んでの心中、死に損なって生き延びた青年、そして月夜の晩に迎えに来る魂、幻想の輪舞曲──。

好きな要素を色々と詰め込んでみました。


リズムは拙作『孤毒の花園』と同じく、七五調で構成されたどこかレトロなものです。


そして何よりこの作品のキモは【女中服】、レトロスタイルなメイド服。

作中に「スカアト」と明記したので、裾の長いクラシカルなものだと思われます。前開きのワンピース、レッグオブマトンの袖、白いエプロン、結い上げた髪にはエプロンとお揃いのヘアカバーかカチューシャを添えて……。

野暮ったいぐらいのものが情緒があって宜しいかと。


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