死神を斬る者


視界は漆黒よりもなお暗く


汚泥に塗り潰された内に死神の嗤いだけが


ひたすらに「死ね」と木霊する


  ・


目眩に脳を犯され繰り返し吐瀉する度に


逆流した反吐と胃液が喉を灼き


握る拳に食い込む爪が血を滲ませた


  ・


憎悪と憤怒と恐怖が叫びとなって口を衝き


声が枯れ果て力尽きて眠りに墜ちて


また自らの絶叫で揺さ振り起こされる日々


  ・


生きながら腐る身体から垂れる血膿


己の血溜まりの中のたうち回り


絶望という痛みに蝕まれ涙すら涸れた


  ・


それでも剣を手放したりはしない


その重さが冷たさが手の内に在る限り


正気と命はまだ自分のものだと信じ唇を噛む


  ・


刀身は赤く錆びようとも


辛うじて刃微かに研がれ


薄く細く放たれる一条の光


  ・


言葉は己の中に渦を巻く


あたかも怨念の如くさりとて悲願の用に


やがて凝縮された決意は更に刃を尖らせる


  ・


座して瞠目し命の灯火のみを見よ


狂気を払い静かな熱で内を満たせ


冷えた闇が背越しに陰を落とそうとも


  ・


静謐が心を凪いでゆく


悟られぬようひたすらに耐えただ待ち続けろ


死とやらが慢心しその手が緩む瞬間を


  ・


鎌が首許に押し当てられようと


奥歯が砕ける音を子守歌に


覚悟という剣をただ静かに握り締めている



  ▼


死に魅入られて、死に心掴まれ、

それでも逃れようと無様に藻掻き苦しみ、

やがて己の内の剣を密かに研ぎ澄ます。

生きるとはかくも醜く、

しかしだからこそ美しい。


  ▼


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