17.沙羅双樹に抱かれて -和鬼-
ボクの終焉に咲を巻き込んじゃいけない。
そしてこの地に生きることも、
この地の繁栄は今のボクの魂は願い続けてる。
桜鬼も、国主としての和鬼も
どちらも紛れもないボクだと親友が受け入れてくれた。
それでもボクは、
この地に留まることは出来ないから。
水龍の告げた終焉が
ボクを急き立てていく。
後は……最後の仕事を終えるだけ。
もう一人の親友の元へ、
最愛の人を送り届ける。
紅葉と言う名を持つその人が
風鬼を見失って、迷子にならないように。
「桜鬼神っ 同族殺し、友殺しの汚名を
背負い続けた気分はどう?
誰も鬼の世界に、
貴方はの味方は居ない。
私から風鬼を奪った貴方だもの、
誰も裁けない鬼なら、
私が裁いてやりたいって思ったの。
国主様も行方不明のこの世界だから」
そう言って、憎しみの言葉を紡ぎながら
肩を震わす紅葉。
「ボクは君を裁くためにいるわけじゃない。
ボクも君もずっと誤解していた。
その力を屠るボクですら、
その力の意味を見誤ってた」
「何よ。
どんなに正当化しようとしても、
貴方が風鬼を殺した事実は変わらないわ」
紅葉はボクを睨み付けながら吐き捨てる。
「桜鬼神の力は、守るための力。
その人の魂を救うための力」
そう……ボクの中でも、永い時間の間に
いつの間にか歪められていた桜鬼の力。
初めて、鬼狩の剣を創世したのは
龍神たちが降り立つ故郷。
王と認められし、
その国主の体内から創生して
我身を鞘とする民を守るための剣。
その剣の力は
いつの間にか人々の中で意味を変えた。
だけど……今は、
その本当の意味を思い出したから。
最後の最後に、ボクは国主にも、
桜鬼神にもなれる気がする。
ボクに向かってくる紅葉の体内へ
ボクは鞘から放った
刀を迷うことなく突き刺した。
鬼狩の剣を刺した傷口から、
桜吹雪が舞い上がる。
「
ボクの大切な親友からの最後のメッセージ。
受け取ってください」
紅葉さんを突き刺した刀を
引き抜いて、
その刃にあの日の出来事を投影させる。
★
『和鬼……。
お前が桜鬼神だったのか……』
民たちが悪気に充てられて
心の制御がきかなくなっている報告を
受けたボクは国主としての任務を終えて
桜鬼神として動き続けていた。
自らの手で、咲鬼姫を送りだしたボクは少しでも、
咲鬼の為に彼女が喜ぶことを
それだけで咲鬼を感じることが出来る。
咲鬼によって託された世界を守り続けることが
ボクの生きる意味になった。
ボクを支えるため、遺志を受け継ぐために
二足の草鞋を背負い続けた。
その日、暴走の知らせを受けて桜鬼となって降り立ったその場所は、
風鬼が暮らす夏の村だった。
そして理性を失った鬼たちの中で、
迫りくる恐怖と必死に向き合って
理性を保とうと抗い続ける風鬼を見つけた。
今すぐにでも、
風鬼を貫いて魂を解放してあげないと、
風鬼が辛いのを感じながら
ボクにはそれが出来なかった。
躊躇したボクに
風鬼が紡いだのはボクの名前。
彼は微笑みながら
刀を持つボクの手をゆっくりと
自分で掴んで自らの体に刀を刺しいれながら微笑んだ。
『悲しまないで、これは俺の望みだから。
俺が俺として自我をなくす前に、
自らの意思で旅立ちたかった。
もう悪気に充てられるのも、
自我を奪われるのも耐えられない。
紅葉を傷つけたくないんだ。
秋の村から夏の村に迎え入れたいんだ。
国主のお前は、
俺の幸せを祝福してくれるだろう』
息も絶え絶えになりそうな中、
風鬼は、なおも言葉を続ける。
『和鬼……。
俺と同じように闇に蝕まれて自らを制御できず、
苦しみ続ける同胞たちの魂を守ってやってくれ。
俺たちは殺されるんじゃない。
抱かれに行くんだ。
国主と桜鬼神。
沙羅双樹の大木に導かれて楽園に旅立つんだから』
★
……風鬼……。
映し出される景色に、
紅葉は静かに涙を流した。
*
我名は和鬼。
国主と桜鬼神、双樹を継ぐ者。
我民の安寧を厭い《いとい》その旅立ちを誘う。
……紅葉……。
汝が旅立ちを祝福しよう。
親友の元へ
*
桜吹雪に誘われて、桜鬼の奏でる琴の音に
意識を委ね国主が謡う揺りかご。
二つの双樹に抱かれて。
紅葉を腕に抱いて、
ゆっくりと旅立ちを見送ると
ボクは穏やかな笑みを携えながら、
ゆっくりと崩れ落ちた。
……咲……幸せに……。
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