12.闇にさす光 -咲- 





何処どこ




気が付いた場所は、

見知らぬ場所。





ただ暗闇だけが広がり続ける

闇の世界。





真っ黒に覆われた分厚い霧は

視界を遮り、瞳に何を映すこともしてくれない。





暗闇の中、私の両手足には

重い枷のようなものが

つけられている感覚だけが残っていた。






(殺せ。


 私の為に殺せ)




心の中に直接流れ込んで来るように

寄り添い続ける言葉。






その声が届くままに

動き続ける私自身の体。





目の前の存在に、

言われるがままに短刀を抜いて

斬りつけていく私。





その存在を守るように、

桜の花弁がターゲットを包み込んでいく。








桜の花弁が一つ。







私の髪に舞い降りた時、

ふと脳裏に思い浮かんだのは御神木。









御神木の桜?


ぼやーっと浮かんだだけのビジョンは

強いイメージとなって、私の意識を包み込んでいく。









塚本神社の御神木。







あれはお祖父ちゃんの神社。







とっても綺麗な桜なの。







そこで私はずっと見てた。







桜の木に腰掛けて、

街を見下ろし続ける少年を。






少年?







『咲、ボクだよ。


 気が付いて……』









殺せと命じる声に割り込むように

ノイズと共に時折、流れ込んでくる声。





『咲……。


 ボクの名を紡いで』










ノイズと共に繰り返し流れこんできた

その言葉は、やがて鮮明な音声へと変化を遂げていく。






咲?



咲は私の名前。






ふいに倒れこむ感覚と共に

直接流れ込んできた意識。







『ボクだよ。

 和鬼だよ』







……和鬼……。








その名前に

心が僅かに光を灯した気がした。





「和鬼……」






その名を呟いただけで、

真っ暗な世界に、

細い光が差し込んでくる。






その光が導くように

私の方へと真っ直ぐに

近づいてくる金色の鳥。








その暗闇の中で、

ゆっくりと腕を伸ばすとその鳥は、

私の腕へとスーッと止まった。







その鳥が語る声は、

和鬼と呼んでいたあの少年の声。










咲、聞いて……。



咲を一人にしてごめん。

咲を巻き込んでごめん。




そして、

咲を悲しませてごめん。




今感じる咲を包む温もりは、

咲が愛されている証。




一花や司。

二人の温もりは感じられる?




そして生まれてからずっと咲を守り続ける、

お母さんと咲久。



咲のお祖父ちゃんの温もり。










この声と共に流れ込んでくるのは、

一花と司が、今もお祖父ちゃんの来客の傍で

ゆっくりと祈り続けているイメージ。




お祖父ちゃんの傍には、

お母さんが居て、その後ろには望と呼ばれていた子供と

今のお母さんの旦那さんが、同じように祈り続ける。


三人もお祖父ちゃんの傍で、

私の為に祈ってくれてるの?



お母さんの手には、

今の私の写真と……幼い日の私の写真が

しっかりと握られていた。




そして……お祖父ちゃんの来客である少年少女は、

何かの文字を描のように指先を動かしながら、

目を閉じていた。









咲……。


一人じゃない。


だから悲しまないで。











悲しまないで……。







そう紡いだ言葉。









その声が今まで以上にもっと身近に近づいて

耳元で囁かれたような錯覚が包み込んだ途端、

真っ黒な霧が晴れ渡っていく。






その向こう、私の名を何度も何度も呼びながら

私を抱きしめて倒れている和鬼の姿。






「和鬼……」





和鬼の体には、

矢が一本突き刺さっていて、

その傷口からは、

紅い血が滲み出ている。

 





「和鬼……!!」







心が求めて名を紡いだ瞬間、

再び、流れ込んでくる真っ黒な霧。





『殺せと紡ぎつづける声』





その二つに意識が

呑み込まれそうになる間際、

私を不安そうに見つめる

和鬼に……コクなお願いをする。







「和鬼……。


 私をコロシテ」









霧に閉ざされる間際、

最後に見た和鬼の目からは

涙が溢れだしていた、そんな気がした。







ごめんなさい。



和鬼。









これじゃ、

咲鬼姫と私も同じだね。





アナタを一人にして、

アナタを苦しめて。








だけど……アナタにしか、

託せる相手は居ないの。










私が想う

信頼できる存在は

アナタだけだから……。








だから……。







アナタの心も、

アナタの想いも

全て抱きしめるから

私の願いを叶えて……。












今も木霊し続ける

『殺せ』と言う指令の声に

贖うように、

彼の姿と心の中に描き続けた。








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