4節「幼なじみとの昔の約束を思い出す」

 帰り道、俺の両脇にはなぜか二人の美少女。

 右には、黒髪の風紀委員・ルナ。左には、軽く腕を絡めてくるギャル系のユリナ。

 周囲の視線が痛い。これ、完全に爆発寸前のハーレムイベントだ。


「……本当に何が起きてるんだよ、俺の人生……」


 ぼそっとつぶやいたその時――ふいに、懐かしい声が背後から聞こえた。


「なに、それ。すっごいバカみたいな構図なんだけど」


 振り返ると、そこに立っていたのは――


 朝比奈アカリ。

 俺の幼なじみで、同じクラスの女子。

 昔から口は悪いけど、本当は面倒見がよくて、俺のことを一番よく知ってる存在。

 いつも通りのスカート丈、いつも通りのポニーテール、いつも通りの毒舌。

 でも、彼女の瞳だけは、少し曇っていた。


「お前……まさか、女子二人も引き連れて……“モテ期”とか思ってんの?」

「ち、違う!これはその、偶然で……いや、不可抗力で……!」

「あーはいはい。ま、どうでもいいけど」


 アカリはふいっと視線を逸らして、すれ違おうとする。


「……なあ、アカリ」

「ん?」

「お前……なんか、変な感じしないか?今日の学校、っていうか、女子たちの態度とか」

「……気づいてたんだ」


 アカリの足が止まった。


「正直、最初は信じられなかった。でも、あたしには何も変わってない。ミカ先輩も、ルナも、ユリナも――急に“デレデレ”になって。変じゃない?」

「やっぱり、お前もそう思うんだな……」

「風間」


 彼女が久しぶりに俺の名字で呼んだ。

 その瞬間、ふと遠い記憶が蘇る。


 ――小学校の頃、夕暮れの公園。


「ユウトがさ、他の子とキスしても、アカリは怒らないの?」

「怒るに決まってんじゃん。……でも、本当に好きなら、それくらい我慢するよ」


(あのとき、俺は――)

「……アカリ、お前……覚えてるか?昔、俺が言ったこと」


 彼女がゆっくりとこちらを向いた。


「うん。覚えてるよ。『将来、誰と付き合っても、お前のことは絶対に忘れない』――って言ったんだっけ」

「ああ、それ」

「でもね、ユウト。忘れたくなかったら、ちゃんと選ばなきゃ。じゃないと――私も、きっと忘れさせられるよ」


 アカリのその言葉に、背筋がぞくりと震えた。


 《警告:攻略対象との記憶リンクに干渉が確認されました》

 《プレイヤーの選択によって、一部記憶がロックされる可能性があります》


(まさか……アカリまで、アプリに――!?)


 その日、俺は確信した。

 このアプリは“恋”を与えるだけじゃない――“奪う”力も持っている。


 そして、アカリのように本気で誰かを想ってくれる人が消えてしまう前に、俺は……

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