第2章:この学園、恋愛確率100%

1節「恋を計算する少女、九条メイ」

 翌朝の教室。

 ハーレムめいた昨日の出来事が嘘みたいに、今日はみんな普通の顔をしていた。

 でも、俺だけは分かっている。すべては“アプリの影響”――恋がバグった世界だということを。

 そして、次のターンは――まさかの相手だった。


「……風間ユウト。ちょっと来て」


 授業が終わるチャイムと同時に、俺の机に現れたのは、学年一の天才少女――九条メイ。

 成績は常に全国トップ、でも人付き合いは皆無。笑わない、怒らない、誰とも話さない。

 そんな彼女が、俺をじっと見つめていた。無表情で、感情のない瞳で。


「え、九条さん……なんで俺……?」

「観察対象に選ばれたから」

「え?」

「あなたに、急激な感情変化が見られる。恋愛感情に基づくフェロモン分泌量が昨日から平均値の約3.8倍になってる。……面白い」

「……なんの話?」

「だから、あなたの“恋”を、私の研究対象にする。――拒否権はないよ」


 彼女は強引に俺の手を引いて、廊下を歩き出す。

 見れば、彼女のスマホにも、俺と同じ――《Luv∞Save》のアイコンが表示されていた。


 《新たな攻略対象が登録されました》

 《対象:九条メイ》


「アプリ、知ってるのか?」

「ええ。昨日の深夜、強制インストールされたわ。でもこれはただのアプリじゃない。これは“選択肢”を与えるシステムであり、同時に“記憶”を奪う兵器でもある」

(……やっぱり、この子、ただの天才じゃない)


 屋上に連れてこられた俺は、彼女の質問攻めに遭った。


「あなたはどのヒロインを“本命”と定義してるの?」

「本命って……いや、まだそんなの……」

「定義できないなら、私が“本命”になっても統計的には不思議じゃない」

「おいおい、勝手に何決めて――」

「初体験の予定は?」

「はああああっ!?」

「私はあなたと交際関係を構築し、観察の一環として“恋人らしい行為”も体験したい。参考資料はすでに百本以上のエロゲとラブコメアニメから抽出済み」

「ちょ、おまっ、どこからそんなに吸収してんだよ!」


 メイは無表情のまま、さらりとすごいことを言ってくる。


「風間ユウト。私と、交際シミュレーションを始めましょう。あなたが“恋”に必要な要素を、数値化してあげる」


 そして――彼女は俺の唇に、そっと指を当てた。


 「キスは、初期段階の“感情連鎖”に大きく関与する。やるなら早いほうがいい」


 《攻略対象 九条メイ 好感度:20%→35%》

 《新スチル解放:屋上での密着実験》


(俺……本気で、詰んでるかもしれない)

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