僕と君に小夜曲は似合わない

名月 楓

僕と君に小夜曲は似合わない

僕と君に小夜曲は似合わない


 オレンジ色の光が僕たちの影を形作る。あと30分もすれば夜が訪れるだろう。

──ばしゃっ、ばしゃっ、ぼちゃん

 川へ投げた石は何度かバウンドして沈んで行った。


「ヘッタクソだなぁ」

君は笑いながら言う。


「そう言うならやってみてよ」


「はいはい、見てなよ───っと!」

──ぱしゃっ、ぱしゃっ、ぱしゃっ、ぱしゃっ

 僕が投げた石と同じ材質の石とは思えないほど跳ねてから川底へ静かに沈む。


「ほら見た?すごいっしょ!」


僕は悔しさ半分にすごいとは言わずに、代わりにゆっくりとした拍手を贈る。

「こういうのはほんとうまいね、勉強はできないのに」


「余計なお世話!別に勉強できなくたっていいし、体さえあれば卒業したら家出て働けるもん」

そう言う君の声はどこか苦しそうだった。


「そうだね、僕だって勉強できても誰も評価してくれないからね」

僕も一緒に苦しくなる。僕らはそう言う関係なんだ。方や片親で再婚予定の相手と仲が悪く、方や運動神経抜群の兄弟と比較されて見向きもされない。そんな寂しさと苦しさを抱えている時に、僕らは互いを見つけて、手を取り合ったんだ。


「勉強できるのはえらいじゃん、私だけでも褒めるよ、あんたの味方は少なくとも1人はいるから。忘れたわけじゃないでしょ?」


君はいつもこうやってうれしい言葉をくれる。

「そうだったね、うん、ありがとう」

声が震えないように気をつけながら喋る。


やがて夜になると、どちらかともなく、帰ろう、と言って帰路に着く。

2人並んで帰る途中の商店街で、淑やかな音楽が聴こえる。


「あー、音楽の授業で聞いた気がするこういうの」


小夜曲セレナーデだね、夕暮れの恋人たちのための曲、みたいなやつ」


「そうそうそんなやつだったわ、私はもっとぴょんぴょんしたやつとかが好きだけど」


円舞曲ワルツとかかな?なんか君らしいや」


「それは馬鹿にしてるのか?」

君は怒った顔でこっちを見る。それがおかしくてついクスクスと笑ってしまう。


 僕たちに小夜曲は似合わない。円舞曲の方がよっぽどいいだろう。軽快な音楽に合わせて2人で踊る。恋人なんかじゃなくて友人として。

 僕らは恋人未満なんかじゃなくて、恋人以上の、この世で唯一の味方同士なんだ。

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僕と君に小夜曲は似合わない 名月 楓 @natuki-kaede

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