Love at First Sight⑤

 なんとか梅田ダンジョンを脱出し、地下鉄に乗って私は心斎橋駅へと辿り着く。ここまで来ればもう安心だ。ライブハウスは割とすぐ近くだし、迷うような道のりでもない。予定より遅れてもうライブは始まってしまっているけど、タイガーの出番までまだ時間はある。私は焦りすぎないように慎重に地図アプリを見ながら道のりを確認し、ライブハウスへと向かう。

 もうこの辺みたいだけど、こんな街中のどこにライブハウスが……辺りを見渡しても、雑居ビルばかりでどこにもライブハウスらしき建物など見当たらない。確か名前はライブハウスの名前は『心斎橋DRIPドリップ』。私は何度も地図アプリと周りの風景を交互に睨みつけた。


「あれ……もしかして、これ……?」


 私の目の前に入るのは、なんの変哲もない雑居ビル。しかし、その入り口には地下に繋がる狭い階段が続いていた。壁にはいくつもライブのフライヤーが張ってあり、たぶんここで間違いない。私はこれまでキャパが1000人は超えるようなライブハウスしか行ったことがなかったから知らなかったけど、小さいライブハウスだとこんな感じなんだ……私は恐る恐る階段を降りて行く。

 階段を降りた先の扉を開けると、入り口のすぐ横には受付が立っていた。私は慌ててスマホを操作し、チケット画面を差し出す。


「お目当ては?」

「えっと、TIGERFANGタイガーファングです」

「はい、ドリンク代600円です」


 私は財布からお金を出してドリンク代を払い、ドリンクチケットを受け取る。すると、受付の人は私の手の甲にスタンプを押した。これって、再入場できるためのやつかな……? 初めて押されたスタンプを眺めながら、私はライブハウスの奥へと進む。

 BARカウンターを通り過ぎ、奥まで進むと大きな扉が現れる。中からは音が聞こえ、今まさにこの奥でライブの真っ最中であるかことがわかる。私がゆっくりと扉を開けると、その瞬間から大音量が耳に飛び込んだ。その勢いに少し気圧されながらも中へ入ると、ステージ上ではバンドマンたちが激しくパフォーマンスをしていた。

 すご……音おっきい……というか大きすぎない? 人間が聴いてて大丈夫な音量なの? 私はゆっくりとフロアの後ろの方へ回ると、ステージの見やすい位置まで移動する。ステージ上で演奏をしているバンドマンたちは、よく見ると私とそこまで歳が離れているようには見えない、高校生ぐらいの少年たちだった。

 ボーカルとギター、ベース、ドラム、それと……DJ? 5人組のバンドはタイガーと同じくヘヴィな重低音のあるサウンドをかき鳴らしているが、DJによるテクノなサウンドがそれを彩っている。ボーカルは少しシャウト気味な声でラップをしており、初めて聴くようなジャンルだ。


「ありがとうございました! 俺らが大阪ラップコア、『Revenge of the Dogsリベンジ・オブ・ザ・ドッグス』でした!!」


 曲が終わり、ボーカルが叫ぶと楽器隊が最後の一音を同時に鳴らしライブが〆られる。どうやら、ラップコアというのがこのバンドのジャンルらしい。たぶんこれも大きな枠でいうとラウドロックの一つになるのだろうか……。

 ライブが終わりフロアが明るくなると、集っていたお客さんは散り散りになる。ある人はその場に残り、ある人はBARカウンター、または物販を見に行くような感じだ。フロアが明るくなったことで、私はフロアの後ろでバンドの物販が行われていることに気づく。当然、そこにはタイガーの物販もあった。

 物販で売っている物は様々だ。CDにTシャツはもちろん、タオルにキーホルダー、ステッカーもある。私はそのグッズの数々に目を輝かせた。しかし、お小遣いには限りがある。元々お小遣いの底が尽きてしまっている中、お母さんから借りたのは五万円。交通費を差し引けば残っているのは二万円ほどだ。慎重に選ばないと……。私はある程度買うものを決めると、売り子の人に声をかける。


「すみません、このTシャツのSサイズとこのキーホルダーと……いや、やっぱりステッカーも欲しいな……あとそれと……」


 会計が終わり、気づけば私は大量にグッズを購入してしまっていた。こんなに使うはずじゃなかったのに……まぁでも、そのうちバイト代で返すんだし今日のところはいいかと私は自分に言い聞かせる。

 両腕に抱えたグッズを鞄に詰めようとフロアの隅に向かうが、そのときふと横の物販が目に付いた。タイガーの横で物販をやっていたのは先ほどライブを行っていたバンドである。売り子もよく見たらさっきまでステージに立っていた人であった。

 やっぱり高校生ぐらいの人だろうか。私と変わらないぐらいの歳でも、あんなライブができるんだ。そんなことを考えていると、いつの間にか私はその物販の前に立ち尽くしていたらしい。


「あの……なにか?」

「あ! ご、ごめんなさい!」


 売り子の人に声をかけられ、私は物販の邪魔をしてしまったことに気づき慌てて謝る。 


「いや、大丈夫ですよ。よかったら見てってください。ちょうど今日から出したシングルもあるんです」

「そ、そうなんですか……それじゃあ……」


 タイガーとは違い、物販で売っている物はそう多くはない。私は売り子の人が言っていたシングルを手に取った。価格は1000円。CDにしては破格であるが、こういうものなんだろうか。これも何かの縁と思い、私はグッズを抱えた状態で何とか財布を取りだす。


「おおきに、ありがとうございます」

「あの、お兄さんたちっておいくつなんですか?」


 会計を済ませ、CDを受け取ると私はつい気になっていたことを聞いてしまった。


「17ですよ。僕ら、同じ高校の同級生でやってるんです」

「え、そうなんですね……すご……」


 再びつい漏れ出た言葉に売り子の人は少し照れ臭そうにしている。すると、横から突然サングラスをかけたチャラい風貌をした男が、売り子の人の肩をガシッと掴んだ。


「おいアンズ、珍しいやんけ! ナンパか? 抜け駆けはよくないなぁ!」

「ちげーよ。あっち行ってろ」


 現れた男に人はさっきのバンドのボーカルであった。なんというか、こんなにも距離が近いものなんだ。さっきまでステージ上で演奏していた人たちが自分たちでグッズを売ってこの距離で話してくれている。アザラシのファンをしていた頃だったら考えられない世界だ。


「ごめんな、やかましくて。良かったらまた見に来てください」

「は、はい! ありがとうございます!」


 私は売り子のお兄さんにお礼をすると、グッズの整理に移動する。それにしても、あんな激しいライブをしていたのに爽やかな人だったなぁ。私と二歳しか変わらないのに、あんなに堂々とステージに立ってて本当にすごい……もしかしたら、私もがんばれば……なんて、少し影響されてみたり。

 そうこうしてるうちに、もうそろそろタイガーのライブの時間だ。なんだかんだあったが、今日のライブは絶対に楽しまないと。私はそう意気込むと、心を躍らせていた。

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