久子は最初は剛が側に寄って来るだけで恐怖だったが、最近はお金と欲望両方手に入るので剛との時間を出来るだけ多く持ちたいので、剛が帰って来ると付きまとって離れない。

　妻の静子に比べれば只のダバにしか過ぎない女だが、こんな女でも妻にはない魅力がある。それは美しすぎる妻には到底言えない行為を、この冴えない久子になら気楽に頼めるからなのだ。

　久子は自分の身分の低さゆえに、到底接点のないブルジョアとの交合に夢を見ているようだ。剛との結婚など夢のまた夢だが、この家にいる限りは男と女として交わる時は平等だ。最初はまるでオモチャの様に扱われて虚しかったが、今は違う通い合う何かがある。

　最初は只のオモチャとしての旦那様に拒否反応を起こしたが、こんな美人でもない自分を抱いて下さる旦那様の為ならどんな事もいとわない。それが例え有り得ない変態行為だとしても、その時だけはお美しい奥様たりともこの行為の間は割り込むことが出来ない。そう思うとどんな行為であろうと喜んで応じることが出来るのだ。こんな身分違いの私でも十分すぎるお金と住処を与えて頂き、雲の上のお方と１つになれる。そう思う久子であった。

　たとえ叶わない夢であろうと旦那様のお側いられる喜びと快楽と、更にはの安定した生活を維持できる。更にお給金のほかに、別途でお金をもらえる特権があるので、この関係は止められない。

　一方の祖母節子は千秋から話を聞いて、自分も同じ道を歩んできたので、さして気にはならないが、孫の千秋が心を痛めている事に何とかしなくてはと考え始めた。だが、首にすると言っても千秋がすっかり久子を気に入っているのに、おいそれとは辞めさせる訳にはいかない。

　それから…千秋には兄妹がいないが、久子の娘亜友美を妹のように可愛がっている。だから…首には出来ない。そこで息子剛に忠告した。

　その日は丁度嫁静子が中学女子バレー部の顧問として、大会に出かけている日だったので、息子夫婦宅に出向き話した。

「剛お前はお手伝いさんの久子とただならぬ関係らしいが、千秋が気づいているのでそのような不埒な真似はよしなさい！」

　そう言われた剛は母親や娘に知られてしまい恥ずかしい気持ちで一杯で、穴があったら入りたいそんな気持ちで一杯だ。

　剛は子供にも気づかれてしまい、なんとか止めようと誓ったが、そう簡単にはいかない。それこそ大切な餌を取られた気分だ。

　それでも…暫くは我慢したが、獲物が目の前をうろついているのに、それを黙って指をくわえて見過ごす事がどうして出来ようか？

　こうして今度は慎重に行動を心がけ久子との関係は延々と続いた。

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　一方の母静子は30代後半に差し掛かるというのに、一層艶やかさが増し美貌の教員として先生たちの憧れの教員となっていた。

　家では姑から出自の事でアイヌだ何だと、罵詈雑言の限りを言い尽くされ耐え忍んでいるというのに、夫は素知らぬふり。それどころか夫剛が女中に手を出していることを知ってしまった今、考えることは夫との離婚の事ばかり。

　今までは千秋も小さかったので離婚は出来なかったが、もう千秋は中学生。両親と行動するより友達との事を優先する。教員なので娘千秋を引き取り離婚しても十分に生活は出来る。

　それでは静子は夫と久子の関係にいつ気づいたのか？

　それはある日のことだ。大勢の生徒がインフルエンザにかかりバレーボールの試合が突如中止となり、遠征先から急遽帰宅した時のことだが、想像だにしない現場を目撃してしまった。なんと言うことだ。その日は娘千秋は丁度親戚の家に泊まりがけで出かけていなかった。

　そんな日のことだ。なんと剛と女中久子が一緒に風呂に入っているところを目撃してしまった。疲れて帰ったのでお風呂に入ろうとお湯張りに風呂場に入った。すると丁度久子が夫の背中をこすっているところだった。

「キャ―――――――――――――――――――――ッ！」

　静子はうろたえ家を出て当てもなく彷徨った。

（姑で散々苦労させられ、今度は女中に手を付けるなど絶対に許せない！）

　以前から考えていたことだが、今回離婚の2文字が頭にハッキリと浮かんだ。

（姑に酷い仕打ちを受けている静子を見ても助けるどころか、一緒になってアイヌを揶揄するような態度には耐えかねていたが、今度だけは許せない。とんでもない裏切行為だ。剛が絶対に許せない！💢💢💢）

　剛にすれば、決して静子を追い詰めたい訳ではないが、静子の肩を持つと母が機嫌が悪くなるので、それを恐れて母側についていた。

　一方の静子はいつも受け身で捨てられるのを怖がって、逆らったことが一度たりともなかった。そこで文句を言いそうな方に肩入れしていた｡それから妻は替えは聞くが母は世界中に1人だけだ。

　この様な考えしか出来ない夫剛を見限った静子。

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　あの一件以来先生同士の飲み会にも積極的に参加している。今までも先生同士の会合も結構あったが、静子は今までは家族を第一に考え付き合いをセーブしていたが、先生同士の飲み会にも前向きに付き合うようになっていた。

　生徒の成績や部活、体調などの話や、成績を上げるにはチームワークが大切だから定期的に集まって話し合いがもたれていた。

（今までは夫に尽くすことが自分にとって一番のベストだと思い、身を粉して夫に尽くしてきたが、自分は経済力がある公務員だ。真面目に勤め上げれば老後には十分な恩給も一般人より多く貰える。何もあんな家で神経をすり減らしている必要などない）

　※昭和37年9月8日、地方公務員共済組合法により、新しい年金制度である共済組合制度に移行した。

　こうして…自立を考え目を外に向けると、一際美しい静子に好意を寄せる先生は何人もいる事に気づく。

　そんな時に独身の先生で、静子より4つ年下の松本先生と帰りが一緒の方向で、話すようになって行った。

　静子は久子との一件以来夫とほとんど口を利かない。同じ男でも松本先生は4つも年下だというのに、こんな年上の先生を女として扱い。アイヌだという話もしたが、一切そんな事には動じない優しさだ。

　すっかり松本先生に気を許した静子は、松本先生と2人だけで金曜日の夜飲みに行くようになっていた。

「先生飲み過ぎですよ。さあ帰りましょう」

「私今日帰りたくない。私の夫が女中に手を出していたのよ。そんな事……許せる？……ぅうううっ…( ﾉД`)ｼｸｼｸ…夫が許せなくて……」

「ダメですよ。そんなに飲んじゃ」

　こうして…松本先生の部屋に泊まった。

　中学校教員は小学校と異なり、各教員が専門の科目を持って授業を行なうので、 教員の仕事は、授業や授業の準備だけではなく、テストの作成や採点なども含まれ、他にも学校行事の準備、進路指導など業務は多岐に渡り、様々な事務作業も発生する。 専門教科の指導に加えて、進路・生活指導も中学校教員の大切な仕事の1つだ。

　この様に、夫剛も妻の仕事の大変さはよく知っているので、例え帰りが遅くても仕事の事はよく理解しているので、まさか男が居ようなどとは想像もしていない。

　もう千秋も中学生で休みも親子で出掛けるより、友達と一緒のことを好む年齢だ。母静子は久子との夫の浮気現場を見て完全に切れた。離婚しかない。

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「静子最近帰りが遅すぎだぞ。どうしたんだ！💢💢💢💢」

「私もうあなたとはやって行けません。離婚して下さい」

「何を言っているんだ。仮にも市長夫人が離婚だなんて、市民に示しがつかない。どうしてそんなこと言うんだい？」

「久子とはいつからの関係なのですか？」

「あの時は只背中を擦って貰っていただけじゃないか？変な勘繰りはよせ！」

「ふっふっふ！2人とも裸で背中擦りだけですか？有り得ません」

「本当だ。俺は愛しているのは静子だけだ。だからそんなバカげた話はよしてくれ！」

「私調べたのですよ。久子とあなたの関係もう5年にもなるのですね？そんな事とは露知らずあなたに尽くしてきた私は本当にバカでした。目が覚めたのです。離婚して下さい。千秋は私と生活したいと言っています。だから連れて行きます」

「そんな馬鹿な事は言わないでくれ！俺は久子とのことは只の遊びだ。それから……久子とのことがそんなに許せないのであれば首にしても良いから。頼む出て行かないでくれ！」

　するとそこに千秋がやって来て言った。

「ママ、パパを許してあげて！私も久子と亜友美を家族同然に思っていたけど、それは叶わない事だと分かったわ。パパが言うように久子親子に出て行ってもらいましょうよ」

　実は…母静子は松本から結婚を申し込まれていた。だから剛とは完全に冷めていてやって行く気など毛頭なかったが、子供にほだされ千秋が大学生になり親元から離れたら離婚しようと考えた。

　だが、静子は若い松本先生との関係を断ち切ることなど出来ない。今までは夫に従い受け身で生きてきたが、松本は静子を1人の女性として尊重し、反対に先輩先生と言う事で静子のいいなりだ。

　

　自分の出自を全面否定され、自分たちこそ貴族様、華族様とお高く留まり、奴隷扱いの今までの気取った窮屈な生活から、何とか逃げ出したい静子であった。