第14話 女中の久子


 結木千秋の父は愛知県知○市の市長である。家にはお手伝いさんがいるので母が仕事で遅くなってもなんとか回っている。まだ男尊女卑が色濃く残る1960年代後半の事だ。母は中学の教員なので遅く帰ることも度々だった。


 母はテスト期間とかになると、夜8時~9時くらいまで学校に缶詰状態で家に帰ってくるのは10時過ぎだ。 更に母は、自宅に帰ってもまだ仕事があったりで本当に大変そうだ。

 それを良いことに父は、お手伝いさんによく手を出していた。お手伝いさんにしても個室付きで住み込みという好条件だったので働き出したのだが、そこには落とし穴が潜んでいた。久子にすれば甲斐性なしの夫で苦労して、やっと住み込みで親子で住めると喜んで働き出した。


 久子はそんな夫だったので、離婚して切羽詰まって新聞の広告を見て応募したのだった。子持ちで、尚且つ夫と離婚していて生活に困って路頭に迷ってのことだった。


 意気揚々と働き出した久子だったが、奥様がいつも帰りが遅いので眠るのも遅い日が続いていた。お嬢様の千秋様はまだ小学校で9時には床に入られる。静子奥様が帰りが遅い時はもっぱら寝かせ付けるのは久子の役目だった。


 紙芝居を読んで聞かせたり、一緒に子守歌を歌ったりして寝かせ付け、自分にも子供がいるので二階の奥まった端っこの部屋に駆けつけ寝かせ付け、またしても奥様の夕飯の準備だ。


(折角働いて疲れて帰っていらっしゃる奥様に、出来立ての食事を出して差し上げたい)そう思い台所に立っていると、旦那様が後ろからソーッと近づきおっぱいをギュッと掴んできた。


「旦那様奥様がいらっしゃるのにそのようなことは…どうかお許し下さい」

 ぶるぶる震えながら久子がそう訴えると、旦那様は1万円を久子の胸の谷間に挟んで言った。


「お金が欲しかったら拒むな!」


「私はここで働かせてもらえるだけで十分です」


「辞めてもらっても良いんだよ?」


 剛にしてみれば慣れっこになっていた。戦前などは洗濯機などなく洗濯だけでも1日がかりの大仕事だった。まして結木家は華族の筆頭公爵様だから、多い時はお手伝いが3人もいた名家だ。


 祖父も父も女中に手を出していたし、剛が大学生の頃にも女中に手を出したが、その時は剛には全くお咎めなし。反対に大事なお坊ちゃまを誘惑した阿婆擦れ女中と見なされ、首になり田舎に返された。

 

 戦前、サラリーマンの月給が100円だった時代、住み込み女中さんの給金は、わずか10円(2万円相当)だったそうなので、中産階級(中小工業者、自作農、医師、弁護士、ホワイトカラーなど)でもお手伝いさんを普通に雇うことができた。


 剛は首にすることを恐れてはいない。今までと同じように女中は性処理の道具の一つと思っていた。


 こうして延々と妻静子の目を盗んで久子との関係は長きにわたり続いた。


 ◀◁◀◁◀◁◀◁


 若かったお手伝いの久子は決して美人ではなかったが、ふくよかな体に魅了された父剛は娘千秋が知っているとはつゆ知らず、母が学期末テストや中間テストで遅くなる時に限って、女中に手を出していた。


 千秋は最初の内はまだ幼すぎて、それがどう言う行為なのかは分からなかった。だが、中学に入ったある日衝撃的な場面を見てしまった。


 父がお手伝いの久子と応接室で一糸まとわぬ格好で抱き合っていたのだ。


 2人は千秋が応接室のドアを開けたことにも気づかずに、欲望に溺れ興奮状態で「はあはあ」吐息混じりで行為にふけっている。若い久子は興奮状態で奇妙な喘ぎ声を出して行為に及んでいた。


 それも何という体たらくな。こんなお客様を招く応接室でこのような行為を行うなど以ての外。


 思春期の千秋は今まで学校から帰ってくると、いつも祖母がおやつとして、大福やケーキをジュースと一緒に用意して冷蔵庫に入れてあるのを食べるのが、何よりもの楽しみとなっていた。それもゆったりとしたソファーのある応接室でテレビを見ながら食べるのが唯一の楽しみだったが、もう応接室で物を口に運ぶ行為が絶対に出来なくなった。


(汚い!どこにあの久子の汁(精液)がついているかもしれない。また、あんなに善良で市民のお手本であり、市民の代表である清廉潔白な父が、あのような汚らわしい目つきで行為に及んでいたとは、もう父の顔を見るのもイヤ!そして…この応接室で座ることも食べることも気持ち悪くて絶対に出来ない!)


 父が許せなくて、その許せない気持ちをどこにぶつけて良いものか、考えあぐねている。一番身近な母にはそんなことは口が腐っても言えない。母が嘆き悲しむことは嫌というほど分かっている。あれだけ仲良し夫婦だったのに父は何故このようなふしだらな行為を行うのか、理解不能だ。困り果てた千秋は祖父母に相談しようと思った。


  ◀◁◀◁◀◁◀◁


 棟伝いにある祖父母の家は広大な敷地を廊下で挟んで建っていた。

 怒りに震えた千秋はこの怒りをどこにぶつけたら良いか分からなかったが、適任者祖母に相談した。


「はあ…はあ…おばあ様……おばあ様……聞いて……聞いて!もう私我慢できないの」


「どうしたのそんなに血相を変えて息を切らしてくるなんて…何があったのですか?」


「私お父様が許せなくて……不潔……汚らわしい。実は……実は……お父様と久子が応接室で裸でとんでもない行為に及んでいたのです。お母様が可哀想すぎます」


「殿方を満足させられない、お母様が悪いのですよ。決して剛は悪くありません。あの久子も大切な息子を誘惑するなどとんでもない 身持ちの悪い女ですこと💢💢💢あんな女首です!!!」


「止めておばあ様…私は母が仕事で遅くなっても久子がいたから我慢が出来たわ。絶対に首にしないで!!!」


 久子は首になるのか?


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