第10話 断末魔の悲劇


 実質上の藩主高晴は、美しいユキの噂を聞きつけ早速出向き占いをしてもらったが、余りにも美しいユキに一瞬で恋に落ちてしまった高晴だった。今で言うビビッと来たのだ。


 こうしてユキに占いを見てもらい、早速ユキを自分のものにしたくなった高晴は、そこに常駐して城内統制に当たっていた城の二番家老に言った。


「もっと詳しい占いを頼むので借りていく」


 参勤交代の施策の1つで妻が江戸に人質となっていたので、妻のいない寂しさを紛らわしたいと常日頃から考えていた高晴だったが、どの女も帯に短したすきに長しで何の役にも立たない。そこにこの様な美女が現れて只々興奮気味である。


 高晴は寝所に連れて行き有無を言わせぬ形で関係を結ぼうとした。


「わしは一目見てユキの事を好きになってしまった。良いだろう」

「それはいけません。私はこれから起こりうる。松前藩の政権を良い方向に導くために占い師として招かれたのであって、只の慰み者として来た訳ではございませぬ」


 使用人の分際で藩主に逆らう事は死をも意味しているというのに、ユキはこのような言葉を言い放った。それでも…尚も強引に迫ってくる高晴の力には到底敵いそうにない。

「いけませぬ。この様な事は……」

「良いではないか、わしはユキの為だったら死んでも良いとまで思っている」

 そういうと尚も強引に重なり、とうとう抵抗できずに関係が出来てしまった


「……私はこれから起こりうる。松前藩の政権を導くために占い師として招かれたのにこの様な事になるなんて……どうして良いか分かりませぬぅうううっ( ノД`)シクシク…」

「そちの事を悪いようにはしない。わしにとってはこの松前藩の妻はお前だ。だからこの様に強引な事をして悪かったが、今おぬしを自分のものにしておかないと、絶対後悔するという御告げのようなものを感じたのだ」


「そこまでわたくしの事を思ってのことなら……嬉しゅうございます」

 

 ◀◁◀◁◀◁◀◁


 あれ以来ユキの事で頭の中が一杯の高晴は秀則に相談した。

「秀則……実は…わしはユキの事が好きだ。だが、実質上の松前藩のトップが誰でも良い訳ではない。あの女の素性は分かるか?」


「いえ……城下で偶然に占ってもらった占い師です。だから詳しい事までは分かりませんが……」


「一遍それとなく調べてくれないか?」


「ハイ!でも……この城で雇う時にそれと無く調べましたが、商人の娘です」

 

 ここで問題になって来るのが身分制度だ。江戸時代は「士・農・工・商」その下 にエタ、ヒニン(死牛馬の処理をする)の身分が存在していた。

 商人と言えば成金も多く存在したが低階層である。そこで…実質上のトップとしてはこれでは示しがつかぬ。


 そうなのだ。実質上の松前藩のトップが誰でも良い訳ではない。そこで筆頭家老秀則の養女としてもらい受けてもらった上で、その後で自分の側室に迎え入れようと考えた。


 そこで筆頭家老秀則に相談した。


「秀則わしはあの占い師の女を側室として迎え入れたい。そこで…相談なのだが、実質上のトップであるわしの側室が身分の低い女では困るので、秀則の養女にしてくれないだろうか?その後でわしの側室として迎い入れたい。参勤交代で妻は江戸に人質になっているから側室としてどうしてもユキをそばに置きたいのじゃ」


 その時既にユキを自分のものにしていた秀則は困ったが、上司に逆らえば大変なことだ。こうしてその申し出を呑んだ。


 だが、運の悪い事に丁度この時期6年に1回の参勤交代が近づいていた。4月なので大名行列が始まるのだ。


 実は…三代将軍、徳川家光が定めた「参勤交代」により、大名は1年おきに江戸と自分の領地を行き来した。 大名は定期的に江戸に来て、将軍にしたがうことを義務付けられて江戸と地方を結ぶ街道では、春、大勢のお供をしたがえた大名の行列がみられた。


 ※参勤交代とは徳川政権期、諸大名が将軍のもとに出向き門番・火番や作事などの勤務を交代で行う制度である。参勤交代は諸大名が交代で滞在して大名課役を勤め、幕藩体制を維持する点に意味があったが、各藩に財政負担を強いたり、軍事力を削ぐための政策だった


 ※大名(江戸以前は家臣を率いて多くの私田を有する勢力を持っている武士。江戸時代に入ると将軍に仕える1万石以上の所領を持っている武士)


 ※江戸に常住している水戸藩や老中、若年寄は、参勤交代をする義務はなかった。 また、江戸近郊の関東の大名は、半年ごとに国元と江戸を往復したが、遠方の対馬藩は3年に1度、蝦夷地の松前藩は6年に1度と定められていた。他の諸大名は1年に1度江戸と自分の領地を行き来しなければならず、江戸を離れる場合でも正室と世継ぎは江戸に人質として常住させられた。側室および世継ぎ以外の子に義務はなかった。ただし、当主の交替などの特殊のときには大名の妻子が一時的に帰国を許された。また夫を喪って後家となった正室には帰国が容認されているケースもある。


 ◀◁◀◁◀◁◀◁


 参勤交代で蝦夷地から津軽海峡を越える必要があり、天候や海の状況によって日数が変動した。松前藩が参勤交代で江戸に到着するまでには、早い場合で約26日、遅い場合で40日ほどかかった。


 こうして…無事お勤めも終わり約半年ののち松前藩に到着した一行だった。


 高晴は若くて美しいユキの虜となって妻との交わりも早々に、ユキに会いたいばかりに、ある夜江戸から到着したばかりだというのに、会いたさ見たさで急遽ユキの住んでいる家に向かった。


 実は…秀則から美しいユキには家臣たちからの視線が熱く困っているという旨の話を聞いていたので、あの別宅は高晴が手配したものだった。


 美しいユキの為にそれはそれは豪勢な邸宅になっていた。この豪邸は高晴に今できるユキに対しての最高の愛情表現であった。


 そこで…子の刻(現在の午前0時の前後2時間)にユキの家に到着した高晴は幾ら呼んでも返事がないので板戸を開けて家の中に入って行った。


 またユキをこの手で抱きたいその思いは高鳴るばかりだが、反面返事がないという事は何か事件に巻き込まれたのではと気が気ではない。会える喜びと相反して不安で押し潰されそうな高晴は順番に部屋の扉を明けて行った。


 真っ暗闇の静まり返った廊下を渡っていると微かに聞こえる声は、虚弱で今にも息絶えそうな女性の声にも聞こえるが、片方では女の喜び喘ぐ声にも似ていた。不安と恐怖で次の板戸を開けた目に飛び込んできたものは、何とあの堅物の秀則の興奮した姿だったが、最も辛かったのが、あんなに貞節なユキが高晴と言うものが有りながら、あんな中年男に身を任せているふしだらな姿だった。


「おぬしら許せぬ!💢💢💢」


 高晴もユキに魅了された1人だったが、参勤交代で国元を半年ほど離れていたので秀則とユキの深い関係は全く知らななかったが、ユキに対する熱い思いは消える事は無かった。

 そんな時にどこからともなく、かすれるような小さな「あ"あ"あ"あ"あ」「アン」声にならない声が聞こえて来た。


 こうして…戸を順番に開けて行った先に何という事だ。あの堅物の仕事人間秀則が夢にまで見た美しいユキと交わり密会していた。


「おぬしら何をしておる!💢💢💢」

「あっ!高晴様もう少し遅れると聞いていたのに……」


 困惑した表情の秀則だったが、その後は何という場面を見られてしまったのだろうと思う懺悔にも似た無念の気持ちと、只では済まないという恐怖が押し寄せて来たが、その反面自分の女を横取りしたのは他でもない高晴様ではないか!という怒りが沸々と湧き上がってくるのであった。


「貴様よくも俺様の側室に手を出すとは不届きもの目が、許せぬ!殺しても足りぬ卑劣な行為許せぬ!💢💢💢」


「お許しください殿様。何卒命だけは……」

 秀則はこんな高晴の怒り狂った、いつ殺害されてもおかしくない断末魔の状態でも必死で命乞いをしている。


「どんな理由があるにしろわしと言うものが有りながら何という醜態。ユキお前も許せぬ!💢💢💢どうしてこのようなことになったのだ。申してみい!」


「ぅうううっ( ノД`)シクシク…実は…実は…この秀則様に強引に犯されたので御座います。抵抗しても到底女の力ではわ……あ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」


「この野郎!人の大切な女を快楽のおもちゃにしやがって許せぬ!殺してくれるわ💢💢💢」


「おおっお待ちください!!!お待ちを!!!」

 そう言ったが早いか、高晴の怒りに震える剣が一気に秀則の首を射程圏内に捉え振り下ろされた。


 ”プス”

 辺りは血の海と化した。











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