第9話 美しいユキ
ある日の事だ。ノンノは側室となり別宅を与えられて筆頭家老秀則と別宅で愛し合っていた。
「愛しております。秀則様💋💞💝嗚呼……」
「さようか……わしもユキのいない人生など考えられぬわ。もっと……もっと……美しいユキと愛し合いたい」
ノンノは松前藩の実質的な指揮者で、シャクシャインの戦いの指揮をしたのも秀則だという事をよくよく知っていた。許せない気持ちで一杯だが、アイヌの民たちの思いを引き継ぎ報復の為には、こんな20歳以上も年の離れた男との交合を、嫌だからやりたくないなどと、甘っちょろい事を言っている場合ではない。
そこに何と思いもよらない人物が現れて鬼の形相で言った。
「おぬしら何という不埒な事を💢💢💢」
◀◁◀◁◀◁◀◁
秀則の妻サダは側室が何人もいても、それは世継ぎが誕生していなかったので秀則が側室を迎えていただけの事で、美しい正妻サダに寂しい思いをさせることなく側室とは儀式として関係を結ぶだけで、入り浸りするような事はそうそうなかった。
それでも…サダは秀則様の気持ちが側室に向かうのではと気が気ではない。
だが、何とそんな心配事も吹っ飛ぶような朗報がもたらされた。長きにわたり子宝が授からなくて苦しんでいたが、念願の世継ぎ誕生に沸く橋本家だった。
「おお……でかしたぞ。サダ可愛い世継ぎを産んでくれて……わしは幸せものだ」
「秀則殿私は嬉しゅうございます」
この様に仲の良い夫婦だった。
だが、こんな中むずまじかった夫婦に亀裂が生じる。そうなのだ。世にも美しいユキの出現で悲劇が起こる。
あの日団子屋で、休んでいると現れた浮世離れした美しい占い師ユキによってそんな日々はあっけなく崩壊して行く。
出会いはある夕刻の事だ。
筆頭家老橋本秀則は夕方になると家来を従えて、城下を馬にまたがり視察するのが日課だった。それは他でもない町民の生活環境や争いなどを未然に防ぐための視察だった。
そんなある日の事だ。城下の団子屋で休んでいると、今まで一度たりとも見たことのない美しい少女?若い女?が話しかけてきた。ごく普通の町娘の恰好で秀則の前に現れて言った。
「お武家様……あなたの顔には戦いの相が出ております。それも近日中に妖しい雲行きが見て取れます」
それは「シャクシャインの戦い」が始まる数日前の事だ。ノンノは松前藩の筆頭家老であることをよく知って近づいたのだ。
その時はそれで終わったが、本当に数日後に「シャクシャインの戦い」が始まり1669年(寛文9年)、アイヌ合同軍は、松前藩に対して武力攻撃を開始。
だが、最終的には松前藩はシャクシャイン以下大勢のアイヌを謀殺して幕を閉じた。
秀則は余りにも的中したので、占い師の女を城内に置くことを検討して家臣に城下中をくまなく探らせた。そんなある日の夕刻、いつものように家来数人を従えて城下を視察して、いつもの団子屋で休んでいると、あの美しい占い師が現れた。
「おうおう探しておったのじゃ。お主が言った通り本当に戦いが起こったのじゃ。それでまたお願いしたいのじゃ。おぬしワシの顔に何か不吉な相は出ておるか?」
「そうですねぇ?長らくお子が誕生しなくて苦しんでおられたが、お子が誕生する。または誕生した相が出ておりますが?」
「……実は20年近く子供が出来ずに苦しんでいたが、半年前に男の子が誕生したのじゃ。実はそちに話が合って探していたところじゃった」
「何でしょうか。お話とは?」
「松前藩で占い師として働いて欲しいのじゃ」
「宜しいですが……」
こうして…ユキは占い師として城内で確たる地位を築いて行った。
そんな時松前藩の藩主だった浩武様は父が病死したため、若くして家督を継いだ。だが、まだ幼年の7歳だったので、名代として叔父が事実上の藩主となり権力を握っていた。
叔父で事実上の藩主高晴は、筆頭家老の秀則の手腕を高く評価しており重要な懸案事項は秀則の手腕に任せて、高晴には最終的な判断をゆだねるだけとなって松前藩は回っていた。
そんな時に秀則から凄く的中する占い師を城内に雇ったと聞いて早速高晴は占ってもらおうとユキの元を訪れた。
余りにも美しい今までに見たこともない美貌のユキを見て、一瞬で恋に落ちてしまった高晴だったが、既に正室の他側室を持つ身だったが、ケタ違いの美貌に夢中になってしまった。
まあそれでも占ってもらうためにやって来たのだからこれからどうなるか、見てもらった。
「最近砂金の採取量が徐々に減少して来ているが、どうしたら良いものか、思案に暮れている。わしの顔でも手相でも良いので今後のわしの運勢を見てくれ」
「ハイお殿様」
ユキはじーっと高晴の顔をくまなく見て言った。
「思いますに……不吉な相が出ております。それはですね。極近親者の大切な人物が殺害されると出ているのです」
「おうおうそれは……大変なことだ。手立ては有るか?」
「そうですねぇ???しいて言うなら女にご用心ということでしょうか?」
◀◁◀◁◀◁◀◁
それでは筆頭家老秀則とユキはどのような経緯で付き合う事になったのか?
それは……早速占い師として城内で生活していたユキだったが、余りの美しさに家臣たちからのアプローチが頻繫に続き困り果てていた時の事だ。中には思い余って職務外の時に付きまとうものまで現れた。ユキは危険に晒されたため秀則に相談した。
「秀則様私は家臣たちから交際を申し込まれて困っております。複数人から告白されて至る所で待ち構えられて、集中できなくて仕事になりません」
「一体誰だね。そんなに付きまとうのは?」
「AとBとCが行く先々に現れて困っております。でも……私が言ったせいでお咎めがあり出世できなかったらかわいそうですし……」
「じゃあ……わしの家の別宅から暫く城内に通えるかい?」
「ええ……良いですけど……場所は遠いですか?」
「イヤイヤ歩いて15分ほどじゃ」
「お願いします!」
「それから……家臣には誰とはなしに厳しく言っておく。『女にうつつを抜かさず仕事にまい進しろ!』とな」
こうして…美しいユキに付きまとっていたことが噓のように、あれ以来平穏な日々を送っているユキだった。
「秀則様のお陰で城内で安心して仕事が出来るようになりました。ありがとうございます」
「当然のことをしたまでの事。安心して仕事に精を出してくれたまえ」
それでも…秀則はユキに生活環境を整えてやる責務がある。この様な事から秀則が別宅に通うようになって行った。どこに米屋があって、どこに魚屋があるとかの説明と、足りない家具一式を揃える為に度々2人は出掛けた。
このような経緯から男女関係となり、秀則があれだけ家族を大切にしていたのが噓のようにユキのいる別宅に入り浸りとなって行った。
だが、一方の藩主補佐の高晴様もユキに魅了された1人だったが、参勤交代で国元を半年ほど離れていたので秀則とユキの深い関係は全く知らななかったが、熱い思いは消える事は無かった。
こうして…参勤交代から戻った高晴は早速ユキを自分のものにしようと動く。
そんな時にユキは城内で生活していると思いきや、城下で生活している事を知ると、早速ユキの住んでいる家に向かった。
「ごめんユキ殿はおられるか」
そう言ったが返事はない。そこでまたしても言った。
「ごめんユキ殿!」
幾ら呼んでも返事はない。そこで玄関の板戸を引いてみた。
すると板戸が開いた。
ひょっとして何か事件にでも巻き込まれたのかと思い、家の中に侵入した。
家の中は真っ暗でシーンと静まり返っている。
そんな時にどこからともなく、かすれるような小さな「あ"あ"あ"あ"あ」「アン」声にならない声が聞こえて来た。
こうして…戸を順番に開けて行った先に何という事だ。あの堅物の仕事人間秀則が夢にまで見た美しいユキと交わり密会していた。
「おぬしら何をしておる💢💢💢」
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