第6話 「妊娠させた!!!」
僅か3歳の時におじさんの家で海斗が見た1枚の写真の少女を、偶然にも竹下通りで見てしまった。
ここにはどんな秘密が隠されているのか?
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「一体何が有ったのですか?1枚の少女の写真をおじさんが父に見せて、あの日恐ろしい顔で罵り合っていた事だけは覚えています。でもその事はおじさんは余程言いたくないようですので、もう諦めます。でも、既に20年も経つ現在にあの少女が蘇るなんて絶対変です。だから……もう一度あの写真だけでも良いので見せて欲しいのです。だって僕がその時の少女にそっくりな少女に会ったと思っていても、ひょっとしたら全く違っているかも知れません。だから……その為にもお願いです。もう一度だけ写真が見たいのです。ともかく写真だけでも見せて下さい」
「分かった」
そう言うとおじさんは二階に上がり暫く待っていると、古びたアルバムを持って現れ海斗に手渡してくれた。
「あっ!やっぱりあの竹下通りで会った少女にそっくりだ」
いつも穏やかなおじさんの顔が恐ろしい顔に豹変した。
過去に一体何があったというのか?
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1945年の終戦直後まで、水産資源に恵まれた千島や樺太(サハリン)には、多くのアイヌ民族が暮らしていたが、沖に突然現れたソビエトの軍艦が侵攻し、やがて家にまで上がり込んできてアイヌ民族は逃げた。日本人がチャーターした舟で北海道に脱出したのだ。
だが、ここで事件は起こる。女に飢えた兵士の中には若い女を餌食に欲望を満たすものも少なくなかった。また恋愛にまで発展するものもいた。
その時10歳の千秋の母静子は、美しい母が大勢の若い兵士に強姦されている姿を目の当たりにしていた。そして…挙句には衰弱して母は死んでしまった。
だが、それだけでは終わらなかった。その死体をなんとも残酷に息絶えた母を海に流した。
その当時は終戦直後で、街中に死体がゴロゴロ転がって腐敗して虫がたかり、衛生状態も劣悪だった。片付けるのも一苦労で警察が死人をいちいち取り締まる暇など無い時代だった。そうなのだ。なんとも残酷なことに戦争のどさくさに紛れて海に捨ててしまった。
海斗の曾祖父正治青年はその当時「樺太の戦い」でその事件を、目の当たりにしていた可能性は高い。という事は、海斗がここまで執拗にその少女にこだわるという事は、ひょっとしてこの少女はアイヌ民族という事も考えられる。
だから……潜在的に、この少女にこだわっているのかも知れない。それと海斗にとって今まで会った事もない超美少女だったという事は非常に大きい
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現在生きていれば65歳の千秋と、現在大学生の海斗はどこかで接点があるのかも知れない。
そう考えると、千秋のあの男に対しての冷徹な態度が理解できる。祖母が男の餌食となり衰弱死したのだから……。
そして…千秋の祖母はロシア人に強姦されたと聞いていたが、それが日本兵に強姦されたとなれば話は別だ。
そうすると千秋の日本男児に向けられた恐ろしいまでの、冷淡な行動は理解できる。母静子から日本人の悪口の数々を散々聞かされて、復讐の鬼と化していても不思議ではない。
千秋の母静子は生粋のアイヌ人だが、10歳の時に母と一緒に船で北海道に渡った。そこで…ひょっとしたら海斗の曾祖父当時19歳の正治青年と顔を合わせていた可能性も十分考えられる。
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「過去・現在・未来」が1つになった時に真実が見えてくる。まず過去の出来事を掘り下げて行くしかない。
海斗の父が夜遅く帰宅するようになった事で、母とのいさかいが頻繫に有った。
という事は、20年前の話だから父が30歳くらい。ひょっとしてその写真の少女と付き合っていた。そこで母とのいさかいが絶えなくなった
だが、あの1枚の少女の写真は、どう見ても12歳から15歳ぐらいにしか見えなかった。これでは児童買春や淫行という犯罪になる。
20年前に叔父さんの家で見た写真の少女と、竹下通りで見かけた少女が瓜二つという事は年齢的に考えて母と娘と言う事も考えられる。。
あの時海斗は僅か3歳だったので、話していた内容は全く思い出せなかったが、記憶の断片に父とおじさんの言い争いの激しさだけはハッキリと耳に焼き付いている。
だが、最近ふっとある言葉だけを思い出した。
「妊娠させた!!!」という言葉だ。
海斗はおじさんの家で見た写真と竹下通りで会った少女が、余りにも酷似している事に多方面から考えてみた。
こうして…あの当時3歳の頃の事に思いを馳せた。そこで…幼過ぎたが、1つだけ思い出せたのだ。それはおじさんの目が怒りに震えて今にも爆発しそうな程大きな声で、何か怒鳴り散らしていたことを……。
そして遂に思い出したのだ。
「妊娠させた!!!」
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海斗とは全く関係のない千秋の母静子は生きていれば90歳くらいだ。そして…静子の母が強姦されたのは80年前だ。
海斗がたとえ20年前に父とおじさんが言い争っていたからと言っても、強姦事件と結びつけるのは流石に無理がある。
只海斗が竹下通りで会った少女と20年前に父とおじさんが、そのそっくりな少女の事で言い争っていた事は紛れもない真実だ。
そして…竹下通りで会った少女の写真を父に見せたところ父が凍り付くような冷酷な表情になったのだが、あんな穏やかな父をあのような鬼に代えてしまうには、どんな理由が隠されているのか?
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