第10話「冬の訪れとともに」

「冬の訪れとともに」


12月の初め、美咲は山田の家族との食事会に参加していた。

「いらっしゃい」

山田の母が優しく迎えてくれた。

「お邪魔します」

美咲は緊張しながらも、丁寧に挨拶をする。


「佐藤さん、お茶でもどうぞ」

「ありがとうございます」

リビングでお茶をいただきながら、山田の家族と話す。

「健一から、佐藤さんのことをよく聞いていますよ。編集部で働いているんですってね」

「はい、企画の立案などを担当しています」

「そうなの。健一も小さい頃から本が好きで、よく図書館に通っていたんですよ」


その時、山田の父がリビングに入ってきた。

「お父様、お邪魔します」

美咲は緊張しながらも、丁寧に挨拶をする。


「出版社で働いているんだってね」

「はい、編集部で企画の立案などを担当しています」

「ふむ。最近の出版業界は厳しいと聞くが、どうだね?」

「はい、確かに厳しい面もありますが、新しい企画を考えるのは楽しいです」

「そうか。健一も新しいプロジェクトに参加するそうだね」

「はい、来月から一緒に働くことになりました」


「ところで...」

山田の父が少し言葉を濁す。

「はい?」

「実は、来週の日曜日、もし良ければ...」

「はい?」

「家族でクリスマスパーティーを開くんですが、一緒に来ていただけませんか?」

「えっ...」

美咲の心臓が大きく跳ねる。


「もちろん、無理強いはしませんが...」

「...はい」

思わず即答してしまった自分に、少し照れくさくなる。

「ありがとうございます」

山田の父の目が優しく微笑む。


「これからも、よろしくお願いします」

「私こそ、よろしくお願いします」


夕方、二人は駅に向かう。

「今日はありがとう」

「いえ、私こそ...」

美咲は少し照れくさそうに頬を染める。


「来週のクリスマスパーティー、楽しみにしています」

「はい、私もです」

山田の目が優しく微笑む。


駅までの道のりで、二人は今日の出来事について語り合う。

「お父様、仕事熱心な方でしたね」

「ええ。佐藤さんのことを気に入ってくれたみたいです」

山田の言葉に、美咲は胸が熱くなる。


「仕事の話も、また聞かせてくれ」

「はい、喜んで」


駅に着くと、夕暮れの空が美しく染まっていた。

「また来週」

「はい、お気をつけて」


二人の影が、夕日に長く伸びていく。

美咲は、これからの日々に胸を膨らませながら、

今日という日を静かに終えていった。


(完)

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春風のささやき 佐々木文 @sasakifumi

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