第9話「秋の訪れとともに」

9月の初め、美咲は山田の実家を訪れていた。

「いらっしゃい」

山田の母が優しく迎えてくれた。

「お邪魔します」

美咲は緊張しながらも、丁寧に挨拶をする。


「佐藤さん、お茶でもどうぞ」

「ありがとうございます」

リビングでお茶をいただきながら、山田の母と話す。

「健一から、佐藤さんのことをよく聞いていますよ。出版社で働いているんですってね」

「はい、編集部で働いています」

「そうなの。健一も小さい頃から本が好きで、よく図書館に通っていたんですよ」

「えっ、そうなんですか」

美咲は少し驚きながらも、嬉しさを感じる。


「ところで...」

山田の母が少し言葉を濁す。

「はい?」

「実は、来週の日曜日、もし良ければ...」

「はい?」

「家族で食事会を開くんですが、一緒に来ていただけませんか?」

「えっ...」

美咲の心臓が大きく跳ねる。


「もちろん、無理強いはしませんが...」

「...はい」

思わず即答してしまった自分に、少し照れくさくなる。

「ありがとうございます」

山田の母の目が優しく微笑む。


「健一の好きな料理、作ってあげるつもりなんですよ」

「そうなんですか。楽しみです」

美咲は心からそう思う。


夕方、二人は駅に向かう。

「今日はありがとう」

「いえ、私こそ...」

美咲は少し照れくさそうに頬を染める。


「来週の日曜日、楽しみにしています」

「はい、私もです」

山田の目が優しく微笑む。


駅までの道のりで、二人は今日の出来事について語り合う。

「お母様、優しい方でしたね」

「ええ。佐藤さんのことを気に入ってくれたみたいです」

山田の言葉に、美咲は胸が熱くなる。


「これからも、よろしくお願いします」

「私こそ、よろしくお願いします」


駅に着くと、夕暮れの空が美しく染まっていた。

「また来週」

「はい、お気をつけて」


二人の影が、夕日に長く伸びていく。

美咲は、これからの日々に胸を膨らませながら、

今日という日を静かに終えていった。


(続く)

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