第5話「カフェでの告白」

「佐藤さん」

コーヒーカップを置きながら、山田が真剣な表情で切り出した。

「今日は仕事の話だけでなく、もっとあなたのことを知りたいと思って...」


その言葉に、美咲の心は大きく揺れ動いた。

仕事仲間としての関係が、確かに何かに変わろうとしている。

そんな予感に、期待と不安が入り混じる。


「私も...」

言葉を探す美咲の携帯が、突然鳴り出した。

「申し訳ありません」

画面を確認すると、母からのメッセージだった。


「大変申し訳ありません。母からの緊急の連絡で...」

「ご家族の用事なら、仕方ありませんね」

山田は理解を示しながらも、少し残念そうな表情を見せた。


「今日は本当に楽しかったです」

「私もです。また機会があれば...」

言葉を濁す山田の目には、確かな期待が込められていた。


急いで会計を済ませ、カフェを出る二人。

「では、また月曜日に」

「はい、お気をつけて」


駅までの帰り道、美咲は胸の高鳴りを感じながら歩いた。

途中で立ち止まり、空を見上げる。

今日という一日が、これからの日々に大きな意味を持つことを、

彼女は確かに予感していた。


母からのメッセージは、

実は祖母の具合が少し悪くなったという知らせだった。

慌ただしく別れることになってしまったが、

それでも今日の出来事は、美咲の心に深く刻まれていた。


その夜、美咲は日記を開いた。

ペンを走らせながら、彼女は静かに微笑んだ。

明日からまた、新しい何かが始まる。

そんな予感に胸を膨らませながら、彼女は今日という日を綴っていった。


翌朝、美咲は少し早めに目覚めた。

いつもより丁寧にメイクを施し、お気に入りのワンピースを選ぶ。

鏡の前で微笑む自分の姿に、昨日の記憶が蘇る。


「おはよう」

リビングで朝食を準備していた母に声をかける。

「あら、今日はお化粧もばっちりね」

母の言葉に、少し照れくさそうに頬を染める美咲。


「祖母の具合はどう?」

「ああ、心配ないわよ。昨日は少し熱が出ただけで、今朝には下がったって」

安堵の表情を浮かべる母を見て、美咲もほっと胸をなでおろした。


朝食を終え、いつもの電車に乗り込む。

車窓から見える景色は、どこか新鮮に映る。

昨日までと同じ道のりなのに、

すべてが違って見えるような不思議な感覚。


オフィスに着くと、まだ人はまばら。

デスクに向かい、今日の予定を確認する。

午後に山田との打ち合わせが入っている。

その時間を見つめながら、

昨日のカフェでの会話を思い出していた。


「きっと、これからも素敵な日々が続いていく」

そう心の中でつぶやきながら、

美咲は新しい一日の始まりを迎えていた。


(続く)

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