第4話「文学フェスの出会い」

土曜日の朝、美咲は普段より念入りに身支度を整えていた。

「これでいいかな...」

鏡の前で何度も確認する自分に、少し照れくさい気持ちになる。


待ち合わせ場所の駅前に着くと、山田の姿が既に見えた。

いつもとは違うカジュアルな装いの彼を見て、美咲の心臓が小さく躍る。


「お待たせしませんでした?」

「いえ、私も今来たところです」

互いに微笑み合う二人の間に、心地よい緊張が漂う。


文学フェスの会場は、既に大勢の人で賑わっていた。

「ここに、先日お話した作家さんのブースがあるんです」

山田が案内する場所には、若い女性たちが熱心に本を手に取っていた。


「やはり注目されているんですね」

「ええ。佐藤さんの目が確かだったということです」

さりげない褒め言葉に、美咲は頬が熱くなるのを感じた。


会場を回りながら、二人は仕事の話だけでなく、

それぞれの読書遍歴や好きな作家について語り合った。


「実は高校生の頃から、この作家さんのファンだったんです」

山田が少年のような目の輝きで語る姿に、

美咲は今まで知らなかった彼の一面を見たような気がした。


「お腹が空きませんか?」

気がつけば、昼時を回っていた。

「実は、この近くに素敵なカフェがあるんです」

「是非行ってみたいです」


仕事を離れた会話は、不思議と自然に弾んでいく。

窓際の席から差し込む陽の光が、

二人の間に心地よい空気を作り出していた。


(続く)

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