第3話「雨上がりの約束」

梅雨の晴れ間、美咲は企画書を見直しながら、先週のランチミーティングを思い出していた。


「この作家さんの作品は、若い女性に特に人気が出そうですね」

山田の真剣な表情を見ながら、美咲は嬉しさを感じていた。

「はい、SNSでの反響も期待できると思います」

「そうですね。では、次回の販促会議でその点も含めて提案させていただきます」


打ち合わせは予定の時間を超えて続き、気がつけば午後2時を回っていた。

「あ、もうこんな時間...」

「申し訳ありません。つい熱が入ってしまって」

山田が申し訳なさそうに笑う。

「いえ、とても参考になりました」


エレベーターに乗り込むとき、山田が不意に話しかけてきた。

「佐藤さん、今度の土曜日、もし良ければ...」


その時、携帯電話が鳴り、山田は慌てて電話に出た。

「申し訳ありません。緊急の案件が...」

「大丈夫ですよ。お急ぎください」


それから一週間。言いかけた言葉の続きが気になりながらも、美咲は平常を装って仕事に励んでいた。


「ねぇ、山田さん、土曜日何て言おうとしたと思う?」

「もう、里奈ったら」

「気になるでしょう?」


確かに気になる。でも、仕事相手だから...そう自分に言い聞かせる美咲だった。


そんなある雨の朝、美咲が傘を探してカバンをかき回していると、

「佐藤さん、よかったら相合傘しませんか?」

振り返ると、山田が傘を差し出していた。


「この前は途中で失礼してしまって。土曜日のことなんですが...」

美咲の心臓が大きく跳ねる。

「来週開催される文学フェスに、一緒に行っていただけませんか?」

「文学フェス...ですか?」

「はい。仕事の参考にもなりますし...」

少し言葉を濁す山田の横顔に、どこか緊張した様子が見える。

「もちろん、プライベートな時間として...お誘いさせていただきたいんですが」


雨音が二人の間の沈黙を優しく埋めていく。

「...喜んで」

美咲の答えに、山田の表情が明るく輝いた。


梅雨の合間の晴れ間のように、二人の関係にも新しい光が差し込もうとしていた。


(続く)

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