第2話「初夏の予感」

梅雨入り前の爽やかな風が吹く5月末、美咲は企画会議の資料を抱えて会議室に向かっていた。今日は彼女が担当する新シリーズの企画についての重要な会議だ。


「佐藤さん、おはようございます」

後ろから聞こえた声に振り返ると、山田が颯爽と歩いてきていた。

「あ、おはようございます」

「今日の企画会議、僕も参加させていただきます。営業の立場から意見を述べさせてください」

「ぜひお願いします」


会議室では、美咲の提案する若手作家の新シリーズについて、白熱した議論が交わされた。営業面での課題を指摘する声もあったが、山田が的確なマーケティング戦略を提案し、企画は概ね好評だった。


「さすが佐藤さんですね。企画の構成がしっかりしていました」

会議後、山田からの言葉に美咲の心臓が高鳴る。

「いえ、山田さんのフォローのおかげです」

「今度、詳しい販促案について相談させてください。よければ、お昼でもご一緒しませんか?」


思いがけない誘いに、美咲は言葉に詰まる。そんな彼女の様子に、山田が優しく微笑んだ。

「来週の火曜日、どうですか?」

「は、はい。ありがとうございます」


会議室を出た美咲は、すぐに田中の元へ向かった。

「里奈、大変!山田さんと...」

「え!ランチデート!?」

田中の大きな声に、周囲の視線が集まる。

「違うの!打ち合わせよ、打ち合わせ」

慌てて否定する美咲だったが、頬は薄く染まっていた。


窓の外では、新緑が初夏の日差しに輝いていた。仕事も恋も、少しずつ、でも着実に進展していく予感が、美咲の心を弾ませていた。


(続く)

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