第15話 「竜神の味噌汁 〜水の流れに抗うな〜」
風間涼真は、逆境の中にいた。
父の会社が倒産し、大学進学を諦め、アルバイトを掛け持ちして母と弟を支える毎日。夢も希望も、川下に流される落ち葉のように遠のいていた。
「流されてたまるか……俺は、俺の人生を取り戻す」
そんな夜、雨に打たれながらたどり着いたのが、神味堂だった。
「抗いし者よ、竜神の加護を啜るがよい」
差し出された味噌汁は、澄んだ出汁の中に渦を巻くような模様が浮かび、どこか神聖な雰囲気をまとっていた。
一口啜った瞬間、涼真の内から力が湧いた。どんな困難にも挑みかかれる、怒涛のような意志が宿った。
彼は躊躇なく起業した。倒産した父の跡を継ぎ、再び建築設計の道へ。
寝る間も惜しまず働き、取引先にも強気に交渉。周囲が止めても耳を貸さず、ひたすら前に進んだ。
だが、成果は出なかった。
企画は空回りし、仲間は去り、融資も打ち切られた。
「なぜだ……俺は、誰よりも努力してるのに!」
再び神味堂を訪れると、竜神は静かに言った。
「流れを読み、身を委ねることもまた、力である」
涼真はその言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
だが、ある日川辺を歩いていたとき、小さな魚が流れに逆らわず、岩陰を利用して泳ぐ姿を見て、はっとした。
「逆らうんじゃない。乗るんだ……」
彼はやり方を変えた。人に頼り、周囲と調和し、チャンスを待つことを覚えた。
数年後、小さな設計事務所は地元で評判を呼び、彼の名は次第に知られるようになった。
「水は流れる。止まらない。けれど、だからこそ導かれる場所がある」
竜神の味噌汁は、今も彼の中で静かに渦を巻いている──力ではなく、流れを知る叡智として。
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