第11話 「布袋尊の味噌汁 〜笑う門には福来たる〜」
売れない漫才コンビ「ヒラメとカレイ」は、今日も閑古鳥の鳴くライブハウスでネタを披露していた。
ボケ担当の大地は、いつも客の反応を気にしていた。相方の凪は「お前の顔が面白いだけでウケてんだよ」と笑っていたが、それが悔しかった。
「本物の笑いがほしい……心から笑ってもらいたい……」
帰り道、ふらりと立ち寄った神味堂。
「お前の笑いに、神の加護を授けよう。布袋尊の味噌汁だ」
湯気から甘い豆の香りが漂い、湯の中ではまん丸の餅が浮いていた。
一口飲んだ瞬間、大地の頭の中に笑いの種がどっと芽吹いた。
その日以降、漫才で何を言っても爆笑が巻き起こるようになった。
「はいどーもー、ヒラメとカレイでーす!」の一言で拍手喝采。
ネタが始まる前から観客は涙を流して笑っていた。
テレビ出演、YouTube再生数1000万回、ライブチケット即完売。
すべてが順風満帆だった。
だが、ある日。
ふと、客席を見渡すと、誰もネタを聞いていなかった。
笑っている。けれど、心がそこにない。
「……俺たち、何やってんだ?」
舞台袖で大地がつぶやくと、凪が静かに言った。
「お前の笑い、もう俺に届いてない」
大地は再び神味堂を訪れた。
「笑いは、神の力で作るものではない。人と人が響き合ってこそ」
布袋尊の味噌汁の余韻を思い返しながら、大地は自らの原点を探る旅に出た。
路上ライブから始め、子ども病院、被災地の仮設住宅、高齢者施設へ。
そこには、心からの笑顔があった。
数年後、ヒラメとカレイは再結成された。
彼らの新ネタは、泣きながら笑うような、優しい物語だった。
ラストのセリフ。
「笑ってくれて、ありがとう!」
それは、大地が神からもらった笑いを、人に返した瞬間だった。
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