第3話 海賊が現れました

「海賊だ!皆さん!船内へ逃げてください!!!」


 船員さんのその号令を聞き、私たちは急いで自分の部屋へ逃げ帰りました。途中、窓から外の様子を見ると、遠くには髑髏のマークが書かれた帆の海賊船が見えます。この世界でも海賊はこれが一般的なんですかね?


「師匠!早く来るっす!」

「あ、うん!」


 そんな場合じゃありませんでした。リリナに言われ、私も後を追います。


「この海域って海賊よく出るの?」

「よくって程じゃないっすけど……まあ噂は聞くっすね。だから船員も戦う準備はしているっすから、減ったって話っすけど」


 確かに、船員さん達は武器を手にして、船外へ駆けていく人もいます。槍とか弓とかです。返り討ちという事でしょうか。

 部屋に着きました。運が良いというか悪いというか、私たちの部屋からは海賊船が来る方向が良く見えます。私はこっそりと窓から目だけ出して様子を見ます。

 乗っている船も大急ぎで海賊船から逃げますが、海賊船もかなりの速さです。小型だから風を受けやすいっていう事もあると思うんですが、それだけじゃ無さそうです。


「あの海賊、風魔法の使い手がいるね……!」

「風魔法?」


 私の隣に並んでいたアメインが言います。


「風魔法を使うと自分たちの船にだけ風を当てれるから、必然的に速度が出るんだよ」


 なんですかそれ。海上じゃチートじゃないですか!みるみるうちに船が近づいてきます。このままだとこっちに来ちゃいそうです。


「おい!戦える奴は加勢してくれ!」


 船員さん達が廊下で叫びながら駆け回っています。


「ミナモ様、行った方がよろしいでしょうか?」


 ……正直、ナギには近くにいてもらいたい気持ちの方が大きいんだけど、加勢してもらった方が人の助けにはなるよね。


「うん、頑張ってきて!でも殺しちゃだめだよ!」

「承知しました」


 そう言ったナギは一瞬で姿を消します。まあ、大丈夫だよね。ナギ強いし。


「ボクも行ってくる!」


 アメインも扉を開けて出ていきます。無事で済めばいいんですけど……

 窓から見ると、船員さん達の他にも、お客さんから加勢した人の姿もちらほら見えます。皆さん冒険者といったいで立ちで、強そうな方が揃っています。


「ヒャッハー!俺達が来たぜ!金目の物をよこしな!!」


 海賊船からロープが投げ込まれ、ターザンのように数人の海賊が乗り込んできます。開戦です。


「大丈夫かな二人とも……」

「大丈夫っすよ。二人ともそんじょそこらの奴らには負けないくらい強いっすから」


 確かに、暗殺者のナギ、ケットシーのアメイン、二人とも強いですが……それでもやっぱり心配です。

 私はぎゅっと胸の前で手を握りしめて窓の外を見つめます。海賊たちの荒々しい声が船の上に響き渡り、船員さんや加勢している冒険者たちの怒号や金属音が交じり合って混沌としてきました。

 窓の外を見る限りでは、海賊たちも数は多くありません。敵も味方もかなりの手練れのようですが、ちょっとずつこちら側が押しているように見えます。海賊船に逃げ帰る人達も見え始めてきました。ナギやアメインがどこにいるかも視界の隅に探しますが、人が入り乱れているせいでよく見えません。


「早く終わってほしいなぁ……」


 そう小さくつぶやいた時でした。

 ドオォン!!

 突然、乱暴な音と共に部屋の扉が開きました。


「おお!こんな所にもおるやないかい!」


 海賊の一人が獰猛な笑みを浮かべながら、ドスドスと音を立てて部屋の中に踏み込んできます。その男は体格こそ痩せていますが、腕には深い傷跡が幾つも刻まれています。片目に眼帯をしていて、もう片方の目には冷たい獣のような光が宿っていて、まるで毒蛇のような威圧感があります。口調はおどけているようですが、それは全て演技に思えます。


「……っ!」


 思わず息を呑み、後ずさりする私。心臓がうるさいほど早鐘を打っています。喉が一気に乾き、震えを隠そうとしても隠しきれませんでした。リリナが私を庇うように前に出ます。


「来るんじゃないっす!」


 しかし海賊はその警告をまったく意に介さず、余裕の笑みを浮かべたまま近づいてきました。


「そう言われてもわしらはこれがお仕事なんや。嬢ちゃん達を傷つけたくもない。さっさと金目のもんをくれや」


 その男が一歩踏み出すたびに、床が軋むような音を立てます。部屋の空気が重苦しくなってきました。リリナの身体が小刻みに震えているのが背中越しに伝わってきます。


「金目の物なんて持ってないっす!さっさと出ていくっす!」


 リリナが必死に叫ぶと、その男はナイフを構えたまま頭をポリポリと掻きます。


「……参ったのう。わしも『鑑定』くらいは使えるんやけど……」


 そこで区切るように言葉を止めた男は、一段と低い言葉で続けます。


「そっちの嬢ちゃんが持っている鞄、相当なもんやないか」

「……!」


 バレた……!私はとっさに何か錬金術を使うことを考えましたが、頭がパニックでうまく働きません。


「外の……」

「あ?」

「外の仲間たちは皆さん撤退されてますよ?あなたは逃げなくていいんですか?」


 時間を稼ぎたい。その一心で私は海賊に話しかけます。


「あー……ええんや。元からこっちが本命や。向こうで戦っている間にわしが風魔法で裏に回り、盗んでまた帰る……最初から正面突破なんて考えてへん。何人か捕まったとしても明日生きる為、みな承知しているわ」


 なるほど、賢いかもしれません。


「そこまでしてまでなぜ海賊を?」

「おーよくぞ聞いてくれたな。そこには涙がちょちょぎれる話があんねん」

「?」

「わしらはみな冒険者崩れや。まあ追放、ってやつや。とある奴の策謀でな」

「……じゃあ、こんな生き方、本当はしたくないですよね……?」


  私の口から自然とそんな言葉がこぼれました。盗賊だって元は普通の人間。それに、そんな事情があって……そう考えると胸が苦しくなります。


「……どうやら話しすぎたようや。それ渡さんかったらほんとに痛い目にあってもらうで?」


 あれ……地雷を踏んでしまいました?反応的に正解な気もしますが……

 船のきしむ音がします。それがどんどん近づいてくるにしたがって、私の心臓の音も大きくなっていく気がしています。


「リリナ、後ろに」

「でも師匠!」


 小声で話します。特に策は無いですが、リリナもこのままだと危ないです。


「美しい師弟関係やないか。おっちゃん泣いてまうわ」

「でしたら見逃してくれますか?」

「わしも君ほどの年齢の子供を養う為や、我慢してくれや!」


 ……っ!

 覚悟を決め、目を瞑ります。

 ……何も、無い?恐る恐る目を開けます。すると、ちょうどバタンと倒れる海賊と、その後ろにはナギとアメインの二人が立っていました。


「二人とも!」

「お怪我は無いですか?」

「あっちは片付いたからね!縛っちゃお!」


 窓の外を見ると確かに何人かの海賊が縛られているのが見えます。二人ともけがは無さそうだし、良かった……

—―

 縛られた海賊五人が甲板の隅で渋い顔をしています。周りの船員たちはがやがやと、「どうするこいつら」「いつもどおり王都の騎士に突き出すしかねえだろ」等と喋っています。

 お客さんも野次馬をしに来ています。私は少し緊張しながら、人をかき分け、彼らの前に出ました。


「おう、さっきの嬢ちゃんやないかい。油断したでわしも」


 うすら笑いを浮かべる先ほどの海賊。逃げられた人たちがいるというだけで、自分が捕まったことに対しては危機感を持っていないみたいです。

 私はそんな人達の前で大きく息を吸います。


「改めまして、私はミナモといいます。王都へ向かう途中のお菓子屋さんです」


 海賊たちが顔を見合わせ、不思議そうな表情を浮かべます。


「お菓子屋?」

「はい、王都へ向かう予定です」


 海賊のリーダー格の男が眉間に皺を寄せながら私を見ます。


「ほう、そういや祭りの時期やな……それがわしらと何の関係があるんや?」

「あなたたちは船の操舵技術が非常に高いです。風魔法を使える方もいますし、戦闘能力も……まあ、油断や手加減さえしなければ相当なものですよね?」

「……それで?」


 私は胸を張り、真っ直ぐに彼らを見つめました。


「私があなたたちを雇います」

「はぁ?」


 海賊たち、それに周りの人たちからも驚きの声が出ます。まあそうでしょうね。こんな小娘がこんな事を言うんですもん。私でもびっくりすると思います。


「先ほどあなたが言った通り、これから私達は王都のお祭りに参加します。今はまだ知名度はそこそこですが、きっと、いや絶対人気が出ます。そうしたら王都への直通便として船を出してもらいたいんです」

「……それで?」

「はい、ついでに王都からの食材の入荷や、漁の手伝いなどもお願いしたいと思っています」

「な……!?」


 海賊たちが驚いた顔でこちらを凝視します。


「ちょ、ちょっと待ってミナモ!」


 後ろからアメインが慌てて私に声を掛けます。


「人気が出なかった場合はどうするつもりなの?」

「……その時は、その時でまた考えます」


 正直そこまでは考えてないです。全て衝動的な行動です。


「リリナ、ちなみに王都が上手くいかなかったらどうなの?」 


 私が小声でリリナに問いかけると、彼女は難しい顔をして少し考え込みました。


「まあ、王都次第っすけど……正直リスクはあるっす。でも、もし師匠のお店が人気出るなら、それなりに利益が出る可能性はあるっす。船での直通便っていうのは他の店との差別化にもなるし……」


 プラスになる面があるというなら全然構いません。使える人材は使います。もっと言うならフロリラの町への輸送にもこの方たちを使いたいところです。


「どうですか?」


 私が再び海賊たちに向き直ると、リーダー格の男はため息混じりに言いました。


「まあええで。わしらもまともな仕事があるならそれに越したことはない。ただの海賊稼業もええ加減疲れとったからな」

「本当ですか?ありがとうございます!」


 私が海賊に向かって堂々と提案すると、周囲で聞いていた船員さんが慌てて声をかけてきます。


「ちょ、ちょっと待ってください!それをやるには運輸ギルドへの登録が必要ですよ?」

「……そうなんですか?」


 思わぬ言葉に、私は目が点になります。


「運輸ギルドに?」

「ええ、海上で物や人を運ぶ仕事をするなら、運輸ギルドへの登録は義務なんです」


 私はがっくりと肩を落としてしまいました。


「はぁ……また登録ギルドが増える……」

「まあでも、これでわしらの未来もちょっとは明るくなったかもしれん。嬢ちゃん、恩に着るで」


 海賊のリーダーが軽く笑って言いました。その表情には少しだけ安堵の色が浮かんでいます。


「言ってなかったな。わしの名前はロゴーマや。よろしく頼むで」

「こちらこそよろしくお願いします!」


 思いがけない形で仲間?というか従業員?いや、協力者でしょうか?……まあともかく何かが増えました。あとは王都次第……うーん、何事もなく人気が出れば良いのですが。

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