第4話 王都に着きました。

 さて、海賊事件はありましたが、無事王都に到着をしました。港には巨大な帆船が何隻も並び、それぞれが荷降ろしや積み込みで忙しく動き回っています。船員たちが威勢よく掛け声をかけ合いながら、大きな木箱や布袋を次々に運び出していました。荷物の中には、見たこともないような色鮮やかな果物や珍しい生き物が入った籠もあり、見ているだけでわくわくします。


「おいおい、わしらはこのまま護送っちゅー訳かい」


 護送車に乗せられた海賊達が少し不満げな感じに言います。


「まあ、まだ扱いは海賊ですし」

「そりゃそうやけどな。良い知らせ待っとるで~」


 手を振られたので、私も振り返します。ほんと、変な縁が出来たものです。


「さて、と。もうこれでめちゃくちゃ人気になるしか無くなったね」

「あれ~、それは元からじゃないっすか?」


 にへらと笑いながら言うリリナ。「それもそうだね」と私も笑いながら返しました。

 王都へは馬車で向かうみたいです。港にはもう何台もの馬車が列を作って待機しています。荷物を手際よく積み込む人や、乗客を誘導する人たちの声が飛び交い、夜が近づいているのに活気が溢れています。


「うわぁ……馬車、すごくたくさんいるね。これ、どれに乗るんだろう?」

「商業ギルドから手配してくれた馬車が来てるはずっすけど……」


 リリナが首を伸ばして馬車の列を眺めています。あちこち探しているうちに、辺境伯の紋章が入った立派な馬車を見つけました。御者さんが『マジカルシュガー御一行』と書かれた板を持っているので、恐らくは私たちの乗る馬車なんでしょうけど。


「あれ……かな?」


 ちょっと豪華すぎる馬車にたじろいでしまいました。周りの馬車に比べて豪華すぎます。


「っぽいっすね。さすが辺境伯付……」


 リリナは感心したように私を見ます。ま、まあ、確かにこれは私の立場のおかげ……ですよね。アメインもぷにちゃんを抱えながら、ぴょんぴょんと楽しそうに飛び跳ねています。


「早く乗ろうよ。こんな馬車なんて、初めてかも!」


 アメインに続いて、私たちは馬車に乗り込みました。馬車の中は思ったより広くて、柔らかなクッションが敷かれていて快適です。


「ナギもおいで」

「拙者は馬車の上で警戒していた方が良いのでは?」

「……逆に目立つかな」


 しぶしぶ同乗してきます。四人乗っても広々とした馬車の中は、とても乗り心地が良いです。こういうのがまさに『利用できるものは利用した方が良い』というやつでしょうか。


「わあ、座り心地も良さそうっす!さすが王都行きっすね~」

「ほんとだね。王都までゆっくりできそう」


 席に座りながら私が言うと、リリナはすぐに気持ち良さそうな顔をしてクッションに身を預けます。アメインとナギは窓から外を眺めて、興味津々といった感じです。

 馬車はガタンと揺れながらゆっくり動き出しました。港から出るとすぐに道は暗くなり、窓の外には街の灯りがぽつぽつと見えるだけになります。揺れの心地よさに、みんな少しずつ静かになっていきました。


「王都ってどんなところなんだろう……楽しみだね」

「そうっすね……でもその前に、少し眠っちゃいそうっす……」


 リリナはふわぁ、とあくびを一つして、またにへらと笑いました。その表情につられて私も笑い返しながら、暗い景色をぼんやりと眺めていました。もうアメインは寝ています。ナギは……さすが護衛。窓の外を眺めています。警戒しているのでしょうか。王都が見えてきたころにはもう夜です。

 夜ですが……王都に足を踏み入れた瞬間、圧倒されるような活気と熱気が押し寄せてきました。

 馬車を降り、一歩踏み出すだけで目を奪われます。


「すごいね、これが王都かぁ……」


 私は思わず声を漏らします。フロリラの町もそれなりに賑やかではありましたが、こちらの方が遥かに規模が大きく、活気に満ちています。海の香りに混じって、様々な香辛料や食べ物の匂いが漂ってきます。

 道沿いには露店が軒を連ね、商人たちが声を張り上げて客を呼び込んでいました。


「安いよ、安いよ!珍しい東方のスパイスが揃ってるよ!」

「出来立てのパン、いかがかね?王都で一番の美味しさだよ!」


 露店の間をすり抜けながら進むと、騎士団らしき人々が隊列を組んで巡回しているのが見えました。銀色の鎧が月の光を反射してキラキラと輝いています。彼らが通り過ぎると、人混みがさっと道を空けます。


「騎士団、かっこいいね……」


 アメインが目を輝かせて言いました。その隣ではリリナが人混みに圧倒されて少し気圧されたような表情をしています。


「すごいっすけど……ちょっと、人が多すぎっすね……」

 リリナは小さく苦笑いを浮かべながら辺りを見回しました。確かに、視界いっぱいに人が溢れていて、ゆっくり歩くのも難しいほどです。


「本当に、はぐれないようにしないと……」

「皆様、拙者の近くから離れないように」


 今回ばかりは背の高いナギの周りにいた方が良いかもしれないです。

 私は改めて周りを見渡しました。石畳の道はよく整備されていて、路地の奥にまで多くの店が連なっています。道の両側には立派な石造りの建物が立ち並び、それぞれが美しい装飾で彩られていました。窓からは花が飾られたバルコニーが飛び出し、華やかさを演出しています。

 通りの中心には大道芸人が集まり、ジャグリングや手品を披露しては人々の歓声を浴びていました。その脇では画家がイーゼルを立て、風景を描いています。


「すごいね……王都は本当に色んな人がいるんだね」


 アメインがキョロキョロと周囲を見渡しながら感心しています。街角のカフェでは優雅な服を着た紳士淑女たちが紅茶を楽しんでおり、その姿はフロリラでは見られないほど洗練されています。


「そうだね……なんだか自分が田舎者みたいに思えてきちゃった」


 私が苦笑すると、ナギが穏やかな微笑みを浮かべました。


「大丈夫ですよ、ミナモ様。すぐに慣れますよ」


 彼女の静かな言葉に、少しだけ気持ちが落ち着きます。「拙者もあまり慣れてはないですが」と続いた言葉に笑っちゃいましたけど。


「それにしても、王都のお祭りは本当に盛大だね。この人混みもそのせい?」


 私の問いかけに、アメインは首を傾げました。


「うーん?多分?お祭りの期間はひと月ほど続くし、周辺の町や村からもたくさん人が集まるって聞いてるしね」


 ふーん、そうなんだ。日本の祇園祭?も長いって何かで見たことがあります。それに近いのでしょうね。

 私たちはさらに街を進み、巨大な噴水が中央に設置された広場に辿り着きました。噴水の周囲には多くの人が集まり、音楽家たちが奏でる優雅な音色に耳を傾けています。


「素敵……」


 アメインがうっとりとした表情で見つめる先では、子どもたちが水辺で遊んでいました。その姿を眺めながら、ナギが柔らかく声をかけてくれました。


「さて、そろそろ宿に向かいましょうか。ゆっくり休む時間も必要ですからね」


 ナギの言葉に皆が頷きました。船旅の疲れもあり、早く宿で一息つきたいところです。

 宿の場所を確認しながら歩き出すと、私は改めて王都の規模と美しさに圧倒されました。

 この先には、一体どんなことが待ち受けているのだろう。そんな期待と不安が入り混じった気持ちを抱えながら、私は皆と一緒に王都の賑やかな街を進んでいくと—―


「もう!しつこいのよ!!」


 突然、人混みの中から声が聞こえました。その声に驚いて振り返ると、こちらに向かって必死に走ってくる女性の姿がありました。

 美しい赤い、露出の多いドレス――顔だけはフードで覆われており見えませんが、そんな様子の若い女性がこちらに一目散に駆けてきます。その華やかな姿とは裏腹に表情はひどく怒っています。その後ろから、屈強な男たちが険しい顔つきで追いかけてきていました。


「なんだろう、あれ……」

「危ないっすよ、師匠、離れましょう!」


 リリナが私の腕を引いてくれますが、間に合いませんでした。その女性は私の手を掴み、力強く引き寄せました。


「あなたたち、一般人は巻き込みたくないわよね?」


 フードから一瞬見えた彼女の瞳には、強い意志のようなものが宿っていました。状況が理解できないまま、私は呆然とその女性を見つめます。


「な、何を言って――」

「悪いけど、一緒に来てもらうわ」


 彼女はそう言って私の腕をしっかり掴むと、強引に引っ張りながら路地裏へ駆け込みました。


「師匠!?」

「ミナモ様!」


 仲間たちの叫び声が遠ざかっていきます。私は訳が分からずに必死に走るしかありません。


「い、一体何がどうなっているんですか……!」

「説明は後よ!今は逃げることだけ考えて!」


 彼女は冷静な口調でそう言い放ち、さらに細い路地を曲がります。背後から男たちの怒号が聞こえています。


「見失うな!逃がすな!」

――

 どれだけ走ったでしょうか。足がもつれそうになりながらも、必死についていきます。やがて、人通りの少ない小さな広場のような場所にたどり着きました。


「はぁ……はぁ……少しだけ休めるわね」


 女性が壁にもたれて息を整えています。私もその場に座り込み、肩で息をしました。


「あの……説明してくれませんか?私、ただの一般人なんですけど……」


 彼女はフードをあげながら私を見て、少し申し訳なさそうな顔をしました。

 わ、奇麗な人……赤いロングヘアをした女性は、息を飲むほどに奇麗な人でした。


「ごめんなさいね。でも、巻き込むつもりはなかったの。ただ、あの男たちには捕まりたくなかったのよ」

「あなたは—―あの人たちは、一体……?」


 私の問いに彼女は短く息を吐き、苦々しい表情で答えました。


「あら、私の顔を見てもわからないかしら?」

「え、ご、ごめんなさい……」

「良いのよ。この王都に住んでない者ならそうなのかしらね。でもあなたのおかげで逃げられそうだわ。ここから別の場所に向かうわよ」


 彼女は立ち上がると再び私の手を取りました。抵抗する間もなく、再び私は彼女に引っ張られてしまいました。

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