第2話 そう、いつだって男はやさしい

そう。そうなのだ。いつの世も。


いつの時代も男はやさしい。


そして女はいつの時代でも怖い。


この言葉は強い共感を生んで、僕の心に焼きついている。


しかし、この言葉は僕なりの経験に照らし合わせるとさらに、


女はずるい、


さらに計算高い、


そのうえワケがわからない、というのが続く。


そう、あれは僕が京都に住みはじめてしばらくたったあとのある日のことだった。そのとき僕の彼女だったのは私立女子校のいわゆる女子高生だったのである


その日、僕はバーのバイトだった。当時はまだ携帯電話もPHSも普及していなかったし、持っていたのはポケットベルだった。


バイトが終わって、ベルをチェックすると、そこには「キンキュウTELシテ」と入っていた。しかも3つもである。タイムスタンプを見ると、7時くらいから10分おきに入っていた。


バイトは6時から12時なので、連絡を受けるのも電話するのもムリなのは明らかだった。とりあえず、返事のベルを入れておいたが、寝てしまったようで返事はなかった。まあ、バイトが終わった今、時刻は夜中の一時である。寝ていてもしかたない。


次の朝、もう一回ベルを入れてみた。夕方に迎えにいって一緒にビデオを観る約束になっていたから、何か用事でも入ったのかな、と思ったのだ。


しかし、返事がない。お昼頃もう一回入れてみた。返事は返ってきたのだが、「モウイイ!」としか返ってこなかった。


どうやら僕が知らないところで彼女を怒らせてしまったらしい。何を怒っているんだろう? と思い巡らしても心あたりはまったくない。


夕方になってしまった。クルマで迎えに行く。


出てきたのはどう見てもふてくされてる顔だった。


僕「どうしたの?」


彼女「なんでもない!」


その強い語調はどうとらえても“なにかある”かんじだ。


僕「ん~、なにおこってんだよぉ?」


彼女「別におこってないもん」


僕「だって昨日はバイトだったんだから、7時とかにベル入れられても電話できないよ。なにがあったの?」


彼女「…●ーくんが悪い」


僕「はい?」(←敬語)


彼女「ぜんぶ●ーくんが悪いの!」


僕「…あ、ごめん! はい、ほんとにごめんなさい。…で、なにが?」


理由もわからずになぜ先に謝ってしまうのか。しかもなぜ敬語なのか。


そのあとの彼女の話をまとめるとこうである。


・彼女は昨日、7時半から10時まで塾だった。


・彼女の家のビデオデッキが故障してしまった。


・毎週9時からのドラマはビデオに録って帰宅後に観ていた。


・僕にビデオを録画させようとしたのだが、不在だった。


・結局そのドラマを見逃した。


だから怒っているらしい。



え? おれが悪いの???


僕「とにかく謝るからさ、ね、機嫌直してよ。ほんとにごめんね」(←卑屈!!)



彼女 「ほんとに反省してる?」


僕「してます。もうほんとに、ね、めっちゃ反省!ほらこのとおり!!」


彼女「…だったらネックレス買って」


僕「…はい?」


それ、関係ないじゃん。


彼女「ネックレス欲しいの!買って!!」


僕「え? ネックレス? だって、ビデオって…」


彼女「いやなの? 反省してないの? もういいよ!●ーくんキライ!!」


…。


そうしてクルマは方向を変えて、僕のマンションではなく、繁華街のほうへ向かうのであった。


僕は次の日、琵琶湖にいい風が吹くことが予想されたのでウィンドサーフィンに行く予定だったが、ガソリン代がなかったので、家にいることにした。


やたらと天気のいい春の一日だった。

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