第2話 俺の息子
この世界は、魔術の世界だ。
そんな世界でハッピーエンドを迎えるには
巨悪を捩じ伏せる圧倒的な力がいる。
だから、5歳の時から2年間
毎日鍛錬は欠かさなかった。
(もう7歳…か)
魔導書でも読もうと思っていると
「シオン!父さんと鍛錬しに行かないか?」
父さんに声を掛けられる。
(暇なのか?父さん…)
仕事がない日は毎日のように
父さんと鍛錬している気がする…。
(こっちとしては都合が良いけど)
「分かった、行こう父さん」
自分で言うのもなんだが、
俺には才能があった…。
だが、天才なだけでは巨悪には叶わない。
『魔王 エルドラス』
今現在は封印されているが、
その封印は数年後解除される。
そして、魔王との戦いで主人公は死ぬ。
(敵側が強過ぎる)
それもそのはず、だってバッドエンドを
想定して作られた物語なのだから。
主人公より強くなければ、
そんなことを考えているうちに、
いつの間にか森に着いていた。
「来い!シオン!」
そんな父さんの声を合図に、戦闘は始まる。
『
自分の手から複数の火球を展開し、
父さんに向かって放つ。
だが、父さんは放たれた火球を全て斬り落とし、
俺との距離を一気に詰めてくる。
「知ってたよ」
「…っ!」
全て斬り落とされるのは想定済み
だから父さんから見えないように
少しだけ手元に火球を残しておいた。
(想定より距離は詰められた…けど!)
むしろ、この近さなら、避けれない!
ゼロ距離で、俺は火球を放った。
『
火球は火の盾に相殺され、
辺りは煙で包まれる。
(ウッソだろマジか)
躊躇なく当てに行ったのに…!
初めて見せた攻撃だったのに平然と防がれた…
「戦闘中なのに考え事とは、余裕だな?」
(やべぇ、後ろ!)
動揺している間に、背後に回られていた。
次の瞬間、木刀が顔の寸前まで迫ってきていて
『
咄嗟に魔術で防御するが、
水で生成した盾はすぐに破壊された。
(…後手になる)
守っているだけだと、ジリ貧だ。
こっちの魔力が足りなくなって負ける
(やってみる…か)
試したことはあっても、成功したことは無い
ぶっつけ本番。ギャンブルだ。
『
「っ!?」
流石の父さんでも予想外だったのか
魔術での防御も間に合わず、
火の弾丸での攻撃をモロに食らう。
「やるなぁシオン!二重詠唱とは!」
「たまたまだけどね」
(成功したのは良かった…良かったけど)
無傷かぁ…。
防御出来ずに攻撃を食らったというのに、
父さんはピンピンしていた。
二重詠唱、同時に魔術を発動させる技術
まぁ大人の魔術師ならそこまで珍しくもない。
「よし、もう一度だ!」
「いや、流石に疲れたよ…」
体はまだまだ子供だ。
流石に体が追いつかない。
「俺としては、剣術もやって欲しいのだが…」
「取り敢えず魔術から」
「むぅ…」
父さんは納得のいかないような顔をしながら、
不満の声をこぼした。
(幼少期は魔術をやらない理由はないからな)
この世界を作ったのが俺ということは、
もちろんこの世界の設定を熟知している。
幼少期から魔術を使っていると、
魔力量が上がる、というテンプレ設定が
この世界にもあるので、使わない理由がない。
「なぁ、シオン。」
父さんはいつにもなく真面目な声で俺の名を呼ぶ。
「…どうしたの?」
「お前は、何故そこまで力を求める」
「…」
「力を手にして、その先に何を求める」
「守りたいものが、あるんだ」
俺は父さんのその問いに迷わず答える。
「背負い過ぎんなよ」
そう言って父さんは俺の頭に手を置く。
「俺は馬鹿だから、シオンが何考えてるとか
何を抱えてるのかとか、んな事は分からん」
ガハハ、と笑いながら話を続ける。
「だけど、お前は俺の息子だ」
「…ッ」
どこかで思っていた。
俺は、息子と呼んでもらう資格がないと
父さん、母さんと呼ぶ資格がないと
でも、だけど、違った。
「守るものがある者は強くなるよ」
「強くなるよ、誰よりも」
「流石は俺の息子だ」
笑いながら、わしゃわしゃと俺の頭を撫でてくる
小っ恥ずかしいけど、悪くない。
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